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妖精の住処  作者: 速水零
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妖精の黒い思い出

あらすじ

涼の黒歴史スポットに行った


「やっぱり泊まるところって此処なのね」


「まあ、思い出の地を巡るといえばここだろうな」


「そうだけど、もっとちゃんとしたところが良かったわ」


「そういうな、安く済んでお得なんだから」


 涼と柚が食事を終えた後やってきたのは漫画喫茶だった。


 以前柚を送ろうとした後に泊まったところであり、一応思い出の場所でもある。


「そういえば、ここって涼と立場が入れ替わる夢を見たところでもあるのよね」


「ああ、よく覚えているな。確かそんなこともあった気がする」


「私にとっては夢史上一番大きいやつなんだから、忘れないでよね。まあ、私も全部覚えているわけじゃないけど」


「それで起きたあといろいろあって僕は浮波から柚って呼ぶようになったんだよな。懐かしい」


「ちょっとしかいなかったけど案外いろんなところに思い出が眠っているものね」


 涼達は前回同様ソファブースを借りる。


 前とは違い、今回は柚が起きていて、まだそこまで遅い時間ではない。


「漫画でも読むか?」


「んー、紙の漫画って読みにくいのよね。せっかくパソコンあるし、何か映画でも観ましょ」


「そうだな」


 前回はこのパソコンで妖精についてたくさん調べた。


 もちろん涼は自宅に戻ってからも図書館で本を借りて調べたり、インターネットを用いたりして調べたが、一向に手がかりが見つからなかった。


 ちなみに、河原にサイクリングに出かけるたびに、柚の入っていたダンボールを探しているが、不思議とあの「拾ってください」のダンボールも見つからない。何も入っていないのだからダンボールを持って帰ろうと思う奴はいないと思うが、なぜだろう。


 一番身近なヒントもなく、最近柚の体の正体を調べようという意欲が薄れていった。


 二人は涼の友達のアニメオタクにオススメされたアニメ映画を鑑賞し、すぐに眠りについた。




「なんか変な夢見なかった?」


 朝柚が目を覚ますと、すでに涼は起きており、コーヒーを飲んでいた。柚は毛布の上が完全にベッドなので寝心地が良いが、涼はソファの上で丸まって寝たため、眠りが浅かったのだろう。


「見た。柚もか?」


「うん、あんまり思い出せないけど、また私が大きくなってて、涼が小さい話」


「僕もそんなのを見た。不思議だよな。前もここでそんな夢を見たし、単純にその思い出があるからっていう理由なのかもしれないけど……夢って不思議だ」


「そうね。ちなみに、涼はどんな夢を見たの?」


「確か柚の家で暮らしてて、僕は基本的に家から出なかったな。ばれるリスクが大きいからって。柚に参考書を買ってもらって勉強していた気がする。暇だから英語以外にもフランス語やドイツ語を勉強したりとかな」


「涼らしいけど、あんまり今の私とは変わらないのね」


「結構違うぞ。料理は不規則にきたし、柚はスマホを一台しか持ってない上にタブレットやノートパソコンを持ってないから、ネット環境に接続する手段がないしで生活水準が低かった」


「それが普通よ。逆に涼みたいにたくさんデバイスを持っている方がおかしいもん。高校生が一人暮らししているのもほとんど聞かないし、お金持ちすぎ」


 涼の話を聞いて、柚は自分が恵まれた環境にいるのだと再確認した。


 確かに、普通の男子高校生に拾われてこんな好待遇はあり得ない。柚は密かに涼に感謝するが、言葉で伝えるのは気恥ずかしい。


「そういえば、夢では僕が一時的に体が大きくなる時があったな。うん、着ている服も同時に大きくなる時があった」


「え……ほんと!?」


「ああ、何かをしたわけじゃないが、夜の十二時ごろに数分だけ勝手に戻るんだ。理由はわからないし、そのくらいしか覚えてないけどな」


「じゃ、じゃあ……もしかして、私も元に戻れる時が来るかもしれないってこと?」


「それはどうだろうな、わからん。僕のは夢だからそうなる保証はない」


 そう、あくまで涼が話である。正夢ということも考えられるが、涼はそんな無責任な話をすることはできない。


 それに、一時的に戻ることができても意味がないのだ。むしろ、戻れる時間やタイミングに規則性があろうと、衆人観衆の中で人間に戻ったら大事件になるから、戻れないほうがありがたい。


「……そうね。夢だもん。そういう設定が付け足されたって不思議じゃないわ。ごめんね、取り乱しちゃって」


「しょうがないさ。それより、もう起きたのならモーニングを軽く食べてここを出よう」


「はーい」


 漫画喫茶を出なければならない時間は早い。


 寝過ごしてしまった客からお金を踏んだくる気満々な価格設定を眺めながら涼は外に出る支度を始める。




「ねえ、今日はどこ行くの?」


「そりゃこの時間から向かうところと言ったら一つしかないだろ」


「んー……あ、温泉?」


「正解。以前柚を攻める一環で温泉の素を買ってきた時があるだろ。あれからいつか行きたいと思っていたんだよ」


「私への作戦なのに涼が引っかかってるじゃないの。でも賛成!」


 涼はバイクのスマホスタンドにスマホを固定させ、地図アプリを開き、前回行った温泉の場所を検索する。


「そういえば、あそこで姫と会ったのよね。なんであんなところにいたのかしら?」


「言わなかったか? あの家族は元々この辺の出身なんだよ。集さんが出世して都心の会社に転勤するようになって、どうせだからってあの家を買って住むことになったんだ」


「へえ、やっぱ集さんってすごいのね。娘には甘々だけど。……それにしてもすごい偶然すぎて神様がいるのを信じちゃうレベル」


「同じく」


 どんな運命の悪戯だろうと柚は考えるが、それならもっと自分にプラスの方向でお願いしたい。


「あー……あの温泉開店時間結構遅いな」


「あー……そうかもね。だってまだ六時くらいでしょ。時間潰すのも面倒だしなぁ」


「せっかく今度は柚の黒歴史スポットに行こうと思ったのに」


「それは涼もでしょ。あの魔法のキスのこと、忘れないからね」


「それはもう忘れていいよ。……じゃあ他の場所行くか。今日あんな夢を見た以上、なんだかあの温泉で姫たちに会いそうな気がするし」


 仲が良い隣人といっても細かい予定は知らない。


 大きな旅行に行くなどは聞くが、実家に帰るくらいは伝えないだろう。


 思い出の場所に行くたびにイベントが起きる以上、早めに撤収した方が良さそうだ。このまま一日中この街にいるといつか柚の通っていた高校の生徒とも出会うだろう。


「確かに、この流れは結構不味いわね。温泉にはむちゃくちゃ行きたいからどっか遠いところに行きましょ」


「ああ、そうしよう」


 涼は地図アプリを閉じ、関東圏内の日帰りで行ける温泉スポットを検索した。


 かなり遠いが、帰り道から大きく逸れているわけではないのでそこの住所をコピーして、再度地図アプリを開く。


 地図を設定し終え、柚との通話もうまくできることを確認する。


「じゃあ、温泉に向けて出発!」


「おーっ!!」


 こうして、柚のPTSD治療の戦いは涼の勝利に終わった。


 まだまだ課題が残っているが、二人なら乗り越えられる自信がある。


 妖精は現代社会で生きていくのが厳しいと深く思い知った。


 そして、優秀な協力者がいれば生活はできることも知った。


 この先、妖精は自分の力のなさになんども挫けるだろう。


 その王子さまも自分が全能でないことに嫌気をさすことがあるだろう。


 だが、二人に後悔はない。


 苦痛を味わおうとも、道が違えそうになろうとも、二人は希望だけを見つめて進む。

これにて長すぎた第6章は終幕です。

なかなかプロット通りにいかず、何度も思いつきでルート変更しましたが、満足です。柚の正体の捜索やダンボールについての話をどこかでやろうと思ったら、書くタイミングがなく、ここまで引っ張っちゃいましたね。

次の章の前にイフストーリーを混ぜたいと思います。


次回(イフストーリー後)

王子さまの噂

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