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妖精の住処  作者: 速水零
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王子さまのリベンジ

あらすじ

バイクでいざ柚の故郷へ

「ここって……」


「ああ、柚と出逢った日に連れてきてもらった裏山みたいなところだ」


 あの時は柚が「良いところに案内してあげる」と言われてやってきた展望台のある小さな山で、夜景がとても綺麗だった。


 そして、柚に涼の家に住むかという覚悟を問いた場所でもある。


 もう一度昼間の景色も見てみたいと思ったので、この展望台が実家巡りの第一スポットになった。


「よく覚えていたわね」


「結構いいところだったからな。地図アプリの3Dビュー機能で道筋を思い出しながら辿り着いた」


「すごっ。あんなに複雑な道通ってたのによく覚えているわね。さすが全国17位の天才は違うわ〜」


「なんか逆に馬鹿にされている気がするんだが。……僕は一度行ったことのある道は大抵覚えているからな。柚の家だってここから歩いていける。それにここはもう3回目だ。忘れないよ」


 展望台は誰も遊ばないような広場の奥にあるけもの道を通っていくことができる。しかし、広場はこの辺りにもっと良い公園が多数あるのでほとんど利用者がいない上に、獣道自体も発見するのが難しい。仮に涼がここに立ち寄ったとしても見つけることはできないだろう。


 田舎なので皆優しく、とてもルーズなのだろうと信じて、広場の隅っこにバイクを停めておく。乗り入れ禁止の立て札もないし、長時間置いておくわけではないから回収されたり、なんてことはないだろう。それでも一応、盗難用ブザーのついたロックをかけた。


「やっぱり人が来ない公園とかって手入れされてなくて酷いな。雑草だらけ」


「仕方ないわよ。ここ公園っていうよりただの空き地だし」


 バイクで踏んだ後の雑草たちはみんな潰れており、軌跡が見れて面白い。


 涼が踏んでも戻ることはないので本当に誰も来ない広場なのだろう。


「あ、ちょっとその前に缶コーヒーを買っていいか?」


「ええ、いいわよ。こういう展望台で景色を堪能するときに缶コーヒーは必須アイテムだもんね」


「おっ、柚もだいぶわかってきたじゃないか」


「そりゃあこれだけ涼と一緒にいれば毒されるわよ」


 最初に来た時涼は「堪能したな。缶コーヒーでも飲みながら観れたら。ま、次の機会に持ち越すとするか。 またの機会があればの話だけど」と言った。


 柚を家族の元に連れて行けば、大きくなれるとまでは思わないが、涼と暮らしていくよりは良いので引き渡してお別れ、という流れになると考えており、もうここに来ることはないと思っていた。


 予想外の出来事の連続で、結局次の機会がすぐにやってきて、そしてまたここに来ることになった。


 好きな銘柄の缶コーヒーがちょうど置いてあったので二つ買っておく。もしかしたら夢中になって一本では足りないかもしれないからだ。


「涼ってこんな缶コーヒーでも会社にこだわってたりするけど、どの会社がどんな味とかわかって買っているの?」


「そりゃもちろん」


「じゃあ今度7種類くらい集めて利き缶コーヒークイズやろうよ」


「それ面白そうだな。柚は別ジャンルでやってみるか?」


「んー、私そんなに詳しいものないわよ」


「最近毎日アイスティー飲んでるし紅茶関係でやってみるか。そこらのドリンクバーで出てくる紅茶よりも僕の淹れるやつのほうが十倍美味しいから」


 初回は柚がこの街の思い出について語っており、二回目は当たり障りのない表面だけ整った会話をしていた。今回はそんな感傷に浸った感じではなく、和気藹々おしゃべりしながら登っている。


「どうだ、久しぶりに故郷に帰ってこれて」


「そうね、すごく変な気分。引っ越しってこんな感じなんだなって思う。自分はここに住んでいて、いろんな思い出があるけど、懐かしさがあるだけ。でも、なんだか不思議ね」


「何が?」


「だって、私は自分のことを人形や妖精サイズでいることが当然になったのに、思い出を振り返る時は私が大きいヒトだった頃の姿が、これも当然のようにやってくる。まるで子どもの時から大きく身長が変化したのを思い出すかのように自然」


「それは確かに面白い話だな。それについて何か感想はあるか? 小さくなった悲壮感がこみ上げてくるとか」


 PTSDも完治したばかりなのに突っ込んだ質問をする涼。だが、この程度じゃ柚は傷つかないと信頼している。


「そうね……確かにもっともっと自由になれたとは思うわ。楽しい高校生活を送れたと思う。でも、だからって今の生活から戻りたいとは思わないわ。少し前の引きこもりだった私なら、元の状態に戻れるのと、今のままでいるって二つの選択が迫られたら、確実に元の状態に戻るって答えたでしょうけど、今の私は違う。


 涼とこうして過ごすのが楽しくて、元に戻りたいとは思わないわ。そりゃ悲壮感がちょっともないとは言わないけどね。


 だから、私はこの変化には色々思うことあるけど、ある意味運命なんだと思う。体が小さくなって、遠く離れた所に捨てられたように置かれ、涼に拾われる。至って自然の流れだったんだと思う」


「まあ、人形姿だと美味しいもの食べ放題で、掃除洗濯料理に片付けとなんでもやってくれる(しもべ)がいて、最高の環境だしな」


「うん、それは確かにプラスだわ。こんなイケメン完璧超人になんでも世話されるなんて、女子が思い描く一つの夢よ。でも、もう少しまともな性格だと嬉しいわ」


「まともな性格じゃない僕は、明日からの料理を全て菓子パンと栄養剤を砕いた粉にしようと思う」


「冗談だって、本気にしないでよ。……ほら、展望台に着いたわよ」


「ああ、よくわかるよ。すごく綺麗だ」


 遠くに見える山陵に俄然に広がる森、そして間に栄えている街たちとの協和がとても美しい。


 普段なら耳をつんざくようなセミの泣き声が聞こえてくるが、それさえも風流で、何故だか心を和ませる。


 夜には星空も見え、夜景も楽しめるスポットだが、昼間に来ても大満足だ。


「それって私より?」


「もちろん」


「ちょっと、そういう時は「君の方が綺麗だよ」とかっていうもんでしょ」


 誰もいないことはわかっているので柚は涼の肩に乗っている。


 ガシガシと足踏みして憤慨を態度で示してやった。でも体重二百グラム前後の柚が踏みつけたところで涼は全く痛くない。


 肩のプロテクターを蹴っている分柚の方が痛そうだ。


「その台詞は知っているけど僕、まともじゃないから」


「……ったく、いつまで根にもっているのよ。少しくらい可愛いっていってくれてもいいじゃない」


「ん? 何か言ったか?」


「ううん、なんでもない」

 

 しばらく涼と柚は古びたベンチに腰掛け、缶コーヒーと共に景色を楽しんだ。


 そこまで山頂は高くないが、元々の標高が高かったため、あまり暑さを感じなかった。


「あの、すみません」


 ビクッ涼と柚の肩が震え、涼は思わず振り返る。


 ここはほとんどの人が知らない、いわゆる穴場スポットのはずだ。最近誰も来なかったことからしても誰かが来る確率はゼロに近い。


 振り返った先にいた人は――


何がリベンジってただちゃんと缶コーヒーを持って訪れるってことです。二回目にやりましたが、僕の中であれは次の機会には入らないです。

缶コーヒーないと絶景を楽しむ要素が減ったと思う人は僕だけじゃないはず……

僕はコーヒーツーリングというバイクで走って行き着いたところでコーヒーを淹れるのが趣味なので、尚更缶コーヒー+絶景LOVEです。


次回

決別

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