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妖精の住処  作者: 速水零
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思い出の地

あらすじ

最終段階の通達をした

「そりゃ、僕が最初に柚を乗せるのはそこに行く時だって決めていたからな」


「へえ、どこだろう? ……まさか、あの伊豆キャンプで行ったところ!?」


「いいや、それも最有力候補の一つだったけど、別に柚が自然の中で放置されても大丈夫になるようになってほしいわけじゃないし、ここまでかなりの勢いできているからこそそういうトラウマ現場は時間を開けた方がいいと思う」


「まあ、どこでも行けるとは言ったけど、実際想像するとちょっと身震いするわね」


 PTSDが治りかけたとはいえ、トラウマを作った原因に立ち向かえるようになるか、といえばそうではない。


 今回の完治とはトラウマ現場でも平然と過ごせるというのではなく、PTSDによって外に出られなくなったという疾患の完治である。


 この最終段階は実際はほとんどおまけみたいなものだ。でも、一度は行っておきたいという思い出の地である。


「それで、どこ行くの?」


「それは明日のお楽しみだ。柚と僕の二人は行ったことがあるから途中でわかっちゃうだろうけどな」


「途中でわかるなら今言ってくれてもいいのに……」


 涼がここまで事前に計画を立てていることは稀だ。それほどその場所に思い入れがあるのだと悟った柚は非常に気になるが、どう尋ねても涼が話さないので諦める。


「ちなみに、今回は泊まりになる」


「え……無茶苦茶ハードじゃん」


「そりゃ最終段階だからな。でも、今回はキャンプしないで室内で寝るから安心しな」


 キャンプ場も探せばありそうだが、まだ大きなシートバッグを持っていないので、荷物を持っていけない。


 ほとんどおまけと言っても最後の試練要素は付けたいので、涼は泊まりがけで行くことにした。


「なら……いいわ。明日は朝早いの?」


「いや、いつも通りでいい。9時半ごろに家を出る」


「了解」


 柚が準備するものはほとんどないので、突然の泊まりがけ旅行でも慌てることはない。


 それでも、柚はどこに行くのか考えないようにしながら早めに眠りについた。




「一泊二日の旅行に行くっていうのに今日もサイクリングしてたの?」


 呆れるように柚はため息を漏らす。


「まあ、日課だからな。それにキャンプじゃないとはいえ、初めてのお泊まりツーリングだからテンション上がっちゃって、いてもたってもいられなかったんだよ」


「まるで遠足を楽しみにして眠れない子どもね。テンプレ通り風邪ひいたなんてないでしょうね」


「それはない。ほら、朝ごはんできてるからちゃっちゃと食べてくれ」


「まだ8時前なのに……」




「よし、では、出発!」


「おー!」


 涼はメッシュ生地のライディングジャケットをTシャツの上に羽織っている。遠出のツーリングなのだからプロテクターは必須だ。


 今回、柚は胸ポケットに入ることができないので、涼のウエストバッグに入っている。


 ウエストバッグは財布や鍵などの貴重品を手元で管理でき、高速道路を走る時も券を取り出しやすいので大変便利だ。バイク用品メーカーにちょうど良いのがあったので、若干予算オーバーだがいの一番に購入した。


 柚は今回も完全分離型Bluetoothイヤホンを通じて涼と通話しながら走っている。


 涼は以前集にBluetooth接続可能なインカムを買ってもらっているので、ヘルメットを装着したまま、耳を塞がずに通話ができる。


(あの時柚とこうしてバイクで出掛けられたらなって思っていたけど、想像以上に早く達成できたな。やっぱり一人で走るのもいいけど、誰かと会話しながらの方がずっと楽しい)


「自転車だと私も景色が楽しめていいんだけど、これだとあんまり楽しめないわ」


「そりゃ楽しめる位置に置いたら柚が吹っ飛ばされるからな。しょうがない。顔だけ出せば右側の景色が楽しめるだろ」


「そうね。バスに乗ってても全方向見れるわけじゃないし、絶景ポイントあったらバッグの位置変えてね」


「了解。ちなみに、これマニュアルバイクだから、シフトアップやシフトダウンする時に、多少ノックバックがあるから気をつけてな。油断して乗り上げると飛び出るから」


 いくら柚が軽くても時速五十キロで走るバイクから投げ出されればただじゃ済まない。


 柚用のプロテクターも用意しようと思った涼だが、西洋の鎧のようなものしかなく暑苦しいと柚が反対した。今回はウエストバッグに衝撃吸収剤を詰めているので、それでなんとかなるといいが。


「結構信号に止まるわね。流石都会」


「まあ都心を通って行くからな。しばらくは信号だらけでなかなか進まないと思う」


「運転手は大変ね。私渋滞とか大っ嫌い」


「大好きなやついないだろ。僕も国道走ってて渋滞にハマった時はイラッときたな。半クラッチがどんどん面倒になってくる」


 マニュアル車は渋滞に弱い。少し進むだけなのにクラッチを切る、シフトダウンする、半クラッチにする、進んでクラッチを切る、ニュートラルに入れると五行程も必要だ。クラッチを握る手が徐々に痛くなるのも辛い。


「でもそれにしては進んでいるようでよかったわ。これで目的地に行けないなんて嫌すぎるもん」


「そうなりそうだったら高速道路使うから」


 


 しばらく走ると都心を抜けてきたのか大通りでも車通りが減った。


 場所を確認すると春日部付近らしい。近くにある涼の知っている地名が春日部であって少し違うかもしれないが、気にしない。神奈川県民にとって埼玉は異界なのだ。都心を抜けるのが面倒で涼もあまりサイクリングで行かない。


「ここで休憩するぞ」


「はーい。もう家を出て二時間くらい経った?」


「もっと経ったかな。三時間弱。そろそろ昼ごはんの時間だけどまだ平気か?」


「うん、ずっと座っているからお腹減らないし。でも涼が食べたければ別にいいわよ」


「いいや、僕もまだ大丈夫。コーヒー買って10分くらいしたら出よう」


「はーい」


 こまめに休憩を取るのはバイクにとってもライダーにとっても良い。


 地図アプリの予想通りに進んでいるので、このままだともう一度休憩を取るくらいで到着するだろう。


 涼たちは休憩に寄ったコンビニでアイスを買い、周りに見られないようにシェアして食べる。


「冷たくておいしー!」


「今日も暑いからな。これメッシュじゃなかったら死んでる」


「そんな暑そうなの着てるからよ。プロテクターが欲しいのはわかるけどさ」


「いや、走っている時は涼しいんだけど、止まった時辛い。喉渇いてくるし、泊まりで正解だったな」


「あ、じゃあそこまで遠くはないんだ」


 涼の口ぶりから柚は日帰りできるところだと察する。未だ柚はどこに向かっているのか分かっていない。


「んー、高速使ったり結構頑張れば1日で往復できるからな。でも、やっぱり泊まりで行きたいじゃん」


「妙にこだわりというか信念があるんだから……じゃあそろそろ行く?」


「ああ、再び出発!」


「おーっ!」




「……ねえ」


「なんだ?」


「もしかしてさ、涼の言っている目的地って……」


「そう、その推測通りだ。意外と時間かかったな」


「そりゃここに来るとは思わないわよ!」


 コンビニで休んだ後数時間走り、とうとう涼たちは目的地の前に辿り着いた。


 柚はここに着く30分前に気がついており、涼から正解をもらっていた。


 看板や景色を見れば柚でもわかるだろう。


 そう、ここは涼と柚の思い出の地であり、柚のお気に入りの場所でもある。いや、お気に入りの場所だった。


(たしかにここは私も涼も行ったことがあるわ。ううん、私が涼を連れてきたところ。私の懐かしき思い出の地)


 柚は周りの光景を目にして涙を浮かべる。


 ふと様々な記憶が思い浮かんでは消え、思い浮かんでは消えていく。


 伊豆キャンプで行ったところでもあるまいし、今更どこにいくのが試練なのだと柚は思ったが、納得がいった。




 最終段階、それは、柚の故郷巡りである。

 

涼が住んでいるところはアバウトに決めており、柚の故郷も栃木のどこかと曖昧にしているので実際どのくらいかかるのかわかりませんが、片道だけでも結構疲れますし、時間かかります。往復できなくはないですけどね。


次回

王子さまのリベンジ

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