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妖精の住処  作者: 速水零
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最終段階

あらすじ

木下塾の起源がそこにある

 バーベキューは滞りなく終わり、遊びに来た人たち全員が帰っていった。


 バーベキューの片付けをだいぶ手伝ってもらったおかげで、涼がすることはほとんどない。


 30分とかからずに全て片し終え、涼は自室に戻った。


「随分と楽しそうだったわね」


 自室に入ると柚が犬用ベッドで横になり、スマホで動画を見ていた。


 動画を一時停止し、涼を見上げる。


 その顔には嘲るような笑みが浮かんでいた。


「何がおかしいんだ?」


「いいえ、別に。ただ、男子高校生が幼女たちに囲まれてバーベキューしている姿を想像しただけよ」


「言い方!」


「何か間違ってる?」


「ま、間違ってない……だが、それは誤解を招くだろ。ちゃんとお隣さんとその知り合いとバーベキューをしていたって訂正してくれ」


「できたらやっとく〜」


 かなりイラッときた涼だが、柚の気持ちはわからないでもない。


 美味しそうな肉の焼ける匂いが漂ってくるのに、食べれず悶々としていたのだろう。


 柚の昼ごはんは手早く作った蕎麦なので格差を感じていた。もちろん柚の分の肉はあるが昼ごはんには間に合わないから仕方なかったのだ。


 涼は事前に説明していたが、それでも柚は羨ましかったらしい。


「ほら、取っておいた肉とデザートの焼きリンゴだ。これで機嫌なおせ」


「ふ、ふん。まあ、許してあげなくもないわ!」


「どこのお嬢様だよ。最近アニメに影響され過ぎてないか? その姿だとホントにアニメキャラみたいなんだが」


 妖精のような姿をしている美少女の柚がテンプレのセリフを吐くと、もう立体映像のアニメキャラのようにしか見えない。


 重度のオタクが柚を見たら歓喜の声を上げ、鼻息を荒くして近寄り、溜まった欲望を発散させてくるだろう。


「ツンデレみたいって言いたいのね。べ、別に、あんたのことなんて全然好きじゃないんだからね! か、勘違いしないでよね! ってやつ? そんなんじゃないわよ。ったくもー勘違いしな……あんなの創作の中だけの生き物よ」


「今実際に勘違いしないでよねって言おうとしただろ。……別に咎めているわけじゃないんだから。それで、今日はもうでかけたばかりだけど、またどこか行くか?」


「何よ、いきなりね。外に出るのは構わないけど、どうしたの?」


「いや、余った肉とかデザートを渡したとはいえ、柚はつまらないだろうから、せっかく予想以上に早く解散になったし、どこか出かけようかなと思ってさ」


「んー。たしかにこれだけじゃ納得はいかないけど、今日はもういいわ。外、暑過ぎるもの。そのかわり、明日はちょっと早い時間に自転車に乗せてもらうわよ!」


「ああ、わかった」


 こうして、長かったバーベキューの一幕はようやく閉じられた。


  


 そして、また一週間が過ぎた。


 あれから柚は涼のサイクリングについて行ったり、無理を言って渋谷に連れて行かせたりと、思い思いの夏休みを送っていた。


 もうどこに行こうが涼がいれば恐くない。そう思える。

 

「今日はかなり面倒な目にあった」


「なんでよ。そんなに私が一緒にいるのが嫌なの!?」


「そこまでは言わないけど、そろそろ外にいることに興奮してちょこまか動かないでくれ。結構バレそうでヒヤヒヤするんだからさ」


 柚は関東圏内でも外れの方に住んでいるため、都心に憧れを抱いている。訪れることも少ない。


 よって涼が柚の東京観光、横浜観光に付き合うとかなり興奮する。体の小さな柚からすればとても大きな世界の建造物なので、興奮度は計り知れないが、もっと落ち着けるはずだ。前はここまではしゃいだことがないのだから。


「うっ……まあ、それは悪かったと思っているわよ。つい赤レンガが綺麗で興奮しちゃった。涼はかなり冷めてたけどね!」


「だって横浜なんて自転車で何度来たと思ってるんだ? 今更赤レンガや中華街で感動しないよ」


「それがデートなら大きな減点ね。恋人との触れ合いでドライな姿はNGよ」


「誰目線で話してるんだよ。僕より恋愛経験ないくせに」


「べ、別に、涼よりは詳しいもん!」


「口調、おかしいぞ。それに大袈裟なほど興奮している小さい子を見ると親は冷静になるものだ」


「誰があんたの娘よ!」


「じゃあ妹か? また涼お兄ちゃんって言ってくれて構わないから」


 しばらく言い合いをしていると、涼は本題を切り出すのを忘れていたことに気がつく。


 観光スポット巡りはリハビリの一環でもあったが、もうそれがリハビリとなる段階はとうに過ぎた。


 そろそろ最終段階に入ってもいいだろう。


 この治療は柚が一人でも外でいられるようになることを目標としているわけではない。どんなところでも柚が涼とともに行けるようになるのが目標だ。


 どんな人混みの街でも、誰もいない獣が出てくる田舎道でも、柚は涼とならストレスなく出かけられるようになった。


 それに、実は涼がトイレに行く程度の時間ならならバッグの中のポケットに入ることで一人でいられるようになっている。


 柚はバッグの中を安全なテリトリーだと思い込むことができるようになったのだ。


 この一歩は非常に大きい。


 ここまで来れたのは、一重に柚の気持ちが強かったからに限る。


「話は変わるが、ここで最終段階に入ろうと思う」


「最終段階? あー、リハビリの。何するの? 流石にバッグの中じゃないで外に放置されるのだけは無理よ」


「それは僕もさせない。何が起こるかわからないしな。最終段階って言っても全く難しいことじゃない。今の柚にとってただのお出掛けだ」


「へえ、じゃあどうしてそんな大袈裟に言い方するのよ」


「まあ、ある意味重要なことだからだよ。明日、その最終段階を行う。バイクで遠出するから、明日は朝早いからな」


「ええ、わかったわ。何気に涼のバイクに乗るの初めてね」


「そりゃ、僕が最初に柚を乗せるのはそこに行く時だって決めていたからな」


 そう、最初から涼は最終段階で向かう場所を決めていた。


 ようやく行けると思うとテンション上がる。


 これを越えれば、柚は正真正銘完治したと言っていいだろう。

この次からの話は一章を書いている時からいつかやりたかった話です。

あの時考えていた展開とはかなり違いますけどね。

ラストスパートかけていきます。


次回

思い出の地

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