木下塾の始まり
短め
あらすじ
涼を見守り隊結成前
バーベキューの締めのデザートが出来上がった。
今回はインパクトと手軽さを兼ねてリンゴのホイル焼きにした。
焼きリンゴが美味しいのは自明の理とまで言える。
幼女たちは涼がホイルを開ける姿を目を輝かせて見守り、一気に拡散した焼きリンゴの香りに感嘆の声を上げた。
このままでも十分美味しいが、エンターテインメント性も出したいので、いくつかのアイスを用意する。
どのアイスを乗せようか、はたまた全部乗せてみるかと幼女たちはキャッキャと騒ぎ出す。
「美味しそうね。私はバニラでいいかな」
「そうね、だいぶお腹も膨れたし、食べ過ぎは良くないわ」
「……太りそうだし」
「あら、愛さんはそんなにスリムなんだから気にしなくてもいいんじゃない?」
「そうそう、スタイルよくてそんなに美人なんだがら少しくらい太っても大丈夫よ」
「これでもいろいろ気を使っているんですー」
子どもたちとは対照に親たちはカロリーを気にしているようだ。
それでも食べないという選択肢を与えないのがこの焼きリンゴの恐ろしいところ。
「小さく取り分けますので、お好みで召し上がってくださいね。残っても僕の夕飯のデザートになるので気にしなくていいですよ」
柚の分も取っておきたいので、残ってくれる方が嬉しい。
幼女たちはアイスを大量に取りリンゴと同じくらい乗せる。このくらいの女の子はあまり見た目を気にしないのだ。そして、自分の食べられる量も気にしない。
生の時とは全く異なる柔らかな食感、リンゴの温かさとアイスの冷たさが絶妙にマッチしている。
「ねえ、ママ、こんどうちでも作ってよ」
「わたしもわたしも!」
「涼お兄ちゃん、また作ってね!」
「ええ、今度やってみましょう」
「楓もお手伝いするならいいわよ」
「涼くんならやってくれるわよ」
皆りんごのホイル焼きを美味しく食べていたことに涼は満足した。
「ねえ、涼お兄ちゃん、またわたしのしゅくだいみてくれない?」
「まだ終わってなかったのか?」
「ううん、もうおわってるけど、かんさつにっきをよんでもらいたいの」
「ああ、そんなこともあったな。わかった」
「えー、わたしのもよんでー」
「わたしもわたしも!」
別に観察日記を読むくらい手間でもなんでもない。
「ねえねえ、わたしのしゅくだいてつだって!」
茜が涼にしがみつく。
今観察日記を読む約束をした以上、今言った宿題とは普通の算数問題集などだろう。
小学校はもうすぐ夏休みが終わるというのに、茜はまだ終わっていないようだ。性格を見るに分からなくはない。
「あー、茜ったらまだ宿題終わっていなかったのね。あれほど毎日コツコツやりなさいって言ったのに」
「えー、だってあそびたかったんだもん。それに、けっこうやったよ!」
「そう言っても半分は残ってるんじゃないの?」
「うっ……な、なんでわかったの」
「そりゃ、あんたが私に似ているからよ。ごめんね涼くん、よかったらそっちの宿題も見てくれないかしら? 私も忙しくて監視し続けられないの」
「ええ、いいですよ」
「悪いわね、この子このままじゃ全く勉強しないで夏休み終えそうだから心配だったのよ」
確かに、茜が反省して勉強する姿が想像できない。
茜と勉強会をする日程を合わせると、楓がモジモジとこちらを伺っていた。
「どうしたのかえでちゃん」
「ん、なんでもない」
姫が楓の異変に気がついて声を掛けるが、楓は嘘をつく。
涼はそのやりとりを見て、楓が仲間はずれなのを嫌がっており、自分も涼に勉強を見てもらいたいのだと悟った。
「もしかして、楓も一緒にお勉強会をやりたいのか?」
「う、うん……でも、わたしもうなつやすみのしゅくだいおわってるし……」
「別に、他のお勉強をすればいいだろ? 姫のやっているアプリを一緒にやろう。他にも楓が好きそうな問題を用意しておくから、遠慮しないでいいよ」
「ほんと!! ありがと!」
楓は今日見せた中で一番の笑みを浮かべる。
「うちの娘まで悪いわね、涼くん。私としても涼くんに勉強を見てもらえるのは大助かりだわ。この子が初めての子供だからどう育てていけばいいのか不安だったのよ」
楓の家も姫の家同様に勉強方法や教育方法を模索していたらしい。
涼の住んでいるところは高級住宅街なだけあって教育熱心な家庭が多く、お金もかなり持っているので、様々な塾や家庭教師を習わせたりする。
それでも教育方法は十人十色で、学問に王道はない。悩んでいるところに天啓のような存在、涼が現れた。
この勉強会から次第に木下家で小学生が度々集まるようになり、近所に塾がまた一つ増えるのであった。
これでバーベキューは終わりです。最後に出てきた木下塾、これがまたのちに重大な役割(?)を担うことになります。
ちなみに、実在する木下塾とは全く関係ありません。主人公の名字が木下なだけです。
次回
最終試験