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妖精の住処  作者: 速水零
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火起こし

あらすじ

幼女たちがやってきた

「柚を持ってきたいのか?」


「うん!」


「んー、火は危ないから今日はやめておこうか。姫だって柚が燃えちゃうのは嫌だろ?」


「いやっ!! ならやめる!」


「ああ、そうしよう。これから火を起こしてお肉を焼こうか」


「まってました!」


 人形に優しい姫はすぐ聞き入れてくれた。庭の中なら涼がいなくても大丈夫とはいえ、少女三人に囲まれるのは避けたい。


 それに、その親も危険だ。姫たちは精巧な人形だと思っているが、大人が見れば異常な人形だ。なんとか愛と集には高い人形ってことで通せているが、何度も見てればいずれ誤魔化せなくなる。


 柚の服を調べる過程で、涼は大人が趣味で買うような人形もたくさん見てきたが(もちろん手の込んだ普通の人形だ)、質感は似たものだとしても、柚の姿は完全に人を小さくしたものだから、明らかに違う。


「今日はうちの茜まで悪いわね」


「いいえ、姫とはすでに約束していましたので、友達が増えても大丈夫ですよ」


 茜の親というだけあってとても元気のある母親だ。よく似ている。

 

 三十代前半くらいに見えるが、実年齢はプラス五年くらいらしい。


「ねえ、涼くんってどこの高校に通っているの?」


「翔央高校です」


「え! あの翔央!」


「すごーい! やっぱり頭いいんだー。イケメンでスタイル良くて性格良くて勉強もできる。涼くんってモテるでしょ?」


 涼の高校は全国的に進学校だと認められているエリート校だ。地元の人が知らないわけがない。


 マダムたちの涼を見る視線が猛禽類のように鋭くなった。


「ま、まあ、そういう話もよくいただきます。お付き合いとか苦手なんですけどね」


 こういう時は否定するよりもやんわり肯定してやる方が良い。謙遜は美徳だが、やりすぎは鼻につく。


「これが【カンペキチョージン】の涼くんなのね。会った時からわかったけど、評判以上」


「なんですかそのカンペキチョージンって」


 茜の母親、恵が不安なあだ名を涼につけている。評判以上ということは何処かから涼のことを聞いているのだろう。明らかに茜しかいないが。


「茜が前に涼をくんの家に遊びにきた時の話をする時そう言ってたのよ。テレビかネットの動画で見て覚えた単語を意味も知らずに使ってたから、正直そんな子いないでしょって思ってたんだけどね。この前もテレビのCMに出てきた俳優を見て涼くんの方がカッコいいって言ってたし」


「私もそれ聞いたわ。楓もドラマに出てきたイケメン俳優を見て涼くんの方がすごいって言うし」


 楓の母親、花も楓から聞いた誇張満載の話を語り出した。


「ほんと、涼くんはモデル事務所に入っていても不思議じゃないわよね。むしろなんで入ってないのって感じ。涼くんって勉強ができるだけじゃなくて運動もできるし、料理も上手でピアノもプロ級なの!」


「「え、ほんと!?」」


 本当の姦しいとはこのことをいうのだろうと涼は思った。愛の口調もおばさんの井戸端会議みたいになっている。


 そして、あれこれと涼の情報が流出していく。


 もっと広い「世間」まで話が拡散しそうな流れになってきたので、涼は止めようとしたが、くいくいっとサマージャケットの裾を引っ張られた。


「ねえはやくおにくたべたい!」


「火おこしもしたいです!」


「涼お兄ちゃん、はやくやろうよー!」


 置いてきぼりにされた幼女たちに不満が溜まり始めたらしい。


 三人とも頬を膨らませ、上目遣いに訴えかけてくる。涼はその様子を見て可愛いと思うが、それは胸にしまった。


「悪い悪い、お母さんたちとの話に夢中になっていたな。じゃあ火起こしをやるか」


 涼は所詮噂になって終わるだけだろうと切り捨て、火起こしの準備を始める。


「「「はーい!!」」」


「元気が良くて大変よろしい。では、まず先に新聞紙を丸めます。茜、グジャグジャにしてみて」


「あ、わたしもやりたい!」


「わたしもわたしも!」


「わかったわかった、二人もやろうか。はい、新聞紙」


 テーブルの上に置いてある昨日の朝刊の1ページを三等分にちぎって渡す。


 腹に抱えるように体全身を使ったり、きれいな泥団子を作るようにこねくり回したり、膨らんでは殴って小さくしたりと、それぞれ思い思いにくしゃくしゃに丸めた。


 空気が内包されるように丸める方が良いのだが、小学一年生相手にそこまでは言わない。楽しければそれでいいし、失敗して学ぶことも大切だ。


「じゃあ次は細い木の棒を丸めた新聞紙を覆うように置いていくよ。3つ集めてやってみな」


 家でバーベキューをすることはなくなったが、涼の家には薪と本格的な炭がいくらか置いてある。何年も前に買ったものだが、湿気ていないので大丈夫だ。


 涼の家にあるバーベキュー台は本格的なもので、これ単体で十万円近くする。


 立って扱う設計になっているが、火を起こす部分は子どもでも届くので、茜たちは背伸びしながらぐしゃっと細い薪をばら撒いた。


 弾かれて火がつかない薪もたくさんあるので、それだけは取り出す。


「よし、それじゃあ中くらいの木をその上に被せよう!」


 そう言うと三人は再び薪をばら撒いて新聞紙が潰れるほど覆い尽くす。


 隙間はいくらかあるので、しっかり風を送ってやれば付けられるだろう。


「これで火起こしの準備は完成だ。マッチは危ないから僕が火をつけるよ」


 えーっ!と小さなブーイングが聞こえるが、そこは井戸端会議をしていた母親たちが子どもを宥める。


 三人とも良い子なのでしっかり聞き分けた。


 涼は長いマッチに一発で火をつけ、隙間から新聞紙を燃やす。


 火が勢いよく広がっていき、細い薪に移っていく。


 どんどん火が大きくなる姿を見て子どもたちは感嘆の声を上げた。


 もう大丈夫だろうというところまでうちわで仰いだ涼はやりたいやりたいと騒ぐ茜にうちわを渡す。


 その後中くらいの薪が燃え盛るまで幼女たちは交代で風を送り続けた。


 もうやらなくていいよという涼の声は中々届かなかった。


 そして、炭を乗せ、安定した火力が出せるようになる。


 ようやく肉の出番だ。

涼の高校の名前、翔○○だったはずけど何だっけ?と思い出せませんでした。

エリート校ってことだけが重要なので名前を出したのは五十九話のみです。そりゃ忘れるよなぁ。

この話達は息抜きみたいなもので書いてますが、やっぱり好きなことを書くのは楽しいですね。


次回

王子さまのスペック

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