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妖精の住処  作者: 速水零
104/312

不発

あらすじ

新たな作戦を思いついた

 涼が柚を外に出すための作戦として選んだ武器とは何か。


 それは【温泉】である。


 涼は柚と出逢った次の日を思い出すと、柚は温泉が好きだということが浮かんだ。他にも柚のために面倒な風呂作成させられたり、わざわざキャンプでもお風呂を用意したりした。


 今までの傾向から柚が外に出たいと思わせる有効打は誘惑だと涼は半分誤解している。


 本当は姫の友達が遊びに来たことは置いておいて誘惑と、涼への恋心が合わさるのが有効打となるが、それに気がつかない。


 従って涼が先ほどコンビニで買った商品は温泉の素だ。


「ねえ、そういえば何買いに行ったの?」


「ん? ちょっと欲しいものがあったんだよ。ほら、これ」


「なにこれ……あ、温泉の素! いいわね!」


「だろ。そういえば柚が来てからうちで使った覚えがなかったから、久しぶりに温泉気分に浸りたくなってさ」


「確かにそうね。私も最後に温泉に入ったのなんて初めて姫と会ったあそこの温泉な気がする。まあそう滅多に入りに行くものでもないんだけどね」


「そうか? 僕は結構好きで二ヶ月に一回はどこか入りに行きたくなるし、毎年何処かのタイミングで箱根とか一人で行くけどな」


 涼が住んでいる神奈川県には有名な温泉地箱根があり、気軽に行くことができる。しかし、涼は神奈川県でも東側の方なので西端に近い箱根は歩いて行けるほどではない。


 一人旅が好きな涼は温泉巡りをよくやる。いつもは自転車で関東、静岡、山梨などを中心に走り回るが、温泉に行くときはいつも電車だ。汗をかいた後入る温泉は格別だが、その後また汗をかきたくはない。


 バイクを手に入れたので今後は電車を使わなくても良いのが嬉しい。


「なんで一人?」


「温泉くらい一人でのんびり入りたいだろ」


「基本一人じゃん」


「あー、そうだな。最近柚と二人ってことが多いから失念してた」


「……ま、まあそうかもね」


 赤くなりながらも柚は動揺を悟られないように少し早口で答える。


「じゃあ今日はこの温泉の素を楽しもう!」


「おー! ……ねえ、私一人だったらその温泉の素一袋で一年くらいもつんじゃない?」


「んー、これ一袋で大体160リットル分の水をいい感じに染められるとして、柚の風呂はグラタン皿でどう考えても500ミリリットルも水は入らない。まあ分量をしっかりすれば一年もつな。だからってこれをあげるわけにはいかない」


 そんなことしたら逆に引きこもりに拍車がかかるに決まっている。


 涼の作戦はこうだ。


①久しぶりに温泉の素を用意し、温泉に最近入っていないことを想起させる


②いざ入るととても気持ち良いが雰囲気が足りない、シチュエーションが悪い


③本物に入らないと気が晴れない。


④もうだめ、入らなきゃいけない衝動に駆られる


⑤外に出よう


 無駄に工程を増やしているが要するに本物に入りたいと外に出させる作戦だ。


 涼はいい線いっていると思っている。


「そう、じゃあ、今度お小遣い溜まったら買っちゃおうかな。温泉の素って一回でジュース代溶けるからわざわざ買おうなんて思ったこともないけど、私の体なら一回一円を切るし」


 流石に個人的なお金の流用に関しては涼も口は出せない。作戦を早めなければ。


「ああ、それは別に構わないが、面倒だから分量計るのは柚がやってくれよ。ただでさえ一袋の量が少ないのにそれをまた四百分の一して入れるのはキツイ。柚ならあんな粒でも摘めるんだろ」


「そっか、普通はあれを摘めないのね。私からしたら豆みたいな感じになると思うけど。ほんと、体のサイズの差ってすごいわよね。もう涼が大き過ぎるってのには慣れたけど、よく見る動画のせいで感覚が少し狂う」


「もう見るのやめなよ。半分中毒になってるぞ」


「善処するわ」


 そして夜、風呂の時間がやってくる。


 自信がある分涼は普段よりも浮き足立っている。


 自分が冷静じゃないと思った時、涼は勉強をするタイプだ。夏休みの宿題がサラサラと片付いていき、これはますます柚と外に出るための時間が作れるな、とテンションが上がって、また頭が冴える。


「ああ、やっぱ温泉ってのは気持ちがいいわね。久しぶりに満足した気がするわ」


 柚が風呂から上がった柚はすでに寝間着をきているが少し体には合ってなく、上気した肌が僅かに露出している。同じ部屋にいるとどうしても柚が高い金を払って買ったシャンプーの良い香りが鼻腔をくすぐる。


 人形サイズとはいえ女の子は女の子。風呂上がりの艶かしい姿には心惹かれる涼だが、だいぶ慣れてきた。それに、今は他にやるべきことがある。


 柚は風呂上がり一番に感想を述べ、予想通りとても良い結果が出た。


 でも、聞きたい言葉はそれじゃない。


「そうか、でも他に何か思うところがあるんじゃないか?」


「他に思うこと?」


「ああ、何か足りないと思ったりとかしなかったか?」


「んー、まあ温泉の素だし、景色の良いところが良かったり、不自然に纏わりついてくる感じがあるとは思うけど、しょうがなくない?」


 ああ、その言葉が聞きたかった。工程②は達成。次は本物への執着を煽る。


「そうなんだよ。いつも僕もたまにはって思って買ってみては後悔するんだよな」


「彼女作りみたいに?」


「今それを出すなよ……ちょっと悲しくなる」


「でもわかるわ。やっぱ本物かなってなる」


 よし、工程③もだいぶ進めた。


 だが、ここで涼と柚の価値観の差から問題が発生する。


「だよな! 本物の温泉はやっぱりすごい。だからちょっと行きたくなったりするよな」


「そうそうそう。でも、温泉の素で気分味わえたからしばらくはいいかなってなったりするのよね」


「あーそうそ……う? しばらくいいかな?」


「うん。満足するわよね」


「そ、そうか。不満はあっても満足したと自分を説得して終わるのか」


「どうかした?」


「いや、なんでも」


 柚と涼は温泉好きではあるが両者行動力が違う。


 それにこれで外に出たいと思ったとしてもあまり涼への恋心を煽ることができていないので効果は薄い。


 全面に押し出せばかなり良い作戦だったが、それを思いつくことはなかった。


 涼が勘違いをしていたために作戦は不発に終わった。

これを書いてて温泉の素に入りたくなり、全国の秘湯というのを買いましたが、行ったことのある土地でも???となりました。やっぱ本物がいい!

涼だって失敗するんですね。次頑張ってください。


次回

患者の気持ち

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