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妖精の住処  作者: 速水零
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初乗り

祝百話!


あらすじ

バイク納車できた

 バイクにまたがり、ハンドルを握っただけでテンションがマックスになっていたのに、エンジンをかけたらそれを大幅に超えてきた。


 エンジンを吹かしてみる。


 ああ、マフラーから聞こえる排気音が涼の心を写すように激しく主張しだす。


「じゃあ行きましょうか」


 このまま眺めていたい気持ちもあるが、走らせたい気持ちの方が百倍大きい。


「ああ、わかった。このままバイク用品店に向かうがいいかい?」


「わかりました。先頭よろしくお願いします」


「慣らし運転中だし、初の公道だ。ゆっくり行こう」


 確かに自転車では車道も走るが、バイクでは初めてだ。原付も乗ったことがないので、公道で体験するバイクの速さや恐さをまだ知らない。


 こういう時はしっかりとした大人に先導してもらってゆっくり慣れていくのが大切だ。


 バイク用品店はヘルメットを買うときにサイズを測ったり、実物を買うために見に行ったことがあるくらいで、そこまで足を運ばない。しかも多数のバイクが置いてある中ロードバイクで入るのは少し恥ずかしいので、電車でしか行ったことがないから道がわからない。


(慣れてない道を通るかもしれないからほんと慎重にいこう。エンストはしたくないな。確か500キロ走るまでは6000回転くらいまで回していいって言っていたから、5000回転いくくらいでシフトアップするか)


 ウィンカーを点灯させ公道に顔を出すと、自動車がビュンビュンと走っており、通してくれる隙を見せない。


 自転車なら何も考えずにサッと路側帯を走るのだが、バイクではそうはいかない。しかもこのYZF−R25は170キロあり、ガソリンも合わせると涼の体重の三倍近くの重さになる。


 普段10キロ前後のロードバイクを乗っている涼には車体が重くて取り回しにくく、公道に飛び出すのが少し恐い。


 だが、今は目の前にバイク歴二十年近い集がいる。その動きに合わせて出ていけば問題はないだろう。


 少し待つとチャンスが生まれ、集は走り出した。


 涼も合わせて飛び出す。半クラッチで速度を上げてクラッチレバーから指を離し、デジタルメーターが5000回転を指すあたりでシフトアップ。


「ハヤッ! ヤバイなこれ!」


 加速が想像以上にすごい。一瞬で涼が普段自転車で走る速度まで上がった。そしてそれを抜いた。


 これはABSがついているモデルでブレーキ性能はロードバイクとは比べものにならないものになっているが、それでも同じ速度域ではバイクの方が恐い。


 速い。


 速すぎる。


 これは、ハマる。


 自転車とはまた違う風を切る感じだ。自分で漕がない分爽快感がないのかもしれないと思った時もあった涼だが、バイクと体が一体となって先に先に進むことは格別に心地よい。R25を自分の分身のように思う。初めての感情だ。


 だが興奮ばかりもしていられないのでしっかり集を見て学ぶことにする。


(5000回転は少し高すぎるかもしれないな。ちょっと集さんとの距離が近くなりすぎたし、スロットルのひねり方も抑えないと身体が吹っ飛ばされそうだ。もう少しジワジワ開けていこう)


 ゆっくりゆっくり、確かめるように涼はR25を操る。免許を取ったのは一年前。バイクを試乗するには本人名義のクレジットカードが必要な上に、20歳以上と決められているから車校で教習車(CB400スーパーフォア)に乗った時以来一度も涼はバイクに乗っていなかった。


 かなりのブランクだが乗り方は体に染み付いているようだ。


 あの時乗った教習車を思い出せばまだこのバイクの方が軽い。カーブもしっかり曲がれるだろう。


 そう思っていたら早速カーブがやってきた。


 シフトダウンして速度を落とし、ロードバイクと同じようにハンドルを切らずに車体を傾けてゆっくり曲がる。


 あれだけ重かったバイクなのにこんなにも傾けやすいなんて不思議だ。


 駐車場でエンジンを吹かした時はなんて大きな音をだすやつだと思った涼だが、公道に出て見ると印象がガラリと変わる。


 周りの環境音がうるさい上に、涼はフルフェイスヘルメットに耳を覆われているのでノーマルマフラーから出てくる音はそこまで大きくない。だが試乗インプレッション動画や納車レビュー動画で見たときと同じ音が聞こえてくるとそれだけで胸が高鳴る。


(合法の範囲内でマフラー交換をするのもアリかもしれないな。スリップオンマフラーなら僕にも簡単にできそうだし、そこまで値が張らないはずだ。集さんにオススメのメーカーとかないか聞いてみようかな。集さん自身はノーマルマフラーだけど)


 信号停止からの発信もエンストせずなかなかスムーズにシフトアップできた。少し急なカーブや路上駐車を避ける時も安定してバイクを操縦できたので、初乗りにしては上々である。


 バイク屋を出て十分くらい走らせると涼も一度だけ行ったことのあるバイク用品店に辿り着いた。


 車よりもバイクの方がたくさん止められる珍しい駐車場には他の客のバイクがズラリと並んでいる。涼はバイクのネットニュースを見たり、いろんな動画を見たりしているので、そこそこバイクの種類も知っていると思っていたが、全く知らないバイクがいくつもあった。


 三台ほど空いているスペースを発見したので、涼と集はそこに停めることにする。サイドスタンドをきっちり下ろし、立ちゴケ(バイクから降りたり乗ろうとしたりする際バイクを転ばせてしまうこと。割とよく起こる)しないように慎重に車体から降りて、しっかり倒れないようチェック。納車初日にカウルを割るなんて最悪だ。


 無事停めることもできたので涼は興奮して辺りを見渡した。前に来た時は平日だったのでここまでたくさんバイクが来ていなかった。それでも驚き興奮したのだが。


 夏にフルフェイスヘルメットを被ったままでいるのは非常に暑苦しいので、納車の時に取り付けてもらったヘルメットホルダーにヘルメットをかける。ここまでたくさんバイクがあれば盗まれることはないと思うが、念には念だ。


「無事初乗りできたようだね。帰るまで気は抜けないけどさ」

 

 集もヘルメットをロックし終え、涼の方を向いた。


 集は時々ミラーから涼の様子を伺っていたが初めてとは思えないほどしっかり乗れていたと思う。車体の慣らし期間中に涼自身も慣れていけば危なげなくバイク人生を送れるはずだ。


「はい、初めはどのくらいの回転数でシフトアップすれば良いかとか、スロットルをどの程度ひねれば良いかなど戸惑うところもありましたが、少しわかってきました」


「確かに初めはいろんなことに悩んだり考えたりするものだろう。でも、いずれ自分はこうするのが好きなんだなって基準が生まれてくる」


 燃費の良い乗り方が好き、とにかく回して回してピーキーな加速を楽しむのが好きなど乗り方は千差万別。バイクの乗り方に正解などないのだから自分の乗り方を模索していくしかない。いや、模索しようとせずとも勝手に体が動くようになるものだ。


「わかりました。もっと探りながら乗っていきたいと思います」


「ああ、そうするといい。ところで、ここに来た理由を言っていなかったね」


「はい。何か用があったのですか?」


 バイク屋まで送ってくれた上に納車手続きの間待っていてくれたのだ。涼は快く集の用事に付き合うつもりである。


「まあね。ここには涼君へのお礼を渡したいと思ってきたんだ」

前書きに祝と打ったタイミングで「そういえば、イフストーリーを書いたから投稿は百でも百話では何のではないか?」と思いましたが、気にしないことにしました。

長いようで短い百日間でしたね。このままもう百日いけるよう頑張りたいと思います。

百話目が僕の大好きなバイクの初乗りシーンで最高です。物語的にはもっといいとこが良かったのでしょうが…


次回

集のお礼

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