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ああ、気持ちよかった。
なんて幸せ。
私は、その男を見下ろす。
浴衣の帯でフェンスに両手を縛り付けてから、思う存分かわいがってあげた。
もっと愉しませてくれると思ったのに、三回放っただけで、もうすっかり果てている。
だらしなく呆けているけど、見れば見るほどかわいい顔立ちをしている。
もうすこし優しくしてあげれば、よかったかしら。
男の鎖骨のあたりに、ほんのりと赤い花のような痣が見える。
これでこの男も仲間になった。
そう思ったら、急激に興味が醒めてしまった。どうでもいいわ、もう済んだ男のことなんて。
さあ、次。
まだまだこんなものじゃ、足りない。こんなに楽しくて気持ちいいこと、我慢なんてできるわけがない。
そう、もっと、もっと……。
よし、あれで景気づけしよう。
ブリスターパックから、白い錠剤を押し出す。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。
口に含むと、ふわりと溶けて、わずかなえぐ味が口に残る。
そして……。
あ。
あっ……はぁ。
きた、きた。これよ、これ。
私はフェンスによじ登って、両手を広げた。
帯を解かれた浴衣が、夜風にはためく。
見え隠れする私の白い肌には、いくつもの赤い花が浮かび上がっている。
どう、きれいでしょ。
目の前にひろがる街も、世界も、なにもかもが、キラキラ輝いてる。
とてもいい眺めだ。
幸せすぎて涙が出てくる。
キラキラがにじんで、もっときれいに見える。
なんだか、飛びたい気分だ。
きっと今なら、どこまでも飛べるにちがいない。
よしっ。
思い切りフェンスを蹴る。
ふわっとして、すうっとして、キモチイイ。
最高だわ。
お腹の底から、笑いがこみあげてきた。
あっはははっ……。
笑い声とともに、ごぶり、と。なにかが喉の奥から這い出してきた。
喉に詰まったそれのせいで、息ができなくなる。
苦しい。
ヤダ、なによ……こ……れ……。
その直後。
全身に衝撃が走り、同時に私の意識は消滅した。