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MAR page 1 / 6

 ああ、気持ちよかった。

 なんて幸せ。


 私は、その男を見下ろす。

 浴衣の帯でフェンスに両手を縛り付けてから、思う存分かわいがってあげた。

 もっと愉しませてくれると思ったのに、三回放っただけで、もうすっかり果てている。

 だらしなく呆けているけど、見れば見るほどかわいい顔立ちをしている。

 もうすこし優しくしてあげれば、よかったかしら。


 男の鎖骨のあたりに、ほんのりと赤い花のような痣が見える。

 これでこの男も仲間になった。

 そう思ったら、急激に興味が醒めてしまった。どうでもいいわ、もう済んだ男のことなんて。


 さあ、次。

 まだまだこんなものじゃ、足りない。こんなに楽しくて気持ちいいこと、我慢なんてできるわけがない。

 そう、もっと、もっと……。


 よし、あれで景気づけしよう。


 ブリスターパックから、白い錠剤を押し出す。

 ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。

 口に含むと、ふわりと溶けて、わずかなえぐ味が口に残る。

 そして……。


 あ。

 あっ……はぁ。

 きた、きた。これよ、これ。


 私はフェンスによじ登って、両手を広げた。

 帯を解かれた浴衣が、夜風にはためく。

 見え隠れする私の白い肌には、いくつもの赤い花が浮かび上がっている。

 どう、きれいでしょ。


 目の前にひろがる街も、世界も、なにもかもが、キラキラ輝いてる。

 とてもいい眺めだ。

 幸せすぎて涙が出てくる。

 キラキラがにじんで、もっときれいに見える。


 なんだか、飛びたい気分だ。

 きっと今なら、どこまでも飛べるにちがいない。

 よしっ。


 思い切りフェンスを蹴る。

 ふわっとして、すうっとして、キモチイイ。

 最高だわ。

 お腹の底から、笑いがこみあげてきた。


 あっはははっ……。


 笑い声とともに、ごぶり、と。なにかが喉の奥から這い出してきた。


 喉に詰まったそれのせいで、息ができなくなる。

 苦しい。

 ヤダ、なによ……こ……れ……。


 その直後。

 全身に衝撃が走り、同時に私の意識は消滅した。

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