追っ手はオネエ
「冷たくないですか?」
「少し冷たいが、直ぐに上がれば問題ないだろう」
私はコルネリア様の水浴びのお手伝い中である。この人は、裸を見られるのは恥ずかしくないのだろうか?
そして、更に気になるのが、コチラに背を向ける形で木にもたれている師匠の存在だ。水浴びを見ない様にしているのだが……いかんせん、距離が近い。近すぎてチラチラと視界に入ってくる。
私ならどんなに危険でも、こんな近い距離に居られるなんて絶対嫌だな……
「どうした?」
「いいえ、なんでも」
不思議そうに見て来る美少女に首を振り何でもないと告げる。
「そういえば、リンドヴァルから殊技の事を聞いた」
暫く無言で水浴びしていたコルネリア様が口を開いた。内容は、私の殊技の事だ
「お前は、これから会う者には殊技は【影を操る】能力であるっと言え。絶対に【闇】だとは言うな」
私は別に構わないが、どうしたのだろうか?
「お前の【闇】は悪用される恐れがある。我々以外に知られないようにしろ」
悪用される様な殊技ではないと思うが、コルネリア様があまりにも真剣な表情をしているので頷いておく
「それと、宝玉を持っている事も悟られるな。紋様は絶対に見られるなよ」
水浴び後、暖かい格好をさせ、濡れて冷たい髪を【風系魔法】を使い乾かして、テント入れて、毛布を掛けた。私、完璧じゃね?
その後、私は外に出て火の番&見張りをしている師匠の近くに座る。特に会話はないまま、時間が過ぎた。
木にもたれて、目を閉じる。眠る事はせず、意識は外に向けて気を張っておく。寝てしまえば、夜行性のモンスター等に襲われる恐れがあるので、野宿の時は寝ない様にしているのだ
目を瞑り、自然の音に耳を傾けていると、唐突に気になる事が浮かんできた。それを近くの師匠に聞いてみる
「そういえば、宝玉を保持したまま死ねば、どうなるんですか?」
死んだら宝玉も消えるとかの設定だったら、もし宝玉を狙う輩が来ても、殺される心配はない筈なのでは? っと思ったのだ。しかし、現実は甘かった……
「死ねば体から勝手に出てくる。宝玉を奪いにきたなら、まず殺されるかもな」
……絶望した! これは何が何でも隠し通そう
「俺が起きてる。寝ていろ」
頭を抱え、「うぉぉ……」っと呻いていると師匠に休む様に言われた。お言葉に甘えて目を閉じて意識を……寝たら、師匠の襲撃が避けれなくない? 少し……いや、かなり警戒しながら意識を手放した
「いでっ⁉︎」
額に強烈な一撃が入った。師匠め……
「起きろ敵だ」
「マジか⁉︎」
まさかの敵襲! しかし、辺りには誰もいない
「何処です?」
不思議に思い聞いてみると……
「時期に来る」
師匠が言うと同時に茂みがガサガサと音を立て出した。ホントに来た!そして、茂みから出てきたのは……
「コレはコレはカーディナリス様。ご機嫌麗しゅう?」
めちゃくちゃオネエが来た。紫の長い髪をお洒落に結い、濃いメイク、奇抜な衣装、何処をどう見てもオネエだった……
それと数人の部下らしき人達。部下は皆んな鎧を着用している
「そして、貴方は……足手まといの子ね。確か【ウィークトゥス】らしいけど、どうして一緒にいるのかしら? 何? カーディナリス様は、こういうのが好みなのかしら? 旅に売女連れて行くなんて余裕なのね」
よく喋るオネエである。いや、普通にオネエはよく喋るものだな。というか、もう身バレしているのだが……情報漏洩半端ない。
そして、相変わらずの売女扱い
「私、また売女扱いですか……」
師匠の売女? そんな筈ないだろう!だから何故、ジャージの女が売女だと思うのだろうか? 売女って小綺麗にしてたりしない? 私の偏見?
「お前がアレをやれ。俺は周りだ」
「私、勝てるんですかね? 一応、あの人がリーダーみたいなんですけど……」
「油断さえしなければ、問題ないだろう」
という訳で私がオネエの相手をする事になった。
「嘘でしょ? 私、カーディナリス様と手合わせ出来ると思って喜んで来たのに……まさか、こんな小娘を嬲らないといけないなんて……もぅ!」
こっちが「もぅ!」って言いたい。
「きゃー。師匠。人気者じゃないですか。私の代わりに相手して上げたらどうですか?」
「……」
師匠は私を無視し、スタスタとオネエの部下の元に行く。ちょっとくらい反応してくれても……
「因みに私の階級は【プローウォカートル】よ。さぁ、恐れなさい、平伏しなさい!」
拗ねる私を放置してオネエは話す。
【プローウォカートル】か……下から数えて4番目。上から数えて3番目。普通の人ならヘコヘコと頭を下げて、媚び諂う所だが……
「行きますよ?」
私はしない。多分、私も本来ならその辺りだし……怖がる必要は多分ないだろう
「……これだから、ウィークトゥスは……頭が悪くて嫌になるわ! 天と地ほど差が有るって知らないなんて、幸せね!」
面白い顔をして攻撃して来たので、笑いそうになったが堪えて迎え撃った。相手の攻撃を避けて、華麗な回し蹴りを顔面に決める。
「ボヘェ!!」
奇妙な声を上げて吹っ飛んだオネエ。そして地面に沈んだ……
「ししょー。終わりました!」
あっという間に終わりました。