旅に出ます。探さないで下さい
女の子に手を差し出して立たせてやろうとすると、急に辺りに殺気が充満した。物凄い殺気で、殺気だけで動けなくなるレベルだった
何か、とんでもない奴がいる……
警戒していると、真横の茂みから何かを感じた。そしてそれは凄いスピードで私の元までやってくる
「チッ」
「うそっ⁉︎」
剣を振り下ろす男、私はそれを刀で弾き、後方に飛んだ。とてもじゃないが、受け止められる力ではなかった。かなりの怪力である
態勢を立て直して、相手の姿を見る。かなりのイケメンだった。色黒で銀髪の髪、高身長。右の髪の一部を三つ編みにして髪留めで留めた、珍しい髪型をしている
「リンドヴァル!」
さっきの女の子が、この襲ってきた謎の男の名を呼ぶ。という事は知り合いか……
しかし、この男は美少女には目もくれず、真っ直ぐ私を狙ってくる。何度か打ち合ったが、とてもじゃないが相手出来る自信がない。
ここまで強い奴に会ったのは初めてだ……
危機を感じ、私は殊技を使う。闇から狼を模したモノを数匹作り、一斉に襲わせたが……
「なっ⁉︎」
何故か全て掻き消えた。私の殊技が⁉︎ 嘘だろ⁉︎
私は慌てて魔法を放つ。
魔法は【炎系魔法】【水系魔法】【雷系魔法】【風系魔法】【土系魔法】【光系魔法】【闇系魔法】【力系魔法】が存在する。細かく分けると、もっと有るが今はこれくらいにしておく。私の殊技は闇だが、魔法の闇とは少し違うので同一視はしないように
魔法は撃つまでに時間がかかるし、接近されたり、遠距離から攻撃された場合は防ぐ事が難しい為、基本は前衛に人がいる場合か、もしくは魔法を放つまでの時間を自身で凌ぐ事が出来る場合に使う。
私は後者なので、遠慮なく使おうとしたが……
「嘘っ⁉︎ 発動しない⁉︎」
何故か発動しない。ウンともスンとも言わない魔法に絶望した。何でだよ! 仕方ないので物理で勝つしかない。
男を見ると目が金色に光っていた。
あ……察した。殊技だ
これは男の殊技だろう。でなければ殊技と魔法が使えないのは可笑しい。恐らく、魔法系統を使えなくする殊技だろう。何それ狡い
「ちょっと!」
マジで強い。魔法が使えない今、近接の攻撃しかなく、銃や飛び道具を取り出したくても影の中に有る為、取り出せない。万事休す
「ぐっ」
とうとう、一撃貰ってしまった。腹部に鋭い蹴りが入ったのだ。そして刀を遥か彼方に飛ばされた。
態勢が整わない私に追撃を加えようとする男の剣が私の左肩から右脇腹までを切り裂こうとした様だが、間一髪で態勢を立て直し体を後ろに倒し避けた為、服が破れただけで済んだ。
「……⁉︎」
胸元が破れ、例の刺青が露わになったが気にしない。しかし、目の前の男は気にしてるようで目を見開き動きが止まった。これはチャンスか?
「双方止まれ! リンドヴァル、絶対に攻撃するな。おい! リンドヴァル!」
美少女に止められたのにもかかわらず、リンドヴァルという名の男は私に寄ってきて胸元を掴み大きく開いた。これはセクハラではないだろうか?
「コルネリア様」
「何でお前がそれを……」
謎の男と美少女は目を見開き驚いている。そんなに驚く事なのだろうか?
「これは、ある人に押し付けられて……」
私は王様に押し付けられた事を事細かに説明した。それを聞いた美少女は
「お父様が……成る程……隠し場所というのはお前の事だったのか」
……お父様? え、この子、王族か⁉︎ そして隠し場所って……やはりコレは面倒な物で間違いなかったらしい
「お前の名は?」
美少女に問われたので答える
「三ツ葉 佳月。この辺りの地区なので三ツ葉が苗字で佳月が名前」
この国には地区によりファミリーネームが先の地区と後の地区が有る。私の地区はファミリーネームが先の地区なので【三ツ葉 佳月】なのだ。
「そうか、私は【コルネリア = ボタン=ショーバーレヒナー】そして、お前を襲ったこの男は【リンドヴァル=ロベリア=カーディナリス】」
美少女改めコルネリア様は私の持つドス黒い半球について教えてくれた。なんでも、この黒い半球は初めは1つの玉だったらしいのだが、あまりに力が強すぎて制御しきれず、半分に割り父と第3王子が持つ事になったらしい。
しかし、王様では制御しきれず暴走。黒い玉は負の玉なので、辺りに負のエネルギーをまき散らしたらしい。そして城中が疑心暗鬼に陥り大変な事になったのだとか
「これは花の形をしていてな。真ん中の玉と6つの花びらで出来ているんだ」
その黒い花びらの1つを、目の前に居る【リンドヴァル=ロベリア=カーディナリス】という男が持っているらしい。腕に同じような刺青が入っていたのが確認できた
「コレは制御が難しく、誰もが持てるわけではないんだ。訳あって僕はこの【黒き花】を鎮める為、【白き花】を探す旅をしている。どうだろうか? 一緒に来てはくれないだろうか?」
恐らく、父の隠した黒い半球を持つ私を側に置いて監視したいのだろう。どうしようかな……
というか、この子はボクっ子だ。可愛いな! hshs
「報酬も与える」
それは魅力的だ。王族の人に頼めば再試験も親戚の許可無しで受けられるのではないだろうか?
私は再試験をコルネリア姫に頼む事に
「そんな事でいいのか?」
そんな事ではない。私には死活問題だ。
「分かった。それでいいな。ならば頼む」
こうして私は、何か得体の知れない物を押し付けられた所為で旅に出る事となった。
「あ、両親に連絡しとこ」
両親には事の成り行きを掻い摘んでメールし、兄や親戚には
[旅に出ます。探さないで下さい]
っとだけ入れて……親戚用の端末の電源を切った