初六花戦 (師匠除く)
「避けてみろ」
久遠が殊技を使った途端、動きが変わった。今までは普通に剣を交え、魔法を撃ち、王道な戦い方をしていたのだが、殊技使用後は相手の動く先に剣を置いてくる様になった。
私の足が付く場所に剣が突き刺される。慌てて回避したが、一歩遅ければ足に剣が刺さっていた。それからも、久遠の動きは続く。私が踏み込む場所に剣を置かれ刺されそうになったり、私が避けた先を予測して攻撃して来たり、コレは……
「先を読まれてる?」
先読みか何かの殊技に違いない。私が行く先々を攻撃して来るのだ。間違いない
「コレでNo.5か……」
恐ろしいな六花は……
私も殊技を使う事に。自身の影を鞭状態にして相手に襲わせる。しかし、それも難なく避けられた。先が見えているのなら、当たり前だな
「チッ」
思わず舌打ちが漏れる。師匠はこの男をどうやって倒したのか……あぁ、師匠は殊技殺し有ったんだった
師匠の戦い方は真似出来ない。ならば、私の戦い方をせねば!
「影よ!」
私は影から作りあげた3匹の狼を奴に襲わせる。それに気を取られている隙に相手を狙う魂胆だったが、簡単に避けられて、攻撃された。慌てて回避したが、その先も読まれていたのか、避けた先に剣を置かれた。それを変な体勢になったが何とか避けて、久遠から距離を取る。先程、無理な体勢をとった為、体が痛いが構ってられない
「凄いな……アレを避けるか」
私の武器は柔軟性とスピードだ。師匠にもそこだけ褒められている。なので、若干無理な体勢も取れるのだ!
「体、柔らかいからね」
「ほぅ……」
舌舐めずりをする久遠。イケメンだからサマになっている。狡いな!
「楽しいぞ。楽しい。気に入ったよ女。名前は?」
「名無しの権兵衛です」
面倒なので偽名を使う。まぁ、バレバレな偽名だが。
「……おい。三ツ葉! 妹の名前は?」
「はい……三ツ葉 佳月 です」
「おい! 兄様! 何してくれてるんだコノヤロー!」
何バラしてくれてるんだ、兄よ。折角、誤魔化したのに……兄の方を向くと、何故か兄の顔が真っ青なのに気が付いた。どうした?
「佳月か……覚えたぞ」
「忘れてください。お願いします」
覚えられたくない。忘れてください。切実に!
それからも攻防は続く。相手の先を読み攻撃してくる動きを、私は反射と柔軟性でギリギリ避ける状態が続く。正直、長くは持たない。
息が切れ、動きが鈍くなった私は久遠から距離を取る為、自身の影を針の様な形状にし、相手に飛ばして追撃を交わし、距離を取った。
「女で、ここまで動ける奴が居るとは……」
息を整える為、暫しの休憩中に目の前の男が興奮を抑えられないっといった感じの表情をしながら言った
「……ヤバイな」
師匠から聞いた話だが、黒い宝具や黒い宝玉は興奮作用があるらしく、六花は普段は感情を抑制して、無で居る事が多いらしい。なので師匠は基本無表情なのだ。
師匠は拷問時や敵を殺す時に興奮を抑えられず冷笑を浮かべる事が有るが、黒い宝玉の所為なのだろう。そして、この男も私相手に酷く興奮している様子。コレは本気でヤバイ
「どうどう。落ち着こうよ! 争いはいけないわ! 憎しみは憎しみを産むだけよ!」
「無理な相談だ。初めはリンドヴァルと殺り合いたかったが、お前もなかなか楽しめる」
後半、妙に芝居かかった様に言ってみたがスルーされた。悲しい……
「しかし、時間を掛けすぎたな……そろそろ捕まえた方が良いか。うっかり殺さぬ様にせねばな……安心しろ、宝玉の在り方は後でじっくりと聞く。俺直々に問いただす」
「安心出来ない!」
拷問する気だね! する気なんだね! 全く安心出来ないよ!
さっきも言ったが、黒い方を持つ者は基本、感情を抑制している事が多い。それは興奮して止まらなくなるのを防ぐ為だ。そして、黒い方は男性には影響を及ぼさないが、女性は多大な影響を及ぼす。理性を飛ばしたりだとか、体を壊したりとかの影響らしい。
なので、感情豊かで女である私は黒い宝玉の候補から除外される。
因みに白い方は興奮作用は無いがポジティブ思考になりやすいらしい。そして、女性には影響が出ないが男性には影響が出るとか……
「アイツ、殊技使えたのか? いつからなんだ……」
「殊技はまたズルで手に入れたんだろ? それに六花とマトモに殺り合える筈がない! 久遠様は手を抜いているんだ!」
「そうか!」
遠くから兄と次期当主様の声が聞こえてくる。ズルで殊技手に入れるって……どうやって手に入れるんだよ。殊技は極めた者だけが使える奥義みたいなもんだぞ? ズルで手に入られるモノじゃない。
2人の話を聞いていたら、イライラしてきた。
よし! この怒りを力に変えて!




