19話 開戦
いやーレッサーリッチも考えたものだねえ。少し離れた場所から戦いの様子を見ていて、僕はそう思った。
アンデッドの特性を上手く利用して、人間の戦闘員を上手く街から引き離して足止めし、その隙にアンデッド軍の本隊を街に送り込んで街を潰す。最初から戦闘員との真っ向勝負は考えていなかったらしい。
レッサーリッチの判断は間違っていない。僕が下した命令は、街の襲撃、戦闘じゃない。
戦闘員の殆どをアンデッドの陽動部隊との戦闘に送り出した街には、陽動部隊より遥かに多い本隊を止めるすべはない。レッサーリッチの作戦は上手く成功して、街の戦闘員は殆ど居ない。街はアンデッドに潰される...はずだった。
実際街にはそこそこのダメージが入った。そう、そこそこのダメージしか入らなかったのだ。戦闘員が出払い、その戦闘員が戦っている物より遥かに多いアンデッド。それで何故そこそこ程度のダメージで済んだのか?
それはあの街に居たイレギュラーの存在だ。あの街にはレッサーリッチの想定していないイレギュラーが居た、そう、僕にケンカを売ってきた勇者君だ。
街にアンデット軍本隊が行ったのを見て街に来た僕とアイリスだが、そこで見たのはなかなかに凄い光景だった。
街を埋め尽くす10000のアンデッドと、それを無双する勇者君。
いやいやあり得んだろ、ここまで一方的だと逆に笑えてくるね。
勇者君が光り輝く剣を振るたびに剣から光の斬撃が飛び、その斬撃が1度に数十のアンデッドを消し飛ばす。
アンデッド軍を構成するのは全て下位のアンデッド、いくら弱いとはいえここまで一方的とはね。しかも勇者君自身は全然疲れた様子も無いと来たもんだ、流石に下位アンデッドの数押しで倒せるほど甘くないってことか。
しかも陽動部隊が足止めしていた戦闘員達まで戻ってきた、もう無理だな。
そう思って帰ろうとすると、勇者君と目が合った。オイオイ、この距離で発見されるのかよ。凄いが、別にこの距離で同行できるわけが...ッつ!?
飛んできた光の斬撃をアイリスが間に入ってガードする。しっかしここまで届くのかよ、
僕が居るのは高さ90mはありそうな時計塔の屋根の上だぞ!?おおコワいコワい、さっさと帰りますかね。
結果としてはレッサーリッチの作戦は上手くいった、しかしそれを実行するためには兵が弱すぎた、ってところか。
そろそろレッサーリッチにも撤退命令を出すか。
(そろそろ撤退だ。)
(ッ主!?見テオラレタノデスカ!?コノ度ハ兵ヲ預ケテイタダイタノニモカカワラズ͡コノ様ナ結果二ナッテシマイ申シ訳ゴザイマセン...)
(御託はいい、早く撤退しろ。)
(了解イタシマシタ。)
混成軍 アンデッド軍
・冒険者:500(約150名が戦闘不能) ・スケルトン:5000(壊滅)
・兵士 :800(約300名が戦闘不能) ・ゾンビ :5000(壊滅)
・神官 :100(約10名が戦闘不能) ・レイス :3000(壊滅)