10話 【正義】の勇者
この少女、どうしたものか...与えられる金は無いし与える気も無い。
めんどくさいな、もう適当にあしらっておくか。
「悪いが、金をやることは出来ない。」
「なっ、何でですか!?」
少女が悲痛な声を上げる。だが、情に訴えかけた所で無駄だ。僕が人間のままだったらどうにか仕手あげようと思ったかもしれない、だが僕はダンジョンマスターだ。人間に情は沸かない、むしろ僕にとって人間は資源だ。
「逆に聞こう、何故僕がお前に金をやる必要がある?お前は金の代わりに差し出せる物はあるのか?」
そこまで言ったところで隣にいたアイリスが動く。そして次の瞬間...
ドシュッ
後ろを振り向くと、僕の後頭部に振り下ろされた剣を、アイリスが受け止めていた。
剣を受け止めたアイリスの手に浅くだが傷が出来る。傷は煙を上げ一瞬で再生したが、アイリスは傷を受けた手を不思議そうに見つめている。
一拍置いて剣が黒い煙に包まれ、風化したようにボロボロと崩れていく。これは黒蝶のドレスのカウンターか。
それを見た相手は、驚いた風に急いで剣を投げ捨てる。
僕に剣を振り下ろした相手は、黒髪黒目の日本人の特徴を持った青年だった。
年は僕とそう変わらないだろうが、かなりイケメンだろう。しかも周りにも日本人の美少女が2人、最初の青年に比べれば劣るが、結構な美形の青年が1人の計4人が立っていた。
ああ、たぶんこいつ等が神様の言っていた召喚勇者か。しかしこいつ等に恨みを買った覚えは無いが...
「おいおい、初対面の相手に攻撃とは礼儀がなってないな?」
とりあえず話しかけておきつつアイリスに念話を飛ばす。
(どうだ?勝てそうか?)
(勝てないことはない。どれか1人、もしくは2人までなら問題なく勝てる。でも4人同時なら私でも簡単にとはいかない。)
(そこまでか。出来るだけ戦いたくないな。)
そんなことを話しているうちに、青年が少女に金色の硬貨を渡していた。
「あ、ありがとうございます。」
そう言って少女は何処かに走っていく。そして青年はそれを見送ると、僕を睨んでくる。
「君にはあの子が困っていたのが分からなかったのか!?」
「分かってが、それが何か?」
「じゃあ何故あの子に金をやらなかった!」
「渡して僕に何のメリットがある?」
青年は僕の返事を聞いて、ますます機嫌が悪くなる。そして僕に詰め寄ろうとし、アイリスが僕を守るように間に入る。
「君には人の心という物が無いのかッ!?あんなに小さい子が苦しんでいるのに何も思わないのかッ!?」
「何も思わないよ?そもそも赤の他人だしね。」
ああ、僕はこういう奴が大嫌いなんだよ。自分のやることが正義だと思い込んで、他人にもそれを強要する偽善者が。
青年は僕と話していてもしょうがないと思ったのか、アイリスに話しかける。
「君もそんな奴に付き従うんじゃなくて、僕と来ないか?僕は勇者として君をパーティーにスカウトしたい。」
「マスターは私の全て、私の全てはマスターのためにある。例え死のうとも私はマスター以外に従うことは無い、絶対に。」
勇者はそれを聞いて僕を睨みつけてくる。僕が何をしたって言うんだ?
その時、街の方で大きな爆発音がして、煙が上がる。