第三話
「チックショー。」
俺は、昨日の将棋を下宿に置いてある将棋盤で再現しながら、大声を上げた。
ひどい将棋だ。
自分が、研究してきた将棋を行ったのにもかかわらず、相手の苦し紛れの勝負手を指され、守りを固めてしまったのが悪手になってしまった。
成績が伸び悩んでいる不調の棋士によくある定石や、自分の研究にこだわり、その場で、自分で考えた手が指せない典型的なパターンである。
「馬頭奴また、負けた。」
「あれでも、プロかよ。アマでも、あんな負け方しないぜ。」
「戦後6人目の中学生プロ。調子乗りすぎているんだよ。」
案の上、インターネット、将棋チャンネルの掲示板、ツイッターでは、俺のことをボロカスに書かれている。
俺は、そっと、パソコンの将棋チャンネルのホームページを閉じ、目じりを抑えた。
朝、九時に起きた俺は、朝食もそこそこに、昨日の敗戦の反省会を行っていた。
そして、自分の将棋が、あきらかに弱くなって、つまらない物になっているのに、気付いたわけだが。
一番つらいのは、俺なんだよ。
勝てない人間の気持ちがお前らにわかるかよ。
俺は、心の中で、つぶやく。
ちなみに、俺は、今では、高校生だが、学校を将棋のためサボっているわけではない。
ただ、今、八月で、学校が休みというだけである。
まあ、世間から見れば、プロ棋士になったんだから、将棋以外する必要はないのだが、そこは、親の意向があるのだ。
「あんたが、将棋で生活していけるわけがないでしょ。」
「いいか、竜一、将棋のプロになったからといって、金を稼いで生活できることではないんだぞ。」
等々。
俺も、このまま、ズルズルと中途半端に将棋を行い、三流の棋士に終わるのかね。
そう思いながら、昨年、プロ棋士四段になった時の将棋雑誌を思い出す。
「史上6人目の中学生プロ。
期待の新人、将棋界に新たな伝説を作るか。」
とでかでかと見出しを書いていたなあ。
そして、当の本人は、世間の期待を大きく裏切り、普通のプロ棋士になろうとしているのだ。
だからこそ、四段になり、成績不振の俺を、ブログや、ツイッターで、ボロカスに書く人間がいるわけだが。
(恐らく、普通の四段なら、誰も気にも留めなかっただろう。)
そう思えば、世間に騒がれている今が、一番、棋士としてありがたいと思わなければならない時期なのかもしれない。
そんなことを、俺は、思いながら、将棋盤を眺め、再び、昨日の反省を開始した。