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第十一話

何を俺は、やっているのかねぇ。


親の意向もあって、俺は、普通の高校に通っているが、本当に将棋に関係ないことを行ってこれから大丈夫なのであろうか。


確かに、プロになったからといって、将棋の世界で、給料を稼ぐことがどれぐらい大変か先輩の棋士を見ればよくわかる。


何しろ、将棋とは、基本給がないのだ。


対局を行い、対局料で、生活を出来る人は、ごく一部の人だけ。


自ら講演会に出席、または、将棋教室に行き、指導対局を行うことによる謝礼など、将棋以外の活動をしなければ、とても生きていけない世界なのだ。


俺も、今は、高校生で、親が養ってくれているが、大学を行くつもりがないのなら(つまり、プロの将棋指しを続けるなら)、高校卒業後、自炊しなければならない。


将棋で、今以上に勝ち星を挙げ、タイトル保持者になるまでとは言わないまでも、1日、1日、生活できるだけの給料を稼ぐ必要があるのだ。


だが、プロの世界で生き残るのは、どこでも同じだが、本当に厳しい。


奨励会(将棋のプロになるための養成機関のことを指す。)の一番下のクラス、6級の者でさえ、地方の将棋大会で、優勝できるレベルである。


まして、プロ棋士まで成れたエリート集団に勝ち続けることがどれだけ、大変なことかよくわかると思う。


(実際、トップクラスのアマチュアの将棋指しが、竜王戦など他の棋戦で、プロと将棋を指しているが、ほとんど一回戦負けしている。)


そんな話を聞けば、どんな親でも、プロの将棋指しを続けさせたいなど思う人は、いないだろう。


内の親も、20歳になっても、プロ棋士に成れないようなら、将棋をあきらめるように言っていたからね。


中学生で、プロになれた俺は、己の努力と、才能があったのも確かだが、本当に運がよかったのだと思う。


そんなことを考えていると、「おい、竜一、例の件どうなっているだ。」などと、隣で、ユスリカの観察を行っている悪友、近藤啓太が声を掛けてきた。


「例の件?」


「ほら、お前のところの姉弟子三条さんを俺に紹介する話だよ。なんのために、俺が、プロのカメラマンに取ってもらった写真をお前に渡したと思っているだ。」


ああ、そんな話あったな。


何週間か前に、近藤が、学校の放課後に、自分の写真と、メールアドレスが書いたメモを俺に、渡しに来て、何度も俺に、姉弟子を紹介するように頼まれたことを思い出す。


その時、俺は、あまり期待するなよと言っておいたはずなのだが。


ちなみに、俺の姉弟子、三条和子は、将棋界のアイドル的存在になっている。


顔もいいし、スタイルも抜群。


その上、女流タイトルの女王、王座を持つ二冠王でもある。


さらに、ファンサービスも、積極的で、よく子どもにサインをしたり、指導対局も頻繁に行っていると聞いている。


最近、女性で、将棋を楽しむ人が増えているのも、姉弟子のおかげとも言われているほどだ。


要するに、俺の姉弟子は、世間的には、非の打ちどころがない人間である。


でも、勝負ごとになると姉弟子は、鬼だからね。


どれだけ、俺も将棋や賭け事に容赦しない姉弟子に泣かされたことか。


「俺も、もう16歳だからな。そろそろいい女性と付き合いたいわけよ。」


「わかったよ。でも、今は、授業中だぜ。昼休みにその話をしないか。」


「先生も他の奴らも、俺たちの話を聞いているわけないだろ。」


近藤が言うとおり、理科の実験室内は、他の学生も雑談しながら、実験を行っており、非常にやかましい。


俺たちが、女性の話をしていても、誰も気に留める者もいないだろう。


しかし、女性ねぇ。


竜一は、今までの自分の生活を振り返る。


俺は、今まで、女性と付き合うとかそんなこと考えたこともないですけど。


「まあ、一応、姉弟子には、話はしたよ。内の高校に、姉弟子のファンで、姉弟子と付き合いたい奴がいるって。そしたら・・・」


「そしたら、なんて言っただよ。」


近藤は、期待たっぷりの顔で、こちらを眺めてくる。


そんなに、期待された顔で、見られても困るだが。


あれだけ、期待するなと前もって言っていただろうが。


しかし、ここは、やはり、親友として、はっきり姉弟子の答えを言っとかないと。


「将棋以外、今は、興味がないとさ。後、わざわざ、私を付き合いたいために、自分の写真を見せに来る必要はないって。」


「くそっ。やはり、駄目か。」


近藤は、落胆したような顔をする。


が、それほど落ち込んではいないようだ。


「しょうがないなぁ。もう、少し、付き合いたい女性のランクを下げるか。」


なんて、言っている。


相変わらず、楽観的な奴である。


世間的に見れば、単なる高校生風情が、今は時めく女流棋士、それもタイトルホルダーと付き合いたいと考えるこの男。


バカかと思うかもしれないが、学力は、トップクラスだ。


そして、小学校のころ、近藤は、当時、既に、奨励会に入っていた俺と互角とは言わないまでも、かなりいい将棋を指していた奴である。


(恐らく、今でも、将棋を続けていれば、間違いなくプロになっていただろう。)


こいつの親が、将棋は辞めて、勉強をするように方針をきめてしまったからな。


本当に才能があっても、途中で、経済的な事情や、親の意向、さらに、運や不運で将棋を辞めていく奴は多いのだ。


「竜一。お前も、もうプロの将棋指しだろ。そろそろ、女性の一人ぐらいと付き合っても良い頃合いじゃないのか。気になる女性いないのかよ。」


そりゃ俺だって、将棋の世界が、こんなに、厳しくなければ女性といい関係を作りたいとは、思っているさ。


でもなぁ。


「もし、お前にその気があるなら、年上の姉さん肌の女性を紹介してやってもいいだぜ。最近、ネットで、簡単にメールでやり取りできるし。・・・」


「悪い。お前の言いたいことは、良くわかるが、姉弟子同様、今の俺も、女性に関心を持つ余裕がなくてな。」


俺は、そういいながら、ようやく、ユスリカの唾液線の染色が終わり、顕微鏡で覗いて観察する。


理科の教科書では、はっきり4本の染色体が見えているのが観察できるはずなのだか、俺の行ったユスリカの唾液線は、不純物が混ざり、はっきりと見えない。


どうやら、ユスリカの唾液線だけをしっかりと分離することが出来てなかったようだ。


「それは、残念だな。お前、そこそこ顔もいいし、性格も悪くない。内の高校の女子の中でも、お前に興味がある奴、結構多いぜ。」


・・・・本当にそうなのか。


「将棋にしか、興味がないなら、京橋にある爺さんの将棋道場に顔出してやりな。お前が道場に来なくなって、寂しいとこの前、言っていたぜ。」

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