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世界の中心で回る洗濯機

作者: KAME


 洗濯機を回す。今日は久々の晴れ日だ。

 最近は雨続きで服を外に干せなかった。専用の洗剤を使っても、部屋干しはやはり少し臭う。


 ごうんごうん、と洗濯機が回る。私は安い折りたたみの椅子に座り、小説のページを繰る。


 うちのは二槽式洗濯機だ。正直とても面倒くさい。古いアパートの備え付けだったが、これは本気で失敗だったと思う。一人暮らしを始めて数年たつけれど、ずっと後悔している。

 洗濯物を入れて、水を張り洗剤を入れ、回す。

 止まったら水を抜き、すすぐためにまた水を入れて回す。私は不安だから二回すすぐ。

 それが終わったら脱水層に洗濯物を移して、ここでも回すのである。

 これが全自動洗濯機なら、洗濯物と洗剤を入れてスイッチを押すだけだ。なんなら乾燥までやってくれる。なんと便利なのだろう、科学は日々進歩している証明だ。ならば昭和で止まったここは時の狭間か。


 ごうんごうん、という音。もう慣れたので気にせずページを繰る。


 洗濯を始めると、数十分は近くを動けなくなる。いろいろと面倒を見なければならないので、没頭してしまうような作業もできない。煩わしい。前に忘れて放置したときは、夏場ということもあって酷いことになった。

 けれど、洗濯機がなかった時代はもっと面倒だったのだろう。すべて洗濯板でゴシゴシやるなんて、自分は絶対やりたくない重労働だ。川へ洗濯に行くおばあさんはすごかったのである。よく疲れて桃を見逃さなかったものだ。

 それを考えれば、こんなもの楽なものである。全自動に比べれば手間は喰うが、片手間で本も読めるイージーな作業だ。二槽式洗濯機だって文明の利器には違いない。体力を消費することもないのだし、備え付けなら文句は言えないだろう。


 ごうんごうん、と洗濯機が回る。ガチャもこれくらい回せれば良いのに。


 まあ、不満があるのなら洗濯機を買えば良いのだ。大家に言えばこの洗濯機は回収してもらえるのだし、選択肢としては常に残っている。出費に関しては……手痛いが出せない金額ではない。

 しかしそうなると、あとどれほどこの住処を使い続けるのか、という問題が浮上してくる。もう何年かはここで過ごしているが、職業柄、あまり一つところに居座り続けられる保証がないのだ。私が椅子や机、ベッドなどの家具を折りたたみで揃えているのも、そういう事情がある。

 小さく軽く、捨てても惜しくないもの。それが私の、買い物の基準である。洗濯機は大きいし重いし、捨てるのももったいない。

 ……まあどうしてもというのなら、コインランドリーという手もある。クリーニングも。けれど、それはもったいない。そこまで裕福というわけでもないのだから、節約できるのなら節約したい。

 結局のところ、ケチなのだな、と思う。

 面倒だ面倒だと思いながらも二槽式洗濯機を使い続けているのは、つまり出費を忌避しているだけなのだ。


 ごうんごうん、という音が小さくなる。揺れが小さくなり、私は文庫本に親指を挟んで閉じた。


 揺れが完全に止まってから水を抜く。私はまた本を開く。水が完全に抜けたら、もう一度水をためなければならない。まったくもって面倒くさい。

 ページをめくる。洗濯槽からちょろちょろと水が抜けていく音を聞きながら、文字列を追っていく。

 こんな時は、こういう面白くもない小説で時間を潰すのが一番いい。



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