俺と犬
そこそこに生きれりゃそれでいいと思ってた。
そこそこにすら生きられない俺がいた。
底々にしか存在してない俺がいた。
今さら悔やんだってしょうがねえから、気付かねえふりして笑ってんだ。
今さら悔やんだって何も出来やしねえから、何かのせいにして自分を正当化した。誰かのせいにして正当化した。
誰かが物を盗んでいるから、俺だって盗んでいいはず。
物を盗って、食って。
そんな生き方しか出来ねえ。
最底辺の生き方しか出来ねえ。
もうすでに色んなモンを諦めた。
笑顔とか、幸福とか、家族とか。
そんな綺麗なモンは俺には似合わねえから諦めた。
そこそこに生きることすら叶わなかった。
だから何となく生きれりゃそれでいい。
今はどうしようもなくそう思っている。
少し肌寒くなってきた今日この頃。
俺が住んでいるこのスラム街はまあ、治安がよろしくない。俺もそれに一枚噛ませてもらっているから、俺が言うべきことでもないかもしれないが。
とりあえず今日の空腹を満たすためにリンゴを頂いた。
盗むのは簡単。
フラフラ〜っと歩いていって、リンゴを鷲掴みにし、ダッシュで逃げればオールオッケー。
商人もそこまで真剣に追ってはこまい。
どうせいつものことだと簡単に折れる。
狭い裏路地に入って、リンゴを食う。
ムシャムシャ、ごっくん。
いつものことながら、それ程美味くもない。
ただ食って、ただ生きる。
今の俺にはそれが精一杯だ。
だからいつものように、脇道に捨て犬がいたとしても興味を示すことはない。お前も頑張って生きろ。それくらいしか言葉が見つからない。
さほど興味も惹かれないはずの捨て犬に今日は何故か目が向く。痩せ細った犬だ。心なしか、傷がいくつもあるように見受けられる。
さしずめ、飼い主に虐待を受けていたのだろう。
それを思うと、いつもの捨て犬よりかは可哀想に思えた。まあ、思ったからといって、なにかしてやるつもりもないが。
その犬の横を通り過ぎようとした時、犬の歩き方に違和感を感じるのには時間がかからなかった。
俺は馬鹿か、もっと早くに気が付いてもよかっただろうに。
もっと早くに気が付いたところで、今の俺のようにただただ絶句することしか出来なかっただろうけど。
前足が1本無かったのだ。向かって右足が。
処置はすでにされてあるが、素人目に見ても分かる。
切り口が刃物でやられたと言っているようなものだ。
…これも飼い主が虐待の一環としてやったのだろうか?
それは、反吐がでる。
俺は人間の最底辺にいる。
俺は人間のクズだ。ゴミクズでしかない。
人の道を若干踏み外してはいるが、虐待をした飼い主ほどではないはずだ。
その飼い主は人間の最底辺にすらいないのではないだろうか?
それこそ盗みを働かせている俺が言える立場ではないが。
*************
とりあえず、パンを盗んだ。
犬に食わせるために。
興味はなくとも、同情はする。
よく同情なんて欲しくないとか言っている輩がいるが、きっとそいつは人間の最底辺を知らないからこそ言えるのだ。
人間の最底辺には、プライドなど皆無だ。
物を貰えるなら何だってするのが俺らみたいなクズだ。
犬はパンをガツガツ食った。
食い終わった後に、もうないの?みたいな目で見られた。意外とタフな犬だった。
そんなにねえっつーの。
貰えるだけありがたく思え。
それからかな?その犬が俺の周りをグルグル目まぐるしく回るようになったのは。
どうやら懐かれたらしい。
少し忙しくなってきて、「命の灯」をゆっくり練る時間が足りません。
息抜きに書こうと思った作品です。
何かを感じて頂けるとそれほどの幸福はありません。