目覚めし最強/メリア+ルーク+零条 切夜+シヴァ+オロチ
――――ドクン
「覚醒せよ」
ヒスイの声だ。
暴風が吹き荒れるので、僕の周りだけ風を断ち切る。
暴風が止み、ヒスイが目を開く。
赤い瞳。
ふむ。もう少し前に戻りたかったが、とっさの仙術では無理か。
「ぁぁ」
「ぅあ……ぅぅ」
化け物達の注意がヒスイに向いている。
ヒスイのあの力は興味深いので、しばらく静観していよう。
ダン!!
ヒスイが超高速で動いて化け物達の首を刈り取り、元の場所に戻った。
驚いた。
およそ人間に出せる速さではない。
あと、元の場所に戻るときには何かに引っ張られるように、別の力が働いていた。
興味深い。
「がぁぁ、ぅぅ」
先程僕に腕を突き刺した化け物が後ろにいる。
僕はブレアを刃のように飛ばし、その首を切断する。
「え、今勝手に首が落ちたぞ!」
「私も見た!」
「ヒスイちゃんが何かしたのよ!」
皆、ヒスイの動きを肉眼でとらえることは出来ていないようなので、その勘違いも妥当だろう。
「……ヒスイさんすごいね、メリアくん」
「ああ、そうだね」
声をかけてきたのはエリルちゃんだ。
僕の後ろに隠れて震えている。
「私たち、助かるのかな……」
「ああ、助かるだろうね」
僕の言葉に安心して、ぎこちなく笑顔を見せる。
「君は笑顔の方が素敵だよ」
「え?」
よく聞き取れなかったらしく、不思議そうにこちらを見つめるエリルちゃんの奥に、彼女に目をつけたらしい灰色の化け物がいるのを見つけた。
それは黒い炎をあげて燃え上がり、消滅した。
「メ、メリアくん……今目が光った……」
「どうかしたかい?」
「い、いや、多分気のせい」
もう殆ど化け物は残っていない。
ヒスイが片付けたようだ。
皆がヒスイに注目している間も、スノウさんは皆に近付く化け物を殺していた。
流石Aランク。
残りの化け物がヒスイに意識を向けている間に、スノウさんは生徒達を飛行魔法で転移陣へ送り始める。
「メリアくん、先に行くね」
エリルちゃんが転移陣へ消えていく。
「君、早く!」
「いや、僕は最後でいいよ」
焦っているな。
語尾の☆がない。
しばらく経ち、残るは僕とスノウさんとヒスイのみとなった。
化け物は殆どいない。
なぜまだゼロではないかというと、次から次へと壁から這い出てくるからだ。
ゴゴゴゴッ
天井から大きな岩が剥がれ落ちる。
「しまった!」
スノウさんは焦っている。
避けられなさそうだ。
僕は岩の落下のベクトルを少し横にずらし、化け物達の上に落とす。
多くの化け物が潰れた。
「……え?」
スノウさんが僕を見る。
僕は笑顔を返す。
「……マヒロ?」
「いいや、人違いだよ」
言いながら、僕は周りの化け物達の首をブレアで切断する。
しばらくして、化け物達が壁から出てこなくなった。
ヒスイが近寄ってくる。
紅い瞳で僕を見る。
「ぬしは誰じゃ?」
「僕は………」
なんと言えばいいのだろう。
取り敢えず、この世界での僕の名前を言うのが妥当そうだ。
「僕は、メリア」
「そうか、メリアか。儂はヒミコじゃ」
「……二重人格?」
「そうじゃ。儂が名前を尋ねたことなど初めてじゃからな?光栄に思うがよいぞ」
「ふむ」
僕の名前を尋ねたということは、ヒスイだった時の記憶は無いということか。
「転移陣に運ぶから、スノウに掴まって」
「いや、それは無理そうだよ」
転移陣は既に消えている。
閉じ込められたということかな?
穴でも空けて出ようかな。
「出てきたらどうじゃ?どうせおるのじゃろう?」
ヒミコの声に応じるように、大気が震えた。
僕はそれを一応遮断しておいたけど、特に変なものではなかったようだ。
暴風が吹き荒れ、スノウさんやヒミコの髪が激しく靡く。
風がおさまると、壁の上の方に人一人分の穴が開き、そこから男が空中に浮きながら出てきた。
「いやー、素晴らしいですねー」
学者を思わせるしゃべり方をするこの男。
周りの空間を操って浮いている。
スノウさんが使った、飛行魔法とは少し違う。
ダン!!
ヒミコが跳んだ。
並の人間には認識も出来ないであろうその動きを、この男も認識出来なかった。
つまり、並の人間だ。
期待はずれもいいとこだ。
ヒミコは男の首を刈り取ってもとの場所に戻ってきた。
普通の人間には、動いたことすらも分からないだろう。
………おかしい。
いっこうに血が吹き出ない。
と思っていると、男の首から緑色の細胞がぼこぼこと盛り上がり、頭部が再生した。
………気持ち悪い。
ここは明らかに普通の人間ではない。
こんなことは僕にも出来ない。
「いやー、流石は唯一の適合者。素晴らしい速度です」
ふむ。
意味深なことを言うな。
「なんのことかな?」
「実は彼女は、七年前に起きた『ザーガの悲劇』の唯一の生存者なのです」
『ザーガの悲劇』に生存者なんていたのか。
取り敢えず話し合いの空気になったので、僕達は聞く姿勢に入った。
この事態を引き起こしたのであろう彼を殺すことは確定しているので、その前により多くの情報を得る方が得だ。
男は、語り始める。
「宇宙から飛来した隕石に含まれる謎の粒子――イプスを取り込んだ人間は、その全てが先程の灰色の化け物、グールになりました。グールは周りの人間を手当たり次第に殺し、食べ、ザーガ村の人間は一人残らず殺されたと思われていました」
「既存の知識は結構だよ」
「……ただ、一人だけイプスを取り込んでもグールにならない人間がいました。あなたです」
そういってヒスイ――今のヒミコを指差す。
「あなたはヒスイですね?先程、イプス感染者かどうか調べる薬を空気中にばらまいておきました。その結果、あなたは見事に感染者の反応を示しました」
さっきヒスイが吐血してたやつか。
その薬のせいで僕の『ナビゲーションシステム』が起動しなかったのか。
おかしな薬があったものだ。
「儂はヒスイではない。ヒミコじゃ」
「あなたはイプスに適合し、その力を得て、グール達を殲滅した。七年前のあの少女は、あなたなのですね?」
「うむ。そうじゃ」
なるほど。
ヒミコのその力は、そのイプスとやらが関係しているのか。
「ぬしは、何故このような実験をしたのじゃ?」
もっともな質問だ。
「あなたのような存在をつくる為……ですよ」
「それはなぜじゃ?」
「うふふ、秘密です」
男は降りてくる。
……死にたいのかな?
「ではヒントをあげましょう。私は、自分で自分を殺すことが出来ません」
ふむ。
話が見えないな。
男が地に足をつけると同時に、スノウさんが駆け出した。
男はそんなスノウさんの顔面に右の拳をめり込ませた。
嫌な音と共に吹き飛ぶスノウさんに、回復魔術――【再生の証】をかけておく。
「もう少しヒントをあげましょう。私は世界を滅ぼしてみたい」
やはり話が見えない。
ヒミコも首を捻っている。
「あんなに生徒を殺して……許さない」
復活したスノウさんが男に向かっていく。
Aランク冒険者の洗練された動きをものともせず、男はスノウさんの首をへし折った。