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死か、それとも/メリア

 結局ボス部屋まで、転移陣は無かった。

 今僕達は、ボス部屋の前で、巨大な扉と向き合っている。

 深呼吸。深呼吸……。

 スノウさん以外、がっちがちに緊張している。

 ユウは、ボス部屋の扉を悲しげに見つめていた。


 いざ入ると、ボスとなるモンスターはいなかった。

 転移陣もない。


「転移陣はあそこだよ」


 いつもと違う口調で、スノウさんが天井を指差す。

 天井までの高さは、およそ十メートル。

 どう考えてもおかしい。

 どう帰るんだあんなの。


「スノウが飛行魔法でひとりひとりおくってくね」


 飛行魔法まで使えるのか……。

 流石はAランクだ。


「じゃあ最初はだれ―――」


「きゃあああああ!!」


 スノウさんの言葉を遮った女の子の方を見ると、そこには男の子の『下半身』が倒れていた。

 その後ろには、その上半身を喰らう灰色の化け物。


 あまりにも酷い光景に目を背けた先にいたスノウさんが、消える。

 そして、向こうから化け物の断末魔が聞こえてくる。


 だけどそんなものでは終わらない。

 地面、壁、天井のいたるところから、灰色の腕が生えてくる。

 呼吸が止まった。

 扉は開かないし、目の前には無数の化け物。


「お兄ちゃん………ごめんなさい……」


 ユウが僕の腕を抜けて歩いていく。

 駄目だ……。

 駄目だそっちは……。


「駄目だ!!」


 そんな僕の叫びは届かず――


「ごめん……な………が……ぁぁ」


 ユウの姿が変形していく。

 醜く、恐ろしく。

 数多の灰色の化け物のうちの一匹が、そこにいた。

 ……そんな……うそだ……。


「うそだうそだうそだぁぁ!!」


 僕の叫びに反応したのか、ユウだった化け物は、一気に迫って僕に爪を降り下ろす。

 その降り下ろされた腕を、根本からスノウさんが切断した。

 そのままその首を切り落とす。

――ユウは死んだ。

いや、ユウだった化け物は、死んだ。


―――悲しんでいる暇はない。


化け物達が襲ってくる。

スノウさんがそれを斬っていく。

ひゅんひゅんと音がして、ふわりと風がくる。


 ヒスイは……何をしているんだかわからない。

 取り敢えず、目を閉じて突っ立っている。


 スノウさんが頑張っているけど、いかんせん数が多すぎる。


「ああぁ」


「いやぁ」


 ひとり、またひとりと生徒達が死んでいく。

 次は自分かもしれないという恐怖で動けない僕達。絶望は伝染する。

 そんなとき、清んだ声が響く。


覚醒せよ(めざめよ)


 暴風が吹き荒れる。

 その暴風の中心にいるヒスイはしかし、髪の毛一本すらそよがない。


「ぁぁ」


「ぅあ……ぅぅ」


 化け物達はターゲットをヒスイに変えたようで、揃ってヒスイの方を向いている。

 ヒスイは目を開く。

 開いた瞳は、赤かった。

 燃えるような真っ赤な瞳の下には、逆三角の赤色の模様があった。


「す……げー……」


 みんな、ヒスイに心を奪われている。

 もちろん僕も。


「ぁぁぁ……」


「ぁぁあぁ」


 ぞろぞろとヒスイを取り囲む化け物達に対し、ヒスイは『笑った』。

 支配者の笑みだった。


 ダン!!!

 爆発音。

 そして、化け物達の首が転がり落ちる。

 その数約50。


「ははは」


 笑ってしまった。

 圧倒的な戦力差。


 ダン!!

 ダン!!

 ダン!!

 ダン!!

 化け物達の数は約半分になっていた。

 スノウさんは動きを止めている。

 スノウさんもヒスイに魅入っている。

 あれ?

 スノウさんが消えた。

 と思ったら、いつの間にか僕の目の前にいた化け物の首が落ちた。


 化け物達はほとんどがヒスイを狙っているけど、少数ながら僕達を狙うやつもいるらしい。


 本気を出した化け物達の動きは、驚くほど速い。

 しかも急に走る角度を直角に曲げたりするので、僕ではその動きを目でとらえきれない。

 なので、僕はすべてをヒスイとスノウさんに任せた。


 化け物は、悪臭を放っている。

 死体となれば、悪臭はさらに強烈になる。

 そしてここには、その化け物達が密集している。

 そして、どんどん増えていくその死体。

 つまり、もんのすっごく、臭い。

 ヒスイも顔をしかめている。


「臭いのう」


 ヒスイが言葉を発した。

 なんだか口調が変だ。

 そして化け物達を睥睨し、


「寄るでない」


 なんだっけ。

 ああ、分かった。

 お婆ちゃんだ。

 お婆ちゃんみたいなしゃべり方なんだ。


 ダン!!

 ダダダダダダダダダダッ!!!

 化け物達の首が落ちていく。


 クラスのみんなは熱い目でヒスイを見つめている。

 スノウさんは左の方の男の子に襲いかかっている化け物の首を切り落とし、またその近くの女の子に襲いかかっている化け物の………


 あれ?

 目眩が……。


「いやあぁぁぁ!!!」


 うるさいなあもう。

 おかしいな。

 息が……出来ない。

 あれ?

 いつの間に僕の胸から灰色の腕が……。

 そうか。

 僕は、化け物の腕に貫かれたんだ。

 意識が……遠のく……。


『ダァァリィィィン!』


『知ってる?この世界って、丸いのよ』


『あなたにチートを授けましょう』


『お前は一生、俺のライバルだ』


『君の存在こそ、僕達の存在意義だ』


 ……この記憶は……なんだ?

 走馬灯ってやつか?

 だけど、こんな記憶は僕には無い。

 なのにどうして。

 どうしてこんなにも、懐かしいんだ。


『『シヴァ』!任せたぞ!』


『ああ、ルーク……愛しのルーク』


零条(れいじょう)切夜(きりや)君、あなたは死にました』


『絶対お前より先にこの霊山を征してやるからな。オロチ』


 他人の記憶を見ているって感覚ではない。

 この感覚は……。

 言うなれば。

―――思い出した、だ。


『時間は不可逆ではない』


『姫は必ず守る!』


『この剣は、必ず届くはずなんだ!』


『仙人オロチとして告げる。違う世界で、僕はお前を叩きのめす』


 ああ、どうして忘れていたんだろう。

 これは全部、僕の記憶だ。

 別の世界の、僕の記憶。

 思い出すのが遅かった……。

 これでは死んでしまうな。

 本当は、こんなところで使うつもりじゃなかったんだけど……。


『【∞輪廻回帰∞】』



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