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曖昧な疑念/シヴァ/メリア

 超能力者達のみが居住を認められる都市、トーキョー。

 その中でも最も強力な能力者達のみが立ち入りを認められる区域。

 S級特区、シンジュク。


 分厚い壁で隔絶されたこの区域には、クロノヘクスイロンとの適合に最悪な形で成功した者がうろついている。

 彼らには、理性がない。

 いや、うっすらとはあるが、ふとした拍子に失い、暴れまわる者がいる。

 そうなった者は二度と戻らない。

 その命を奪うのが俺達の役目だ。


 俺のコードネームは『プテラノドン』。

 能力はコードネームから分かる通り、自身の肉体を変化させ、プテラノドンのような姿にすることだ。

 そうなった時の身体スペックは人間を遥かに上回る。


「あああああぁぁぁぁ!!」


 あそこで理性を失い、周りの建物を破壊している男を、今から殺す予定だ。


「どうしても、人を殺すのは忌避してしまうよ」


 そう言うのは、最近入ってきた新入り。

 彼のコードネームは『シヴァ』。

 破壊と再生の能力。

 いや、破壊はなんとなく違う。

 彼の能力はそんなものではない。

 教えてくれないので分からないが、そんな気がする。


「怪我をしているよ。治すよ」


 彼は俺の腕の傷と地面にそれぞれ手をつく。

 彼の手の甲に青い幾何学の光の円陣が浮かび、俺の腕の怪我が治る。

 この、両手を使っていることが彼の能力を把握する為に重要な鍵だと俺は思う。


「じゃあ新入りの僕が行かしてもらうよ」


 彼は歩いていき、近くの建物と地面に手をつく。

 そして彼の手の甲に幾何学模様が浮かび――

 建物は粉々になり、地面は大きな穴上に消滅した。

 大きな穴に落ち、男は絶命する。

 一連の動作はとても滑らかに行われた。


 人を殺したというのに、彼はうすく笑っていた。

 今はもう馴れたが、初めて彼の微笑を見たときは怖気が走ったのを覚えている。

 そのくせ『人を殺すのは忌避してしまう』とかほざいているものだから、俺には彼が同じ人間とは思えない。

 俺の知っている言葉で形容するなら……

 そう。悪魔だ。


「逃げて!なにか来る!」


 探知系能力者、コードネーム『レーダー』が叫ぶ。

 俺には理解不能だが、彼女は『シヴァ』に惚れている。

 だから、危険を伝えるのはいつも彼優先。


 ともあれ、俺達討伐隊にとって脅威となりえる存在は少ない。

 どんな能力者が来るのやら。


「すまない。乗せてくれるかい?」


『シヴァ』が俺に尋ねてくるので、『レーダー』まで寄ってきた。


「ああ、分かったよ」


 俺は体をプテラノドンのように変化させ、二人を乗せて空を飛ぶ。

 他の面子は乗せない。

『シヴァ』は新入りだし、『レーダー』は戦闘能力が皆無だから乗せるのだ。

 他はほっといても大丈夫だろう。


 ――一瞬、心臓が止まるかと思った。

 それくらいの死の予感がした。

 この状態の俺の野生の勘は外れない。

 まちがいなく、なにかとんでもないものがいる。


「GAAAAAAAAaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!」


 ………ぁ。

 もう駄目だ。

 姿は見えないが、この咆哮を聞いただけで俺の本能は避けられない死を感じてしまった。


「諦めないでくれるかな?迷惑なんだけど」


 本当に……

 こいつは、とんでもない。

 どんな神経をしているんだ。

『レーダー』は、彼のこういうところを好きになったのかもしれない。

 俺の背中に乗っているから見えないが、『レーダー』は今頬を上気させて『シヴァ』を見つめているのだろう。


 円上に雲が晴れ、一匹の竜が降臨する。

 六翼三頭一尾の黄金の竜。

 神々の世界から降臨したような、神々しい光景。

 だが、俺達にとっては絶望の光景。


「『レーダー』、ナイフを貸してくれるかな」


「う、うん。どうぞ、ダーリン」


 こういうときだと言うのに、『レーダー』はデレデレだ。

 声しか聞こえないが、『シヴァ』の声も固くなっている。


 ――最悪なことが分かった。

 あの黄金竜は俺達を狙っている。

 視線がずっと俺達から離れない。

 俺は本能に従って逃げるのみ。


「一回降りて建物に隠れよう」


 ああ、その通りだ。

 もはや俺は馬鹿だ。

 なぜそれを思い付かなかった。

『シヴァ』がいてくれて良かった。

 俺は建物の影に降りた。


「ダーリン!なにか撃ってきた!」


 顔を出して黄金竜の方を見ると、黄金の巨大な玉が迫っていた。


 ああ、ここで死ぬんだ。


 などと思っていた俺とは違い、『シヴァ』はあろうことか黄金の玉に向かってとびだした。


「ダーリン!」


 飛び出そうとする『レーダー』を捕まえ、俺は『シヴァ』を見つめる。

 黄金の玉は数百の建物を溶解させながら、一直線に俺達に迫る。


 黄金の玉が『シヴァ』と接触しようかという時。

 俺は見た。

『シヴァ』の両手の甲が青く光った。

 彼はナイフを持っていない方の手――右手を黄金の玉を受け止めるように前に出す。


「ダァァリィィィン!」


 黄金の玉と彼の右手が接触する直前、彼の左手のナイフがぼろぼろに崩れ落ちた。

 俺が見た彼の最後の表情は、今まで見たこともないような楽しそうな笑みだった。

 そして辺りは眩しい黄金の光に包まれた。



 ▲▼▲▼



「なんかおかしいねー、このダンジョン☆」


 なんてことないように呟き、スノウさんはてくてくと進む。

 スノウさんにとっては、こんなことは大したことではないのだろう。

 圧倒的な。

 絶対的な自信。

 僕には――足りないもの。

 羨ましい。妬ましい。

 純粋に、どろどろした感情。

 それを無意識で抑え込み、僕は考察する。


 おかしい点は三つ。

 一つ目。

 モンスターが強すぎる。

 二つ目。

 モンスターが少なすぎる。

 三つ目。

『あれ』が起動しない。


 最初の二つはこのダンジョンの仕様だと思えば、無理矢理だけど納得できる。

 でも、三つ目はおかしい。

 ミノタウロスとかジュレリードとか、明らかに『脅威』なのに、起動しない。

 絶対におかしい。


 スノウさん。

 あなたは、何者ですか?

 僕たちをどこに連れてきたんですか?

 本当に分からないんですか?演技じゃないんですか?


「ぐっ」


 ヒスイが胸を押さえて呻いた。

 行動の割に表情に変化は無いけど、うっすらと脂汗が浮かんでいる。


「大丈夫?」


 優しいエリルちゃんがヒスイの背中をさする。


「ええ」


 大丈夫よ。とすぐにヒスイは気丈に背筋をのばす。

 スタイルいいな~。


「ごほっ」


「大丈夫?!」


 ヒスイが今度は吐血した。

 スノウさんが回復魔法をかけたらすぐに治ったけど、なんだか不安が残る。


 ふと、誰かに見られている気がした。

『気がした』。

 僕はこの感覚を過小評価しない。

 何かがおかしいこのダンジョンだ。

 この『気がした』を過小評価していると、後々取り返しのつかないことになりかねない。


 心臓がばくばくする。

 ミノタウロスやジュレリードを間近に見たときの比ではない。


『大丈夫。あなたは負けない。あなたは、最強だから』


 どうしてこんな謎の言葉を思い出す?

『思い出す』?

 違う。

 僕にこんな記憶はない。

 こんな美しい少女を、僕は知らない。


「い、行こう。みんな」


 勇敢な男の子がみんなの先頭に立ち、スノウさんの後ろについた。

 みんなを見てみると、緊張のせいか、恐怖のせいか。

 まあどちらもだろうけど、がっちがちだった。

 ヒスイとスノウさんしか見ていなかったから気付かなかった。


「このダンジョンはなにかおかしいから、みんなに回さずにスノウが全部倒しちゃうね~☆」


 ここで『おかしい』とみんなに言ったってことは、スノウさんはわざとこのおかしなダンジョンに連れてきた訳じゃないのか。


「転移陣があったらすぐにこのダンジョンを出るからね~☆」


 うん。安心した。

 これ以上ここにいたくない。

 さて、転移陣はどこにあるのやら。

 人心地ついた気分で、僕はみんなについていく。


 あまりにモンスターが出てこないので、所々で雑談が始まった。

 緊張感がうすくなるのも無理はないと思う。

 Aランクの冒険者もいることだし。

 僕も雑談に興じることにしよう。


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