Aランク/シヴァ/メリア
これで、この先の僕の人生が決まる。
「さあ、出してください」
急かさないで欲しい。
「はぁ、はぁ」
呼吸が乱れる。
深呼吸、深呼吸。
ふう、いこう。
僕は腕を差しだし、黒い液体の入った注射器の針に刺される。
「ぐっ!……あ………う……」
猛烈に痛いけど、今は我慢だ。
針が抜かれた。
もういいだろう。
「うあぁぁぁ!!!!」
僕はのたうちまわる。
痛い痛い痛い痛い!
「あぁぁぁぁ!!」
痛みが消えない。
「……あ……」
呼吸が、できない。
全身が麻痺する。
視界はぐるぐる回っているので、そっと目を閉じる。
そのまま僕の意識は微睡みの中へ。
目を開くと、真っ白な天井だった。
僕はふかふかなベッドに寝ている。
「目が覚めたかい?」
この病院の院長さんだ。
「早く結果を知りたいだろう。安心するといい。ちゃんと君の体はクロノヘクスイロンに適合した。晴れて君は超能力者だ」
やった………
これで僕はあの都市に入ることが出来るのか。
「僕の能力は一体なんです?」
「それはまだ分からない。能力判定の能力者が今はいないのでね。自分でも試してみるといい」
「はい」
どんな能力なのか、楽しみだ。
▲▼▲▼
「おっと、ごめん、そこどいて!」
「えっ……きゃ!」
「ごめん。石に躓いちゃって」
「む、胸……揉んでる……」
「ご、ごめん!」
「は、恥ずかしいけど、メリアになら」
「ヒスイ……」
――なんてなればいいなぁ。
よし、実行。
「おっと、ごめん、そこどいて!」
「……近寄んないで」
ドガァァン
ヒスイの蹴りが僕のお腹にクリーンヒットした。
ちょっと……息が……出来ない。
「ぜぇ……ぜぇ……ひゅう……」
吐きそう。
「うぇぇぇぇ」
「うわ、きも」
もう、泣くよ?
皆の迷惑にならないように僕は少し離れてまた吐く。
「おろろろろろ」
「だ、大丈夫?」
この男の子、優しい……
惚れちゃいそう……
誰だっけ?
そう言えばヒスイ以外のクラスの子の名前ほとんど覚えてなかった。
「あ、ジュレリードだね☆」
スノウさんが言った言葉に、戦慄する。
B級以上の冒険者しか討伐が許されない、ミノタウロス以上の化け物。
えっと、このダンジョン、おかしくない?
「これはスノウがやるね☆」
普段通りの口調でスノウさんは洗練された動きでジュレリードに迫る。
ジュレリードは蜘蛛のような脚を持ち、頭部がナメクジのようなおぞましい見た目をしているけど、スノウさんは特に気にした様子もなく、剣でずかずか切っている。
「シャアァァァ!!」
ジュレリードが回転し、緑色の液体が飛び散る。
それが落ちたところはじゅーじゅーいって溶けていく。
こっわ!
触れそうなほど近くにいたはずのスノウさんには一滴も当たっていない。
ほんと、凄すぎる。
「《纏いし炎は赤く紅く、その炎は蹂躙せんがため、『フレアエンチャント』》」
魔法だ。
やっぱり使えたんだ。
流石Aランク。
スノウさんの剣を炎が包み、それがジュレリードに叩きつけられる。
ジュレリードはまっぷたつになって燃え上がる。
す、凄すぎる……
ジュレリードがただの雑魚にしか見えなかった……
「さて、どんどん行こー☆」
もう、帰りたい。
このダンジョンはおかしい。
出てくるモンスターが強すぎる。
「ねえねえ」
エリルちゃんが僕を見上げてくる。
金髪のショートボブの美少女。
可愛いからすぐに覚えた。
「このダンジョン、おかしくない?」
「うん。モンスターが強すぎるね」
「だよね。それにモンスターの数が明らかに少ない。なんか嫌な予感がするんだ」
――嫌な予感、か。
曖昧な、だけど確かに不安を蓄積させる言葉を残してエリルちゃんは視線をはずす。