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巻き戻り/雪夜 真広

 



『お前それどういう能力なんだよ、『シヴァ』』


『ダーリンは最強。それでいいの!どんな能力でも関係ないわ!』


 その頼もしい背中を見る度に、私の心は震えた。

 彼がいなければ私は死んでいた。

 彼がいなければ私は世界に絶望しか見いだせなかった。

 彼がいなければ私は―――恋を、知らなかった。


 ふと疑問に思った。

 それは非日常を日常とする私達にとっては、ありふれた疑問だった。


『ダーリンは、もし明日世界が滅びるとしたら、どうする?』


『個人の力ではどうすることも出来ないのなら、笑って世界と運命をともにするさ。ただ、どうにかなるのなら、僕は必ず世界を救う』


 とても彼らしい答えだと思った。



 ▲▼▲▼



 桜が目を覚ますと、野淵の顔があった。


「あ、起きた」


『桜さんの寝顔、脳内保存完了、と』


 桜は少し顔をしかめた。


「さ、桜ちゃん!パ、パンを買ってきましょうか?」


『桜ちゃん桜ちゃん、僕を見て桜ちゃん』


 デブが話しかけてきた。


「俺の彼女に近付くなデブ」


『殺すぞデブ』


 野淵がデブを追い払う。


 桜は目線をずらし、奥で将棋のアプリをやっている真広を見る。


『ここは、どこだ?……教室か。時間を巻き戻したってことか?』


「ん?」


 桜は目を細めた。

 真広はスマホの画面を見ていなかった。


『俺は必ずみんなを救う』


 桜は身を乗り出して真広を見る。


「雪夜くーん、はい、お弁当」


「まひろに近付くな殺すぞメス豚」


 ピンクの箱を差し出す姫神を無視し、真広は立ち上がる。

 真広はおまむろに歩きだし、日奈子の前で止まる。

 そして、彼女を抱きしめた。


「ま、まひろ!?」


 日奈子は顔を真っ赤にしながら驚く。


「……え」


 姫神は崩れ落ちた。


「え、え、何事!?」


「なんで急に!?」


「リア充死ねええ!!」


 クラス中の唖然とした視線を集めながら、その時は訪れた。



 ▲▼▲▼



「ちょちょちょちょちょ……ちょ!」


「はあ?!なにこれ!!」


「これ異世界転移じゃね?!」


 床が光っている。どうやら転移される少し前に巻き戻されたらしい。


 勝負は一瞬で決めなければいけない。

 大丈夫。俺なら出来る。


 ようやく景色が一変した。


 俺は星野を抱きしめた時に抜き取った包丁を後ろ手に持ち、深呼吸。


「………なに、これ」


「異世界転移来たーー!!」


 時間がない。

 さっさと出てこい。


「誰かいるんだろう!出てこい!」


「ひゃ、ひゃい!申し訳ありません!」


 柱の奥からユアがおっかなびっくり出てきた。

 違う。

 お前じゃない。


「か………可愛い!」


「可憐だ……」


「もう一人いるんだろう!出てこい!」


 俺の声が響き、一拍おいて。


「よく分かりましたな。さすがは勇者殿」


 あいつが出てきた。


「初めまして勇者様方。私はリヴァルと申します」


 言いながらこっちに歩いてくるリヴァル。

 そして俺の目の前に来る。


「突然のことで驚かれているとは思いま……ぐぼっ……なに、を……!?」


 俺はリヴァルの喉に包丁を突き刺した。気色悪い手応えだ。

 とどめに、心臓のあたりと口の中に包丁を突き刺す。


「………え?」


 ユアが呆けている。

 逃げるなら今しかない。


 俺は、異世界転移に続いて殺人現場を見せられて脳内処理が追い付いていない皆の横を抜けて、全力で逃げる。


「あいつを殺せえええええ!!!」


 ユアの絶叫を背に。



 ▲▼▲▼



 バルコニーまでの道はなんとなく覚えている。


「あいつだ!あいつを捕らえろ!」


「くそっ、速い!」


 お前らこそな!

 そんな重そうな甲冑着てんのに!


「これるもんなら来い!」


 俺はバルコニーから飛び降りる。

 足を曲げて衝撃を吸収しつつ、両手もついて衝撃を分散させる。


 ガチャンッ

 ガチャガチャ、グシャ!


 甲冑を来た奴らは落下のダメージがきつそうだ。

 ……このまま逃げ切れるか?


「『バインド』!」


 くそっ、ここで魔法か!

 なにげに初めて見たぞ!


 黒い網が飛んでくる。

 俺は横に飛んでかわし、林に入る。


 木々の間をすり抜けながら、見つかりにくい場所を探す。

 ああまずい。

 もうそろそろだ。


 まずい、くらっときた。


 俺は大きな木の付け根のくぼみに身を隠し、意識を失った。



 ▲▼▲▼



「シサラ様。どうかあまり遠くへは行かないようにしてください」


「ん」


「ここはブリタニア国王の城内でございますから、なにとぞばれないように」


「ん」


 老紳士の忠告を受け流し、和服の少女は馬車を降りる。

 短めに切り揃えた黒髪がさらさらと流れる。


「本当はこんなところに観光など出来ませんよ。門番への賄賂もかなり高かったですし、今回だけですよ」


「ん」


 少女は歩き始める。


「本当に護衛つけなくていいのですか?危ないですよ?」


「……いい」


 少女の姿は林に消えていった。


 少女がしばらく歩いていると、ガチャガチャとした音が近づいてきた。

 甲冑の男達が走ってきた。


「見つけた!……あれ?違うぞ」


「君はどこから?」


「おい待て!見ろこの家紋!百代家だぞ!」


「ま、まじか……。あ、あの、百代家のお嬢様がなぜここに?」


「………観光」


「さ、左様ですか。ごゆっくり。ではこれにて」


 男達は走っていく。

 それを無感動に見送り、再び少女は歩き出す。


 ガサガサ


 茂みからなにやら音がし、そこから何かが飛び出してした。

 少女は腰にさしてあった刀を抜き、一振り。

 明らかに刀身は届いていないが、出てきたなにかは綺麗に切断された。


 それはうさぎだった。

 なにかのモンスターだと思って斬ったが、ただの可愛いうさぎだった。だが少女の心は特に動かない。


 少女は切断されたうさぎの死体を無感動に見つめ、再び歩き始めた。

 赤く輝いていた瞳は黒く戻る。


 しばらく歩くと、大きな樹を見つけた。

 その天辺を見ようと背を反らしすぎて、尻餅をついてしまった。

 凸凹した根には苔がびっしりついている。

 その根を辿っていくと、くぼみがあった。


 そこで、少女は少年を見つけた。










入試まであとわずか。

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