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混乱の異世界/雪夜 真広

 



 無事姫神の指輪を見つけ、散々はしゃいだ俺達はやっと帰路についた。道中、先程出来なかった、公衆の面前で姫神の左手の薬指に指輪をはめるという羞恥プレイを姫神の謎の執念によって強制的にやらされた。ストッパーとしてひそかに期待していた星野は、自分の手を恍惚の表情で見ていて全く機能しなかった。

 制服が汚れたので、各々部屋に置いてある服に着替えた。

 男子はほとんど皆ラフな格好を、女子は綺羅びやかなドレスを選んでいた。


「雪夜くーん!どおー?似合うー?」


 姫神がくるくる回りながら感想を訊いてきたので、俺は「ああ、綺麗だよ」と返す。

 姫神は一瞬硬直して、逃げていった。

 その後は星野を筆頭に女子達が「綺麗?」と訊いてきたので、「あー綺麗綺麗」と適当に返しておいた。

 なぜ俺に訊くのだろう?

 あと、男子達がぐぬぬと鬱陶しかった。


 さて、食事だ。


「ブリタニアの誇る、至高の料理です!」


 出されたのはフィッシュ&チップスだった。

 内陸国になってもフィッシュ&チップスなのか。

 味は……おいしいな。

 でも至高の料理とまではいかないかな。


 カチャカチャと食器の音が響く。


「皆さんは、どのような世界からいらっしゃったのですか?」


「うーん、魔法のない世界だよー」


「魔法がない?……そうですか」


「あまり驚かないんだな」


「まあ、この世界でも魔法を使える人は限られているので」


「王女さんって、何歳なんですか?」


「15です」


「あ、同じだねー。ユアちゃんって呼んでいい?」


「ええ。もちろん」


「ごちそうさまー。あーおいしかったー」


「早!」


「あ、食べ終わったのでしたら、自由に城を見学してもらって結構ですよ」


「じゃあそうするー」


 女子が一人走っていった。

 食うのめっちゃ早いなあいつ。


「ご馳走さん」


「ごちそうさま!」


 続いて二人が食べ終わって走っていった。

 お前ら子供か!


「ご馳走さま」


「ご馳走しました」


「ごちそうでーす」


 続々と食べ終わり走っていく。

 お前らマジで子供か!

 ほら、姫さんが少し悲しそうにしてるよ。


「なあ、ユア」


「ふえ!?ななんでしょう!」


 なんか今星野から殺気を感じた。

 姫さんもなんか驚いてるし。

 さっきユアって呼んでいいって言ってたよな。

 俺は呼んじゃ駄目なのか?


「ユアって呼んだら駄目なの?」


「めめめ滅相もありません!」


「じゃあ私も日奈子でいいわよ」


「あ、分かりました」


「あんたに言ったんじゃないのに」


「はい?なんですか?」


「何でもない」


「ご馳走さま」


 俺も食べ終わってしまった。

 どうしよう。

 散歩しようかな。


「あの、わたくしと一緒に城を散歩しませんか?」


「ああ、そうしよう」


「はあ?駄目よそんなの」


 星野が口を挟んできた。

 ……なんだ突然。


「何か問題がございますか?」


「いや、その……ふしだらだわ」


「一緒に散歩をするというのは、そちらの世界ではふしだらなことなのですか?」


「いやいや、そんな馬鹿な」


「でしたら何も問題はございませんよね?」


「ああ、行こうぜ」


「ぐぬぬ」


 俺は王女と城を散歩することになった。

 他全員の痛い視線を浴びながら部屋を出て、適当にぶらつく。

 すぐにここがどこか分からなくなった。


「あとでユアの部屋行ってもいい?」


「え、えええええ!!」


 話題を間違えたか?


「いや、将棋っていうゲームのルールを教えようと思って」


「………あ、ああ。なるほど」


 そういえば、皆は迷わないのだろうか。

 さっきの案内だけで覚えるとか無理があるけど。

 迷ったら城の人に聞けってことか。


「もちろんいいですよ。そ、その……ばれないようにお願いします」


「ん?ああ分かった」


 俺、異世界……じゃなくて並行世界……もう異世界でいいか、に来たんだよな。

 しかも勇者として。

 特別な力をもって。

 とっくに諦めていた子供の頃の夢が叶ってしまった。やっべー興奮してきた。

 思春期男子として、この鼓動の高鳴りは、必然と言えよう。

 しかもユアなんてとんでも美少女だぜ?

 俺の心臓に追い討ちをかけるつもりだろうか。


「ユキヤさん」


「真広でいいよ」


「えっと……ま、マヒロ」


「なに?」


 ユアはとても真剣な目をしていた。

 え、告白?

 どどどどうしよう!


「わたくしの……お友達になってください!」


「……お、おう」


 まあいいか。

 自惚れすぎたな。


「やった!大好きです!マヒロ!」


 そう言ってスキップで去っていくユア。

 一瞬勘違いしたことは秘密である。

 いや本当に、心臓に悪い。


「勘違いしてそうね」


「うわ!」


 誰だし!聞いていたのか!

 ああ、黒橋か。


「雪夜君、少し時間いい?」


「ああ、いいけど」


「じゃああそこで話しましょう」


「おう」


 俺達はバルコニーに出た。

 雄大な景色が俺達を迎える。

 ちょうど黄昏時で、オレンジ色の光が辺りを包み込んでいる。

 とても幻想的だ。


「雪夜君」


「……おう」


 このシチュエーション、相手が恋人のいない人だったら、好きになってたかもしれない。危ない危ない。


「前世って、あると思う?」


「ないだろ」


「……そう、よね」


 なんだろう。質問内容と相まって、変なテンションになってきた。


「私……」


「ん?」


「実は、私……」


「なに?」


「ううん、何でもない」


 なんだよ。もやもやするなぁ。


「あなたは、もし明日世界が滅びるとしたら、どうする?」


「個人の力ではどうしようもないなら、笑って世界と運命を共にするさ。ただ、どうにかなるのなら、俺は必ず世界を救う」


「………え」


 黒橋は目を見開き、固まる。

 ……は、恥ずかしい!

 雰囲気って、怖い!


「そう、なんだ。うふふ、ありがとう」


 黒橋が微笑んだ。

 ちょうど風が吹き、黒橋の髪を揺らす。

 オレンジ色の光の中で、その笑顔はとても幻想的だった。

 こ、これはあかんぞ。

 駄目だ、心臓が勝手に。


「それじゃ、またね」


 黒橋が綺麗な黒髪を揺らして去っていく。

 思えば、黒橋とこんなに長く喋ったのは初めてだ。


 俺はふわふわした気分のまま彷徨う。

 道が分からないんだなー。

 人もいないしめっちゃ不安だけど、彷徨っていたら見知った場所に出てきた。

 ここからは分かる。

 何度か曲がり、俺はなんとかさっきの食堂に戻ってきた。


「ふぅー着いたー。俺天才!」


 ………なにかおかしい。

 静かすぎる。


「おーい、誰かいない?」


 俺の足音だけが響く。

 しばらく歩くと、なんだか臭くなってきた。

 なんだこの臭い。


「くっせー。なんだよこ………なんだよ、これ」


 そこには、血にまみれたユアの死体が横たわっていた。

 腕も足もなく、腹からは腸らしきものがとびだしている。俺はその場で嘔吐した。

 なにがなんだか、分からない。ついさっきまで笑ってたじゃないか。なんで突然。なんでこんなあっさり……。


「グギギ」


 曲がり角から、なにかが出てきた。

 黒い光沢を持ち、昆虫のような頭をもつ謎の生物。見る者に原初的な嫌悪感を与えるような姿。

 そいつが鉤爪を振り下ろしてきた。


「いっっっってえ!」


 肋骨が見えるほど胸を抉られ血が吹ふき出しているのをやっと理解したところで、等身大の死の恐怖が襲ってきた。同時に、理不尽への怒りがふつふつと込み上げる。

 ………こいつが、ユアを殺したのか?せっかく友達になった、ユアを?


「死ねえええ!!!!」


 呼気は勝手に声帯を揺らし、手は勝手に指輪をはめ、ピンク弾を撃つ。アドレナリンで痛みは忘れ、恐怖は怒りへ変換される。


「グキュウゥゥ」


 謎の生物は呻き声らしきものをあげ、爆散した右腕を庇うように下がっていく。


「逃がすかクソがあああ!!」


 俺の身体はそれを追い、ピンク弾を撃ちまくる。

 身体に数多の穴を開けられたその生物は倒れて動かなくなる。


「グキュゥ………ユギヤ、グン……」


 その生物の左の黒い鉤爪の薬指にあたるところにはめられた指輪がキラリと光る。

 ……ああ、なんで。


「姫神……」


 俺は友達を、殺してしまった。

 なんなんだよ。なんなんだよこれはあああ!!


「ギチギチ」


「ギュゥゥ」


「ギシャァァ」


 うじゃうじゃ出てきたこいつらも、そうなのかよ……。みんな、クラスメイトの奴らなのかよ!


「ああああ!!」


 殺せる訳がないだろくそ!

 やっと身体に思考が追い付いた俺は、皆の間を駆け抜ける。

 その時、ちらりと見えた。


「………黒橋?」


 廊下の最奥の窓際に、長い黒髪の少女が佇んでいた。

 俺は全力で走り、黒橋の腕を掴む。


「黒橋!逃げよう!」


「………」


 黒橋は俺の腕を払い、冷たい瞳で俺をみる。

 その瞳は紫色に光っていた。


「…………」


 黒橋は俺に手のひらを向ける。

 そこから紫色の光が溢れ、俺は吹き飛ばされた。

 くそ、訳わかんねーよ!なんで俺と黒橋は無事なんだよ!なんだよその紫の光!


 俺は後ろから扉にぶつかり、それを押し退けて中に入る。


「む。誰ですか?……なぜ無事なのですか?」


「お前は、リヴァル」


 元老院の男がそこにいた。

 その薄い笑いを見た時、俺はこの事態の黒幕を悟った。

 今思えばあからさまだった。

 俺達が気を失っている時に射たれた注射か。


「てんめえええええ!!」


 俺の身体は再び思考を置き去りにした。

 俺の身体は奴の顔面を殴り、眼球を抉り出し、喉を噛みちぎり、ピンク弾で体中穴だらけにした。

 だが、奴の口許から薄い笑みが消えることはなかった。


 奴は死んだ。俺が殺した。

 それでどうなる?

 なにが解決される?

 何も。


「グギギギギ」


 みんなが入ってきた。

 逃げるしかない。

 もしくは………殺すか。


「選択肢はもうひとつあるよ」


 声のした方に振り向く。

 そこにいたのは、仮面の男だった。


「誰だ、お前」


 怪しい。

 いかにもこの黒幕と通じてそうな雰囲気を醸し出している。


「僕は、君に託しにきた」


 こいつは何を言っている。

 抽象的なことばかり言って俺を惑わせるつもりか?


「さあ、選択だよ」


 仮面の男は腕を広げる。


「君に、全てを敵に回しても、彼らを助ける覚悟があるかい?」


「……なにが言いたい」


 彼らを、助ける?

 出来るのか?

 その『彼ら』には、ユアや姫神は入っているのか?


「もちろん、死んだ人達も含めて、ね」


「……なんだと」


 そんなことが可能なのか?

 何者なんだこいつは。

 いや、こいつが何者かなど、どうでもいい。


「はは、選択の余地ねーじゃん。なんだか知らんがさっさとしろ」


「ああ、分かっていたよ」


 その声はとても優しいものだった。

 男は手をこちらに向ける。


「無事、創り直してくれ……。【∞輪廻回帰∞】」


 ………なんだこれは。

 身体の内側からなにかに引っ張られていくような、俺の身体が急に無機質な人形になっていくような感覚。

 薄れゆく意識の中、男の仮面から、一筋の雫が零れ落ちてゆくのが見えた。


「君の存在こそ、僕達の存在意義だ」


 そして俺の意識は途切れた。




センター試験が終わりました。

これからは一般の方があるので、またしばらく更新出来ません。

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