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女神の加護/雪夜 真広

 


 俺達は城から少し離れた、騎士達や魔導師達の稽古する場所のうちの一つに来ていた。

 そこは森の中の、偶々木々の生えていない、広いスペースだった。

 気持ちの良い風がそよぎ、草が緑色の濃淡でグラデーションを描く。


「ゆ、雪夜くん、ほたるの指に……はめてくれない?」


「え、なんで?」


 自分ではめろよ。

 ……え、なんでそんなマジな目してんの?


「ほら、雪夜くん」


 姫神は左手の薬指を俺につき出す。

 真っ白な姫神の手を見ていると、なぜかドキドキしてきた。

 なんだよ。なんか恥ずかしいから嫌なんだけど。


「ま、待て、分かったから急かすな」


「う、うん……」


 俺は姫神の左手を取り、もう片方の手で指輪をそっと近づけていく。


「………なあ、俺たちなんで異世界に来てまでこんなの見せつけられてんだろう?」


「不思議だなあ。なんだろうこの理不尽」


「ほたるちゃんのあの行動力、あたしも見習わなきゃ」


 周りが少しうるさいが、なぜか緊張している俺の耳には、その内容は入ってこない。


「ゆ、雪夜くん、お願い早く……緊張で死んじゃうよ……」


「お、おう」


「そんなの私がやってあげるわ!…… はい!」


 突如乱入した星野によって指輪が奪い取られ、星野はそのまま迅速に姫神の指に指輪をはめた。


「……な、なんてことを……」


 姫神が愕然とした。

 俺も驚いたけど、星野は、初対面の人にいきなりパンを咥えながらダッシュするような人だ。

 こいつのこういう謎の行動には、ゆくゆくは慣れていかなければいけない。


「まひ……雪夜君、私にも指輪はめてくれない?」


「なんでだよ、嫌だよ」


「なんでよ!!この女には良くて、私にはダメだって言うの?!」


 星野が突如ヒステリックに叫んだ。

 この女ワケわからん。

 ていうか、『にも』じゃないだろ。姫神にはお前がはめたじゃんか。


「あれ、星野ちゃんってあんなキャラだっけ?」


「日奈子ちゃんが雪夜の毒牙に……」


 皆も驚いている。

 ……もう何このいざこざ。

 早く俺の力が知りたいんだけど。


「?!………な、なーんて、ね!」


 星野が舌を出してウインクする。


「なんだ、演技か……良かった……」


「もう、星野ちゃんったら、お茶目さんなんだから」


「………あ、あの」


 あ、この謎の流れに王女さんがついてこれてない。

 一人で所在なさげに立ち尽くしている。


 ………もう本題入るぞ!


「てりゃ!」


 俺は指輪をはめた。

 すると、指輪からピンク色のもやもやが立ち上る。

 これが女神の加護か?


「あー!雪夜君が勝手に指輪はめたー!」


「ずりーぞ真広!俺も俺も!」


 なに?みんなで一斉にはめるつもりだったの?

 姫神も完全にフライングでしょ。いいの?

 まあいいや。

 俺は王女に向き直る。


「はめたけど。どうやったら力出せるの?」


「そ、そんなのわたくしに訊かれても……」


 だよねー。

 仕方ないから、適当にいろいろ試してみるか。


「ほいやー。なんか出ろやー」


 俺が手を前に翳すと、そこからピンクの光の玉が飛び出した。

 ………うおー!すげー!


「うおー!真広すげー!」


「俺も!なんか出ろー!」


「うわ!なんかビーム出た!」


「わ、私、巨乳になったわ!」


「魔法少女梨沙子、へーんしん!……出来ない」


「鎮まれ我が右腕!……え、ほんとに鎮まった……」


「すごい!パンティーが透けて見える!……お前黒か、大胆だな」


「こんの変態!近寄るな!」


 人によって力の種類が様々なようだ。もしくは選んだ指輪によってか。

 数分いろいろ試し、姫神に声をかける。


「姫神」


「なーに?雪夜くん」


「指輪、交換しよう」


「……え!雪夜くんと?!指輪を交換?!もちろんだよ!」


「こんなものぉぉ!おりゃあああ!!」


「あああ!ほたるの指輪!!何するの星野ちゃん!!」


 マジでこの女の行動が予想出来ない。

 いきなり他人の指輪奪ってどっかに投げるとか、何を考えてるんだろう。


「はい!私の指輪と交換しよう!ね?!」


 目が血走ってて怖いんだけど。

 ああ顔を近づけるな!心臓に悪い!

 お前顔だけはやたら良いんだから、そんな近寄んなバカ!


「わ、分かった……ど、どうぞ」


「ありがとうまひ……雪夜君」


 星野は俺から受け取った指輪を血走った目で見ながら、そっと左手の薬指にはめた。

 俺も右手の人指し指に指輪をはめる。


「なんか出ろー!」


 先程と同じピンクいのが出た。

 ちなみに先程試したが、ビームは出なかったし、胸は大きくならなかったし、パンティーは見えなかったので、皆が違う能力であるのか、何パターンかあるのか、どっちかだろう。


 ……数分経って分かったが、皆力はバラバラだった。

 別に巨乳になりたい訳でもないし、俺の力がピンク弾(by野淵)で割かし良かったと思う。使いやすそうだし。

 ……パンティーは見たかったけど。


「星野ちゃーん!俺にもブーストお願い!」


「……はーい」


 星野が周りに聞こえないように舌打ちし、男子のもとへ向かっていく。

 星野の力はブーストで、触れた相手の力を数十秒間増幅させるそうだ。


「真広ー!勝負だー!」


 野淵が俺に勝負を挑んでくる。

 その右手には、ピンク一色の剣。

 あれが彼の力らしい。


「ほい」


 俺は数発ゆるめのピンク弾を撃つ。

 野淵は剣を振るがかすりもせず、見事顔面や股間などにピンク弾が命中し、野淵は倒れ伏す。

 股間に当たった時が一番痛そうだった。

 ビクビクと痙攣する野淵の前で立ち尽くしていると、王女が近づいてきた。


「いかがですか?女神様のご加護は」


「まだよく分からんけど、良いと思う」


「そうですか。それは良かった」


 王女は無邪気に笑った。

 俺が思わず王女の笑顔に見惚れていると、星野がやや焦り気味の声音で俺に話しかけてくる。


「雪夜君もブーストしてあげるよ!じゃあね姫さん!さよなら!」


「え、ええ」


「じゃあ雪夜君、手を翳して待ってて」


「お、おう」


 俺は手を前に翳してブーストされるのを待つ。

 後ろから星野がそっと俺に触れてくる。


「うわぁ!ちょっと?!どこ触ってんの?!」


 こいつ、ち○ちん触ってきた!

 あり得んだろこのビッチ!


「う、うん?私、よく見てなかったから分かんない。私がどこを触ったとしても、べつにわざとじゃないよ?」


「今度はよく見て触ってくれる?!」


「よ、よく見ろですって?!え?見ていいの?!きゃー♡」


「え、なんか噛み合ってないんだけど?!もう変なとこ触んないでよ?!」


 何これ?!

 貞操の危機を感じる!

 て言うかこれ普通男女逆じゃね?!


「雪夜君、もうブーストされてるはずだから、ピンク弾撃ってみて」


 星野が自分の手のひらをみてうっとりとヤバイ感じの目をしながら、俺に言ってくる。

 おし、俺、何も知らない。何も見てなーい。

 俺は咳払いし、ピンク弾を撃つ。


「おりゃー!」


 今まで手のひらサイズだったピンク弾が、直径約一メートルになって飛んでいく。

 ……すげー。


……ちなみにこの後、みんなで姫神の指輪を探しましたとさ。




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