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異世界/雪夜 真広

 



 目が覚めると、青い瞳と目が合った。


「あ!……あ、ちがっ!違います!」


 あたふたしている。

 面白いな、この子。



 ▲▼▲▼



「勇者様方の体が魔力に驚いてしまったのでしょう。恐らくもう大丈夫です」


 そう言ったのは、先程のおじさんで、リヴァルとか言ってたか。

 皆も目を覚ましており、リヴァルの話に安心している。


「リヴァルがお薬を注射してくれたんですよ?」


「ひ、姫様……それは……」


「あ、すみません」


 なんで慌ててんだ、あのおじさん?

 別に隠す必要ないだろ。


「それで、どうして俺らを呼び出したんだ?俺達はただの高校生で、なんの力も無いぞ?」


「勇者様方には、この世界へ呼び出される途中に、女神様の加護が授けられているはずです。その力で我らが敵を倒してほしいのです」


 リヴァルが答える。


「ほええ!女神様!?」


「女神……」


「なぜだ?」


「女神様の世界は、この世界と勇者様方の世界の狭間にあるのです。ですから、そこを通る時に御加護を授けられている可能性があります」


「可能性で呼び出したのかよ……。ちゃんと帰れるんだよな?」


「もちろんです。きちんとお役目を果たしていただけたら、元の世界へお返しいたします」


「私やだよ!戦いなんて絶対いや!」


 女子の一人が喚きだした。


「そうだよ!帰せよ!親が心配するだろ!」


「帰る時の時刻は呼び出した時と同時刻、同座標になるので、そこは問題ありません」


「で、でも……帰りたいよ……」


 だよなー。

 俺も帰りたい。


「皆様!本当に皆様のお力が必要なのです!どうかお願いします!力を貸してください!」


 姫様らしき水色の髪の美少女が土下座をした。

 この世界にも土下座があるんだな。


「お願い、します……」


 ………必死さは伝わってくる。


「でも………」


「そんな突然言われても……」


「私絶対やだ」


 少女は顔をあげない。


「どうか……お願い……します」


 ……いやはや、大したものだ、美少女の土下座の威力は。


「みんな!折角の機会だ!楽しもうぜ!」


 まったくもって俺らしくもない、まるでクラスのリーダーのようなことを口走ってしまった。野淵に任せておけばいいものを。


「雪夜くん……」


「そうだな!雪夜の言う通りだ!」


 皆の表情がだんだん肯定的になっていく。

 え、なに?俺の発言ってこんな影響力あんの?


「私は嫌だよ」


 それでも先程から嫌がっている女子は意見を曲げない。


「リヴァルさん。彼女だけ帰らせたいのですが」


「す、すみません。その魔法は一度しか使えないので、彼女がお帰りになりますと、他の皆様が帰れなくなります」


 まじかー……。


「みんな帰ろうよー」


 その女子は涙目になっていく。

 だが、彼女以外は皆乗り気だ。


「ま、戦いたくない人は戦わなくていいだろ。後ろで見てれば。いいですよね?」


「ええ、構いません」


 この条件で、なんとか説得する。

 最終的に、俺が壁ドンして強く迫り、彼女が赤くなってうつむきながら承諾した。その後、女子の猛反発を食らった。



 ▲▼▲▼



 その後、俺達は城の案内をされた。

 天井は高く、尖塔になっている。

 ステンドグラスとかあるし、元の世界でいえばゴシック様式あたりか。

 国王はヘンリ2世。

 王妃の名前はエレオノール。

 あと第一王子のエドワードと第二王子のジョン、第三王子のリチャード。

 あと、王女のユア。


 元老院は100人くらいいた。

 一応皆に挨拶されたけど、覚える気が失せたので、リヴァル以外誰も覚えてない。


 あと宰相やら教皇代理権限者やら出てきたけど、もういいや。面倒くさい。


 この国の政治のシステムが全く分からない。教皇代理権限者とかなんだし。聞いたことないし。


「次が最後の部屋になります」


 硬質な床に俺達の足音が響く。


 そういえば、教皇代理なんちゃらがいるってことは、教皇がいるんだよな。

 てことは、この世界にもキリスト教があるのか?


「教皇って何教の教皇なの?」


「ヘレナ教です」


 ヘレナ……。例の女神だろう。

 ギリシア神話のヘレネに名前は似てるけど、関係ないよな。


「その、首にかけてるのは?」


「十字架です。ヘレナ教徒のお守りみたいな物です。私の先祖に使徒アンデレがいて、彼の十字架を受け継いでいるので、私の十字架は×型なのですけど」


 キリスト教じゃないのに十字架か。

 ×字だから、最初は十字架だとは分からなかった。

 十字架にもいろんな形があるのか。

 そのヘレナって人がキリストの代わりなのか?


「他にはどんな神がいるんだ?」


「?……ヘレナ様が神ですが」


 一神教か。


「周辺の国はどんなだ?」


「西側に神聖ローマ帝国、東側にオリンポス、北にサルデーニャ王国が接しています」


 ………め、滅茶苦茶だ。

『接しています』って言ったよな。

 ここはブリタニアって言ってたから、元の世界のイギリスかと思ってたけど、『接して』いるってことは、ここ、思いっきり内陸じゃないか。


 神聖ローマはドイツかな。

 オリンポスは……ギリシアか?

 サルデーニャはイタリアだろう。

 イギリスの西側にドイツ、東側にギリシア、北側にイタリア。

 もう位置関係がぐちゃぐちゃじゃないか。


 もし本当にこの世界が並行世界なのだとしたら、一体どこから分岐したのやら。

 もう地球が誕生する時とかそんな辺りじゃないか?魔法とか前の地球にはないし。


「その辺りの国はみんなヘレナ教なのか?」


「信仰は個人の自由ですが、大体みんなヘレナ教ですよ」


 信仰の自由は良いことだ。

 ヘレナ教じゃないからって迫害とかされたら堪らないし。


 ……この辺りはヘレナ教文化圏ってことでいいのか?

 元の世界でいうヨーロッパらへんか。

 イスラーム教の代わりの宗教の文化圏とかもあるのだろうか?

 あと中国とかどうなってるんだろう。

 日本は………さっき出たヤマトってやつがそれっぽいな。ていうか日本語を広めたのがヤマトって言ってたから、もう確定だろう。

 世界を支配したって、どんだけ強かったんだよ……。


「……すごい」


 黒橋が俺を見て目を丸くしている。

 ……俺なんかしたか?


「俺ばっか質問してるけど、みんなはいいの?」


「私達はいいや」


 なんだよ。

 なんか、浮くじゃんか。


「なんだよ雪夜ー、そんな考えなくてもいいじゃんかよー。一緒に異世界生活楽しもうぜ!俺TUEEEEしようぜ!」


「そうだな」


 そういえば、コンタクトレンズの人、どうすんだろう?

 この世界って多分ないよな、コンタクトレンズ。

 街並みを見たけど、ビルとかなかったし、そこまで科学が発達してないだろう。

 代わりに魔法が発達したとかそんな感じか。

 眼鏡はあるのか?

 あ、さっき会った元老院の人が眼鏡かけてたな。


「他にご質問は?」


 ふーむ。


「この大陸の他に、大陸はあるのか?」


「ない……と思いますけど、まだ見つけてないだけかもしれません」


 他に大陸を知らない、か。

 もしくは大航海時代みたいなのがきたら新しく発見とかするのだろうか。

 それにしてもアフリカ大陸くらいは知っていていいはずだ。

 地球規模で地形が違うと考えた方が良さそうだな。


 それなら地球誕生時からの並行世界説が正しそうだ。


「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「真広だ」


「マヒロ………素敵なお名前ですね」


 そういえば、言語も発達してるな。

 現代の日本語で十分会話が出来るじゃないか。

 もし『ござる』とか言ってる頃以前の日本語が世界言語になってたら困ってたところだな。

 ヤマト帝国はそれなりに進んだ文明を持っていたようだ。


「なななな、なにか?!」


 王女の髪型は普通だな。

 綺麗に結ってある水色の髪に、控え目に髪飾りが飾ってある。

 中世ヨーロッパの貴婦人の訳の分からない髪型ではない。


「わた、わたくしの顔になな何か?」


 顔立ちはそこまで彫りが深くなく、どことなく日本人っぽさがある。

 ヤマト帝国支配下時代にヤマトの血が混ざったのだろう。

 それにしても綺麗な顔してるな。


「雪夜くん!そりゃ王女さんは綺麗だけど、ダメー!」


「まひろ?こんな女のどこがいいの?」


 そういえば元老院って古代ローマの政治機関だったような。

 ヘンリ2世の時代と年代が合わないな。

 たしか日本の明治時代の立法院にも元老院ってあったから、ヤマト帝国の時代にあった元老院を受け継いだのか?

 でも明治時代だぞ?

 街並みを見た感じだとそこまで文明は進んでないぞ。


「うーむ」


「うみゅ~~」


「な、なによ見つめ合っちゃって……」


「くっ、またあいつか……あのイケメンめ!」


 安直にこの世界の文明レベルを低く見積もるのも避けた方がいいか。

 たしかに向こうの世界よりも科学は発達していないようだけど、こっちの世界には魔法があるからな。


 そもそもこの世界はおそらく地球誕生時からの並行世界だ。

 もう異世界みたいなもんだ。

 元の世界なんて、当てにならん!

 よし、もうこんな面倒くさい考察やめよう!


「……ん?どうした?熱でもあるのか?」


「いえ!なんでもないでひゅ!」


 なんでそんな真っ赤になってるんだ?


「もう!デリカシーがないよ!雪夜くん!」


「ねえ、もう一度まひろに色目を使ったら……」


 姫神が俺にぷりぷり怒り、転校生、星野が王女に包丁を見せつける。

 ………は?!包丁?!

 何あいつ!こっわ!

 皆に見えないように、王女にしか見えないように計算されている。

 恐ろしい女……。

 気づいてるのは俺だけ、か。


「あのー、星野さん?それ危ないからしまおう、ね?」


「うん分かったわ、まひろ……おい雌狐、まひろの優しさに感謝しろ」


 よ、良かった……。あっさり引いてくれた。

 勇気だしてたしなめて良かった。

 あと後半声が小さくて聞き取れなかったけど、王女が、とても恐ろしいものを見たような表情をしていた。


「つ、着きました。ここで最後です」


「……机?」


 広い部屋にぽつりと丸く机があり、その上に黒い箱が置いてあった。

 皆で机を囲み、王女が箱を開ける。

 そこには、約50個の指輪があった。


「研究者達が何代にもわたって研究して作り上げた、『女神の指輪』です。皆さんに働いている女神の加護を圧縮し、力として顕現させます」


「まじか!すげー!」


「そもそも女神の加護ってなに?」


「身体能力の向上と魔法への耐性……らしいです」


「どんな力になるんですか?」


「それは分かりません」


「じゃあ試してみようぜ!」


「そうだな!」


「では、宮廷魔導師の練習場を貸し出しましょう」


 こうして、俺達の得た力が明らかになる。





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