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ルートC/雪夜 真広

 

「購買行こー」


「そだね」


「さ、桜ちゃん!パ、パンを買ってきましょうか?」


「俺の彼女に近付くなデブ」


「雪夜くーん、はい、お弁当」


「真広に近付くな殺すぞメス豚」


「ちっ、この歩邪魔だ……たかが歩の分際で飛車の邪魔をするとは、生意気な」


「俺昨日も下駄箱にラブレター入ってた………雪夜宛てのな!ほんっと、リア充死ね!」


 それぞれが思い思いの行動をして過ごしている休憩時間。


 俺は窓際の席で、相変わらず将棋をしていた。

 大きな道路が近いので、排気ガスで空気が汚い。

 空は曇っていて、なんとなく気分が晴れない。


 ブレザーを椅子にかけて、カーディガンの左袖を伸ばして左手を半分隠し、右手で将棋をしていたのだが、目の前の将棋の画面が突然なにかに隠された。


「もー、聞いてる?はい、お弁当」


「ああ、いつもありがとな」


「………え?」


 なんでも姫神は料理の練習をしていて、その余分に出来たものを俺に分けてくれているらしい。

 それはこちらとしても有り難いので、お礼を言ったのだが、驚かれてしまった。


「その……うん」


 姫神は顔を俯かせて赤面する。

 お礼を言われただけで照れるとは、なんとピュアな。


「…………え」


 床が、光っている。

 見間違いだよな。


 目を擦り、もう一度見るが、やっぱり光っている。

 光は次第に強くなる。


「え………え?」


「ちょちょちょちょちょ………ちょ!」


「はあ?!なにこれ!!」


 皆も気付いたようだ。


「これ異世界転移じゃね?!」


 名前忘れたけど、オタクのやつが叫んだ。


 ふと、周りと対照的に極めて冷静に周りを見回している黒橋が目に入った。

 それにひどく違和感を感じた。


 次の瞬間、景色は一変していた。


「……………は?」


「………なに、これ」


「異世界転移来たーー!!」


 白く光沢のある床に、大きな柱が数本立っている。

 どこかの宮殿の中のようだ。


「すーー、はーー」


 空気が澄んでいる。

 窓から覗く青空には、雲ひとつない。


 どうやら、あのオタクが正しかったようだ。

 ……異世界ということは、地球でないということだよな。

 空気の成分とか、重力の強さとか大丈夫か?

 まあこうして立っていられるってことは、大丈夫ってことか?


「あ、あの………あの!」


 か弱そうな声が響き、少し遅れて少女が柱から顔をだす。

 この世界にも人間がいるのか。

 いや、人間にそっくりの別の生き物か?

 というか、日本語喋ったよな、あいつ。

 それとも、『あの』ていう発音の別の言語か?


「か………可愛い!」


「可憐だ……」


 見たこともない、透き通るような水色の髪と同じく、瞳も蒼穹のような美しい青。

 神秘的な美少女だ。

 あの水色の髪、見た感じ地毛だな。

 異世界だからか?


「えっと、あの………すー、はー……」


 少女はあたふたとしていたが、深呼吸をすると、まるで別人のように落ち着き払った立ち姿になった。


 俺達を静かに見据える。

 誰も彼女から目が話せない。


 少しの間をおき、少女はその艶やかな唇を開く。


「わたた、た、くしは、王女、ユアと申します」


 最初、別の言語かと思ったわ!

 ただ緊張してただけかよ!


 ……ただ、今ので、この世界の……人間?が、日本語らしきものを喋れることが分かった。


『王女』ね。

 やはりこの世界にも国という概念がある。


「うふふ」


「くすくす」


 最初はその神秘的な容姿から緊張していたが、『わたた、た、くし』の辺りで皆の緊張が解けたようだ。


 王女ユアは、赤面しながら続ける。


「勇者様方を召喚したのは、この国の脅威を取り去って欲しいからです」


「待って」


 なんだ急に。

 俺達ただの高校生だし。

 勇者とか無理だし。

 そもそもここはどこかを先に知りたい。


「そもそもここはどこ?」


「ここは地球という世界の、ブリタニアという国の宮殿の一室です」


「地球……という世界……?」


 なんだ?

 ここは異世界なんじゃないのか?


「偶然同じ名前の異世界……?まあいい。それより、どうやって俺達をここへ連れてきた?」


「そんなの魔法に決まってるだろ!異世界なんだから!」


「その通りです。魔法です」


 ザワザワし始める生徒達。

 俺は質問を続ける。


「なぜ言葉が通じる?」


「そんなの翻訳の魔法かなんかに決まってるだろ!異世界なんだから!」


「翻訳の魔法?……それだと口の動きと聞こえる声がずれるだろ。見た感じ口の動きは合ってるぞ、俺達の方も」


「え………それも、そう……だな……」


「この言語は、かつて世界を支配した超帝国、ヤマトが定めた世界言語です」


「………ふむ」


 いくらなんでも、異世界でたまたま同じ言語というのは出来すぎている。

 この時点で、この世界が並行世界であると俺は予想をつけた。


「脅威というのは?」


「はい。イビルという………えっと、黒くて、大きくて、硬くて……」


「あの、その言い方はちょっと……」


 一人の女子が頬を染めながら意見する。

 なにか気になることがあったようだ。


「私から説明しましょう」


 低めの声のその人物は、俺達の後ろから現れた。


「うわっ、びっくりした」


「驚かせてしまったようで申し訳ありません。私は元老院のリヴァルと申します」


 やや目付きの鋭い中年の男だ。


「イビルは、黒く光沢のある外骨格に覆われた、二足歩行の人間サイズの生物です」


「なるほど。他に何か特……長………」


 突然、目眩が襲ってきた。


「……ん」


「うっ……」


 皆も同様のようだ。

 やはり何かが俺達の体に合わなかったようだ。


「い、いかがされましたか勇者様方」


 症状は悪化の一途を辿る。

 皆ばたばたと倒れていく。


「うっ……!」


 酷い頭痛と共に、俺も意識を失った。




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