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ラブレター騒動/雪夜 真広

 




「おめでとうございます。あなたは選ばれました」


 桜は真っ白な空間にいた。

 なぜか学校の制服を着て立っていた。

 相手の姿は見えない。

 なのに声だけ響く。

 麗しい女性の声だ。


「………どうして、私なの?」


 桜はどこともしれない空間に質問する。


「…………」


 声は答えない。

 数秒待つ。


「…………」


 やはり声は答えない。

 桜はめげずにさらに待つ。


「………えー、ぶっちゃけ適当に選びました」


 声はとても小さく答えた。


「で、選ばれたらなにがあるんですか?」


 桜は答えになんの反応も示さず、次の質問をぶつけた。


「近々異世界へとばされるでしょう。そのままとばされるのも貧弱過ぎて可哀想なので、なにか特別な力を与えます。どんな力がいいですか?」


「異世界……」


 桜は僅かばかり驚き、考える。

 顎に手をあて、思考を加速する。

 数分後、桜は答える。


「じゃあ、――――――



 ▲▼▲▼




「よう、瑛太」


「おう、颯太」


 俺の名前は雪山 瑛太。

 ごく普通の高校一年生だ。

 今日もいつも通り、平和な一日だ。


「お、二人とも今日は早いな」


「おっはー」


 後ろから現れた大柄の男子、五郎と挨拶のハイタッチを交わし、俺達三人は仲良く登校する。


 ぐだぐだ話しながら学校に着いた。

 下駄箱を開けると、ピンクの封筒が鎮座していた。

 俺はそっと扉を閉める。


 なななななにが起こった!!

 ままままままさか?!

 ラ、ラブレ、ラブレ!


「うおおおおおお!!!!」


「きゃっ」


 近くの女子が怯えて逃げていく。


「どうした瑛太?」


「下駄箱になにかあったのか?」


 まずい。

 俺の下駄箱に入っているものをこいつらに見せてしまったら、こいつらはきっとそんな現実、耐えられない!


「にゃ、なにゅもにゃいぞん?」


 今の俺の完璧な演技を見た二人は、顔を見合わせる。

 そして、なぜか二人とも俺と肩を組んできた。


 二人ともちょー笑顔だ。

 俺もつられて笑顔を返す。

 やっぱり、友達って、いいなぁ。


「俺達、友達だよな?」


 今更なにを言ってるんだ?

 当たり前だろ。


「あはは、当たり前だろ?童貞君」


 二人がもっと笑顔になった。

 俺も笑顔。


「リア充は、敵だよな?」


「ア、アタリマエダロー?」


 俺はただ、なんの偽りもない本心を答えた。


「はっはっはっはっ」


「ふっふっふっふっ」


 二人は笑う。

 俺も笑う。


「おい颯太!下駄箱開けろ!」


「ああ!」


「あはは!手が滑ったー!」


 俺は手が滑って、颯太の股関に発勁を決めていた。


「……痛いじゃないか、どうして邪魔するんだよ。何もやましいことないんだよな?」


「はは、当然じゃないか」


「この俺の目を見て誓えるか?」


「ああ、当然だろ!何もやましいことなんてない!少しは友達を信じろよ!」


 俺は颯太の目……のちょっと横を真っ直ぐに見て答えた。

 友達を疑うなんて、本当に信じられない。


「なあ、ちゃんと俺の目を見ろよ?」


「いや、ちょっと眼球が滑って……。大丈夫、ちゃんと心で通じあってるから」


「じゃあ俺の今お前に抱いている感情分かるか?」


「友情」


「残念、外れだ」


「……まさか、恋?……ご、ごめんな!俺、そういう趣味はないんだ!ごめんな!」


「………………」


「……そ、そういえば、この前先輩の女子が五郎のこと好きっていってたけど」


 ガゴンッ

 五郎の顔面に颯太の拳が突き刺さった。


「俺達、友達だよな?」


 颯太は拳をポキポキ鳴らしながら五郎に問うた。


「当たり前じゃないか、颯太。友情を疑うようなやつは、女にモテないぞ?」


 それは、今まで見たこともない爽やかな表情だった。


 ガゴンッ

 再び五郎の顔面に拳が突き刺さった。


「ごめんごめん、嘘ね」


 ガゴンッ

 俺の顔面に五郎の拳が突き刺さった。

 俺は鼻血を流しながらも心に余裕があった。

 ああ分かった。

 これがリア充というやつだ。

 リア充というのは、目の前の二人のような心の狭い童貞とは違い、心の広い、優れた人間なんだ。


「あったぞ!ピンクだ!処刑だ!」


 いつの間にか下駄箱が開けられていた。

 もう隠してもしょうがない。

 憐れなる童貞達に耐えられるかどうか分からないけど、友達を信じて見せてあげよう。俺、心広いから。


「待て、まだだ!まだラブレターと決まった訳ではない。開けて読むんだ」


「そ、そうだな」


 なに?!

 なんてことを言うんだ!このイカ臭い腐れ童貞共!

 このハートのシールにピンクの封筒、絶対にラブレターに決まっているではないか!


『一目見た時から、あなたのことを忘れられません』


 はっはー!見たか下々の者よ!

 これがラブレターというやつだよ!


『日に日に募るこの想い。もうあなたのことを考えすぎて、夜も眠れません』


 いや~まいっちゃうな~。

 これが高校デビューってやつ?

 いやーほんと童貞諸君、ごめんね?


『もうこの想いを抑えることができません。放課後、屋上へ来てください。どうかこの想いを受け取ってください』


 はーい!瑛太、行っきまーす!

 




『――雪夜 真広くん』







 二人は、先程とは違う温かな笑顔で俺を慰めてくれた。

 とても友情を感じた。


 俺は、泣いた。




 ▲▼▲▼



 黒い異形の化け物が迫っていた。

 森の中を、子供達は必死の形相で逃げる。


「はぁ、はぁ、うっ、はぁ」


 子供達の体力の限界を迎えようとしていた。

 近づいてくる黒い異形。


「うっ、あ………」


 一人の少女が盛り上がった木の根に足をひっかけ転んでしまった。


「マリー!」


 茶髪の少年が駆け寄り、手を伸ばす。

 その間に、黒い異形は二人を囲んでいた。

 生き残りたいなら、少女を見捨てるべきだった。

 たとえ想いを寄せる相手でも。


「マリー!俺はっ!」


 少年は少女を抱きしめる。

 これが最後の瞬間だと思うから。


「………ぃや」


 少女は目を目一杯に開いて震えていた。

 目の前で両親を黒い異形に食べられた過去を想起し、そのトラウマが現実の恐怖を倍増させる。


 異形――イビルの昆虫のような口がギチギチと動く。

 イビルは戸惑っているように見えた。

 もしそうなのだとしたら、理由は明白。

 二人の傍にいつの間にか静かに佇んでいる少女の存在だ。


 短めに切り揃えられた黒髪は艶やかで、日本人形のような整った顔には表情を浮かべておらず、赤い刺繍の入った黒の和服を着ている。


 少女は腰にさしてあった刀を抜く。

 ゆったりした動作なのだが、その間にイビルは襲ってこない。

 少女が刀を構えると、刀身が赤く光りだした。

 この時になってようやくイビルの生存本能が機能する。

 だが遅すぎた。


 逃げ出そうとしたイビル達の上半身だけが後ろへ進み、そのままポトリと落ちる。

 周囲の木々も等しく切断され轟音と共に崩れ落ちる。


 少女は薄く笑った。


 ―――瞳を赤く輝かせながら



 ▲▼▲▼



 なんかすげー睨まれてるんだけど。

 今授業中なんだし黒板向けよ、雪山。


「つまり、主人公は恋文を間違えて渡された訳ですね。はい、この時の心境は………では、雪山君」


「はい」


 声低!

 誰だよ!


「はい。死ねばいいと思います」


 な、なんで俺を睨むんだよ……。

 その『思います』って誰が思うのかなぁ?

 主人公くんだよね?そうだよね?


 ……なんだそのピンクの封筒?

 しかも……しかもハートのシールだと?

 まままさかさかさかかかかラブラブレラブラブレ


「ふんっ!」


 あいつ!破りやがった!

 そして俺へドヤ顔を向けてくる。

 彼女のいない俺への当て付けか?!

 ラブレターなんて大したことないと?

 女には困ってないと?

 ははーん?

 さてはこいつ、『敵』だな?


「ぐず………あぁぁぁぁ!!」


 泣き出した!

 え?なに?なにがしたいの?


「よくやった瑛太!」


「よくぞあのリア充野郎に一矢報いたな!」


「あのー、授業中……」




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