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転校生はヤンデレストーカー/雪夜 真広

 






「転校生を紹介します」


 なんということだ。


「星野 日奈子さんです」


「星野 日奈子です。髪は茶色ですが、染めているわけではありません」


 家に帰ってもいいだろうか?

 俺、今日は急に体調が優れなくなるような気がする。


「好きな食べ物はマカロン。嫌いな食べ………」


 転校生は、俺と目があって固まった。


「あのー、星野さん?」


 先生が呼び掛けると、はっとしたように視線をそらし、


「彼氏はいません」


 瞬間、男子達から爆発的なオーラが吹き出した………ような気がした。

 うん。みんな目が本気だ。

 まあ、見た目だけならすんごい美少女だし、分かる気もするけどね。

 漫画にでてくる学園のアイドルとか言われるような容姿そのままだ。


 てか、嫌いな食べ物の話じゃなかったっけ?


「彼氏は、今までいたことありません。初恋は小学三年生の頃です。好きな男の子のタイプは、色が白くて、身長はやや高めで、将棋が強い人です」


 ちらっちらっ


 なんかよく目が合うな。

 気のせいかな?


「それと、彼女がいるっていう嘘をつく人は嫌いです」


 なんでこんな睨まれてるんだろ。


「ねえねえ、雪夜くん、消しゴムとってくれない?」


 隣の女子が無声音で話しかけてきた。

 視線をたどると、俺の椅子の下に消しゴムが落ちていた。

 俺はそれを拾い、隣の女子に手渡す。


「おっと」


 女子の手に落とそうとしたけど、少しずれたらしく、その指の間を落ちていく。

 だから俺はとっさに消しゴムを掴もうとして、同じ行動にでた女子と、握手するような形になった。

 お互いの手で消しゴムを包んでいるような感じだ。


「あ♡……ご、ごめんね雪夜君」


「こっちこそごめん」


「そそそそれと、軽々しく女性に触れる男は、大っ嫌いです!以上です!」


 突然なんの話だ?

 変わった自己紹介だな。

 まあ、この転校生が訳のわからないやつだってことは今朝から知ってるけど。


「はい、では、質問はありますか?」


 俺と野淵以外の男子全員が、どんな授業よりも真剣な表情で、静かに手をあげた。

 静かなのだが、なんというか、なにかが渦巻いている。


 当てられた男子は、おずおずと質問する。


「卒業した小学校はどこですか?」


 うーん。

 質問の意図が分からん。


「六見小学校です」


 あ、俺と一緒じゃん。

 ……だからなんでこんな睨まれてんの?



 ▲▼▲▼



 変な雰囲気の中、質問コーナーも終わり、休憩時間に入った。

 転校生はあっという間に男子に囲まれた。

 よし、チェスやろう。






「実は俺、将棋大好きなんだー」


「奇遇だな。俺もだ」


「見るんだ!この不健康に白い肌を!」


「こら男子、日奈子ちゃんが怖がってるじゃない」


 視界から真広が消えた。

 日奈子は首を傾けて、密集する人ごみの中から、遮るもののないルートを見つけ出した。


「はい!お弁当!」


 いかにもぶりっ子な感じの、小さな女が真広にピンクの箱を渡していた。


 日奈子はその光景を凝視する。


「おう」


 真広はスマホから一瞬目を離し、気楽な感じにそれを受け取った。

 まるでそれがいつものことのようで。


 ぎりっ


「ひ、日奈子ちゃんが怒ってるよ。男子たちもうどっかいきなさい」


「どこがだよ。星野さんめっちゃ笑顔じゃん」


「いやでも一瞬――」


「このクラスで付き合ってる人ってどのくらいいますか?」


 日奈子の質問に、喧騒はやみ、誰が答えるのかというような会話を視線で交わし、一人の男子が答える。


「このクラスに二人で、その二人が付き合ってるよ……だよね?」


「そゆことそゆこと」


「それは、誰?」


 敬語を忘れている。

 眼球が小刻みに揺れている。

 呼吸は浅くなり、日奈子は無意識に左手を胸の谷間におく。

 大きめで形の良い双丘が、ぷにゅっと形を変える。


「ふんっ」


 女子数人が忌々しげに鼻を鳴らした。

 なにか気に入らないことがあるようだ。


「それは、あそこにいる黒橋さんと、その横の野淵だよ」


「野淵のことは嫌いじゃないけど、この話をするときだけは呪い殺したくなるよな」


「ああ、リア充爆発しろや」


 男子達も機嫌を損ねてしまったらしい。


「そぅぉ~~う」


 日奈子の少しつり上がり気味の目尻が、ほぼ直角に垂れ下がる。


「ほ、星野さん、すごい顔してるよ?」


「そんな日奈子ちゃんも可愛い!」


 ゆるんだ顔のまま、日奈子の意識が自分に集まる生徒達に向く。

 男共の視線が、自分の鎖骨とお腹の間のふくらみに集中していた。


「………」


 だるんだるんだった目が、一気に絶対零度になった。

 一瞬で汚物を見るような目に変化した日奈子に、即座に男子達は目線を上げた。



 ▲▼▲▼



「はやく金出せよ」


 生まれ変わったら、雪夜のようなイケメンになりたい。

 もしくは、野淵のような人気者。


「野淵……」


 意図せず口から憎いあいつの名前がでた。


「ああ?なんだぁ?はやく金!腹へってんだよ」


 くそっ

 なんで僕がこんな馬鹿そうなやつらに金をあげなきゃならないんだ。

 僕がデブだからか?不細工だからか?


 誰かに見られていると嫌なので、何気なく辺りを見回すと、遠くからこちらを見つめる美少女と目が合った。


「――っ!」


 僕の恋い焦がれる相手、黒橋 桜。

 見ら……れている。

 僕が金を巻き上げられるところを。


 こんなところを、桜ちゃんに?

 嫌だ。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


「ちょっと!何してるのよ!」


 可愛らしい声が後ろからした。


「先輩をいじめるなんて、許さないんだから!」


 振り向くと、金髪ツインテールの小柄な少女が仁王立ちしていた。

 あと、僕一年生だし、後輩はいないはずなんだけど……。


「だ、誰だ、お前」


 不良三人は、少し後ずさる。


「先輩から離れなさい!このチンピラ!」


「う……」


 不良達はたじたじだ。

 どうやら可愛い女の子に免疫がないらしい。


「ちっ」


 不良達は去っていく。

 助かった……。


「ありがとうね」


 僕は振り返って、少女にお礼を言った。


「べ、別にあんたのためなんかじゃないんだからね!」


 衝撃が走った。

 この子、ツンデレだ……。

 金髪ツインテールの、ツンデレ。

 本当にいるんだ、こんな子。


「ふんっ、今度からは気を付けなさいよね!」


 少女は頬を赤く染めて去っていく。

 ………僕にも、春が来た?



 ▲▼▲▼



 あ、やべ、筆箱忘れた。


「べ、別にあんたのために持ってきたんじゃないんだからね!」


 目の前に、ピンクのシャーペンと消しゴムが差し出された。


「えっと、確か、隣のクラスの……」


「天ノ川 きららよ!別に下の名前で呼んでもかまわないんだからね!」


 珍しい名前だな。

 このルックスだからいいけど、もしブサイクでこの名前だったら事故ってるな。

 てか、金髪って、ハーフか?

 顔は日本人だし。


「な、なによじろじろ見て」


 天ノ川は頬を染めてもじもじしだした。


「いや、これ、貸してくれるの?」


「ふん、仕方なくだからね!」


 変わったしゃべり方だな。

 いちいち声でかいし。


「べ、別にあんたの為になれてうれしいなんてこと絶対ないんだからね!」


 なんかよく分からないことを言い残して去っていく。

 頬を染めて目を伏せながら走っていく。

 あ、ぶつかる。


「きゃっ」


「あ、ごめ……かわいい」


 ほらぶつかった。

 ちゃんと前見ろよ。


「だ、大丈夫?どこかけがしてない?」


「あ、ああ……かわいい」


「そ、そう……別にあんたにけががなくてうれしいなんてことないんだからね!」


「え?ん?」


 ぶつかった男子が混乱している。

 見てて面白いな。


 天ノ川はまたしても目を伏せながら走っていく。


「きゃっ」


「すいませ……可憐だ」


 学習しろよ。


「べ、別にあんたのことなんて全然好きじゃないんだからね!」


「ぐはっ!……可憐だ……」


 俺が天ノ川を見ていると、姫神が背中をつんつんしてきた。


「なに?」


「なんでもないよーだ」



 ▲▼▲▼



 私がまひろの学校に転校して、二週間がたった。

 いつも通り、まひろをストーキングして盗撮していると、ちらっと左から女子中学生らしき人影が来るをみつけた。


 考えるよりも先に、私の体は勝手に動く。

 風をきって駆ける。


 何度か曲がり角を曲がり、女子中学生の前にでた。


「ふふふふ」


 私は両手を広げて立ちふさがる。


「ひっ」


 ここを通す訳には……いかない!


「ふふふふふ」


「こ、怖いよぉ」


「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


「ひっく、うぇ~~ん」


 あら、泣き出してしまった。

 なにか怖いものでもあったのだろうか?


「ひっく、ひっく」


 早くどこかへ行ってほしい。

 あまり時間をかけると、まひろを見失っちゃう。


「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


 気づけば、私は四つん這いで中学生に迫っていた。


「いやぁぁぁ!!!変態怖いよぉ!!」


 女子中学生は泣きながら去っていく。


 これで今日もまひろと余計な女の接触を防いだ。

 ああ、今日も良いことした!


 それにしても、どこかに変態が現れたらしい。


 私、変態なんて大っ嫌いだし、遭遇したくないので早めにこの場を去ろう。



 




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