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布石/メリア+ルーク+零条 切夜+シヴァ+オロチ

「シャアアアアァァァァ!!」


また大きなやつが出てきた。

一体彼らはなんなのだろう。

単なるイビルの上位種と考えていいのだろうか。


「イリーナさん」


「なんですの?」


「まだいけるかい?」


「……え?」


イリーナさんは驚いたように僕を見る。

頬はやや上気し、呼吸も乱れている。

あからさまにへとへとだ。


「なんのことですの?」


「誤魔化すのなら、それでいいけどね」


「メ、メリアきゅん、そこの雌とばかり話すでない。儂にもかまってくれ」


「後でね」


やはりヒミコの僕の呼称が気になる。

まあしかし、わざわざ指摘する程ではない。


「学校は大丈夫だと思うかい?」


「大丈夫じゃろう。あそこには魔法障壁が張られておるし、教授陣にはそこそこ戦える者もおるしな」


「そこそこ、ね。やはり早めに殲滅するべきだね」


「わたくしが魔法でドカンといきますわ」


「いいや、ここは僕がやるよ」


僕は【偽神の魔眼】で、過去に記憶した術式を呼び起こす。


「またじゃ……目が光っておる」


威力はそこそこでいい。

重要なのは効果範囲だ。

できるだけ魔力を消費せずに広範囲に攻撃できる魔術。

ふむ。

これにしよう。


「【獄炎流星群】」


僕は手を空へかざし、術式に魔力を流し込む。

そして、術式は現実世界へ干渉する。

空にかざした手の上に、真っ赤な炎の玉が出現する。

それは空へ上っていき、激しい爆発と共に、【獄炎球】より少し小さい炎の玉が広範囲へ降り注ぐ。


「シャアアアアァァァァ!!」


上位種らしき巨大生物は耐えているが、イビルは焼け死んでいく。


「あれはどうするんですの?」


上位種が深い紫色の毒のブレスを放ってきた。

かなり広範囲に広がりながら、あらゆる物を溶かしながら迫ってくる。

ひどい毒だ。

呼吸というより、触れればアウトだ。


「ふむ」


僕はその流れを逆流させ、上位種諸とも多くのイビルを溶かす。


「一体、どうやっていますの?」


「ベクトル変更だよ」


「………?」


死んだ同類を踏み越えて、次から次へイビルはやってくる。

終わりはいつやってくるのだろうか。

……また上位種を発見した。


「ヒミコ」


「ひゃ、ひゃい!」


「ヒミコの力は対多数に向いているかい?」


「残念ながら向いていないのじゃ。……じゃ、じゃが!相手が単体の強いやつなら、役に立つのじゃ!」


「ふむ。じゃあ、あそこにいる大きなやつを倒してきてくれるかい?」


「任せるのじゃ!儂は役に立つ女なのじゃ!」


ヒミコは超加速し、あっという間に上位種を倒し、戻ってきた。


「戻ってくる時に、何かに引っ張られているようだけど、そういう能力なのかい?」


「うふふ、秘密じゃ。儂はミステリアスな女なのじゃ」


ヒミコは赤い瞳を色っぽく細める。


「この数、どうしますの?わたくしが魔法で殲滅してさしあげますわよ?」


「本当に出来るのかい?」


「………多分」


「こら!今儂とメリアきゅんがいい雰囲気じゃったじゃろうが!邪魔するでないわ!この戯け!」


「……そうだったかな?」


「そんなこと知りませんわ。それより、魔法撃ちますわよ?」


「君がもうへとへとなのは分かっているよ。ここは僕に任せてくれると嬉しいかな」


「………今日は、たまたま体調が優れませんのよ!」


ふむ。

次から次へとやってくる。


―――『絶刻』


僕の両手の甲に青い模様が光る。

僕は両腕を広げ、右手側の時間を急速に進ませ、左手側の時間を急速に巻き戻す。


「な、なんですのこれは?!」


「メリアきゅん、かっこいい!」


僕の右側の黒い絨毯が灰色に朽ちて行き、左側の黒い絨毯が消滅する。


「わたくしには、あなたが分かりませんわ、変態」


よく分からない人のことを変態と断定しないで欲しいのだけれど……。


「―――っ?!」


なんだ?!

何かが来る!




「GAAAAAAAAaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!」




「………これはまずい」


やはりいたか、この世界にも。


「なんですの?今のは」


「大丈夫じゃ!メリアきゅんがいるからの!」


「君達は、逃げてくれ」


「………え?」


「メリアきゅん?」


今の僕なら勝てるか?

今までと同じ強さなら、今の僕なら倒せるはずだ。

並行世界の僕をさんざん殺しまくってくれた、『やつ』。


――エンペラードラゴン。



「GAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」


そしてそいつは、姿を現す。


虹色の渦巻く、神々しいまでに美しい竜。


………呼吸が止まった。


一目見て分かる。

虹色に光り輝くその三頭竜は、今までの『やつ』よりも、よっぽど強い。

もはや別次元だ。


「………なん、え……」


「メリアきゅん?怯えて……」


「クラウ・ソラス!」


僕は神剣を片手に、ブレアで加速して音速を越える。

【終焉の炎】をクラウ・ソラスに纏わせ、斬撃のようにそれを飛ばす。

クラウ・ソラスはこの世界よりも上位に存在する、物質かどうかも分からないような代物で、【終焉の炎】でも消滅しない。

しかし、三日月型に飛んでいく黒い炎は、突然消えた。

まるで幻だったかのようだ。


「それならば!」


【空間転移】でエンペラードラゴンの背後に転移………出来なかった。

【黒龍】を複数呼び出したが、すぐに消滅した。

『絶刻』でクラウ・ソラスの時間を急速に進ませ、エンペラードラゴンの時間を巻き戻………せない。

ブレアで加速しようとしたけど、そもそも動けない。


「………まずい」


空間に固定されているかのように動けない。

本当にまずい。


「―――『コキュートス』!!!!」


蜃気楼のような空気の歪みがエンペラードラゴンへ向かっていくが、それも消滅した。


「そ、んな……」


「メリアきゅんは、儂が守る!!!!」


僕の横を、深紅のオーラを纏ったヒミコが抜けていく。


「なぬ?!」


ヒミコは何かを感じとり、攻撃を中止して、何かに引っ張られるようにもとの場所へ戻っていく。

その際僕の横を通るので、僕の手を掴んで引っ張るが、僕は全く動かない。


「なっ!」


僕の手がヒミコの手から離れ、ヒミコはそのまま元の場所に引っ張られていく。



「GAAAAAAAAaaaaaaaaaa!!!」



エンペラードラゴンの口から放たれる虹色の炎が迫る。

ベクトルを変更させようとしたけど、出来ない。


これは、死ぬ。




「死なせはしない」



虹色の炎が、一瞬にして消え去った。


僕の目の前には、エンペラードラゴンと同じような虹色の光の渦巻く、黒髪の少年がいた。

謎の仮面で顔が見えないけど、強烈な親近感が沸く。


「君が死ぬのは今じゃない」


その声が聴こえた時には、彼はそこにはいなかった。


「君が死ぬのは、もう少し後だ」


声は真後ろから聞こえた。

いつの間にか後ろにいたエンペラードラゴンが翼を羽ばたかせて僕を食べようとしているけど、彼が右手をあげているたけで、不可視の壁のようなものに阻まれて、それより先に行けないようだ。

エンペラードラゴンが大きな翼を羽ばたかせているけど、一切の風や音が生じない。


少年が足をとんっとつくと、その空間から空間の歪みが波紋のように広がった。

すると、下の景色――イビルだらけの町が、止まった。

その全てが停止した。


時間を……凍結させた?

この少年は、なんだ?

神なのか?


少年がふっと消え、エンペラードラゴンの真上に現れる。

魔法でも魔術でもない。

全く別の、未知の力だ。


突如エンペラードラゴンがもがきだし、何かに押さえつけられるかのように縮まりだした。

彼が、空間を圧縮しているようだ。


……強いなんてもんじゃない。

この僕が、興奮で震えている。


エンペラードラゴンは虹色の光を渦巻かせて翼を広げた。

パリンと何かが砕け散る音と共に、縮まっていた体をのばす。


「GYAAAAAAAAaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!」


彷徨を残し、エンペラードラゴンはもとからいなかったかのように、突然消えた。


「ちっ」


少年も舌打ちをし、空間を歪ませて、そのなかに消えていった。


止まっていた町が、動き出した。


「…………助かった」


僕はふらふらと、二人のもとへ戻る。


「…………」


「…………」


会話がない。

未だに理解が追いついていないようだ。

かくいう僕も、あの戦いからの衝撃で、言葉がでない。


「ギャシャア」


「…………」


「…………」


僕たちは、無言でイビルを片付けていく。

心ここにあらずという言葉が相応しい。

しばらくして、


「対象を発見」


美しい声が聞こえた。


「殲滅を開始」


物騒な言葉の主は、この世のものとは思えないほど美しい少女だった。

白い肌に白い髪で、服まで白い。

おまけに白い翼が生えていて、空を飛んでいる。

要するに、真っ白な女の子だ。


「タイプβ 範囲殲滅、『ギルティレイン』を実行」


「――っ!!」


非常に危険な予感がしたので、僕はありったけの魔力を使って、二人を連れて出来るだけ遠くへ【空間転移】で移動した。

直後、視界が真っ白に染まった。

音はしなかった。


さっきまで僕がいた辺りの半径1キロメートルくらいが、イビルや建物諸とも無くなっていた。

代わりにあるのは、半径1キロメートルくらいの、真っ赤に溶けた大穴。


先程の少年程ではないにしろ、この少女もなかなかに常軌を逸している。


念のため、あの仙術の準備をしておこう。


「―――っ!!」


振り向くと、すぐそばに白い少女がいた。

ヒミコが駆け寄ってこようとするけど、白い少女がヒミコを一睨みすると、一瞬でヒミコはヒスイに戻った。


「え?ここどこ?えっと、たしか……イリーナ、先輩?……え、メリア……なんで………」


イリーナさんは、なにか無詠唱で魔法を撃とうとしていたけど、少女の一睨みで集まっていた魔力が霧散した。


「な、なんですの、これ………え、変態……」


そして僕は、心臓を貫かれていて動けない。


僕の胸に、少女の白い腕が半ばまで埋まっている。

僕を貫いている腕から何かを流し込んでいるらしく、身動きがとれない。

……いくらなんでも、強すぎる。


僕は悟った。

僕は、死ぬ。


「だけど」


魂仙術―――


「【∞輪廻融合∞】」


これで終わりにはしない。

願わくば、次こそは平和な世界であらんことを。


「じゃあ、またね」


そして僕の体は爆散する。




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