ハイパーエリート少女/メリア+ルーク+零条 切夜+シヴァ+オロチ
「魔法は、神秘です」
女教師、エレノアは語る。
曰く、魔法とは神からの祝福だと。
曰く、魔法を使える者は、神に選ばれた者のみだと。
曰く、魔法とはこの世で最も神聖な理だと。
実力を隠しながらも学年首席の超絶美少女、イリーナ・ローズフェリスは、それを笑う。
魔法なんて、物理法則のうちのひとつでしかない。
神聖でもなんでもないと。
魔法とは、理解し、支配すべきもの。
決して、支配されるものではない――と。
故に、彼女は嗤う。
外面には臆面も出さずに。
「はい!俺達は神に選ばれた存在です!」
魔法を神聖視する愚者共を。
己を選ばれし存在と信じ、熱狂する無能共を。
「その通りですわ。先生」
こんな低いレベルに合わせているこの無駄な時間。
欠伸を噛み殺し、熱心に授業を受けているふりをするこの惨めな時間。
「皆さん、イリーナさんを見習いなさい」
仮初めの自分のどこを見習えと……。
こんな授業、さっさと終わってほしい。
「ではイリーナさん、あの的に『ファイアーボール』を撃ってください」
「はい。《玉となりて焼き払え――」
詠唱を始めると同時に、辺りに漂う魔力が指先に集まり、魔法陣と化す。
その配列によって『意味』を与えられた魔力が、炎の玉を形成する。
「――『ファイアーボール』》」
炎の玉となって可視化した魔力が、指向性をもって放たれる。
イリーナの、無駄を限りなく省いた、究極に近い『ファイアーボール』を、しかし生徒達はその凄さに気付かない。
「さ、流石イリーナさんですね……。的が黒こげです……」
この駄目教師は、結果のみに驚いている。
他の生徒達と、なんら変わらない。
はやく、あの山に行きたい。
モンスターと、醜い命の奪い合いがしたい。
……ふと思い出す。
あの山で出会った黒髪の少年を。
自分の『真の』最大火力の魔法を目の当たりにしても、恐怖に支配されず、挙げ句自分を手玉にとるような未知の少年を。
レイラント祭での戦いを思うと、胸が疼く。
「今度こそ、勝ちますわ」
少女は、久々に燃えていた。
▲▼▲▼
少女は、イビルの群れと遭遇した。
―――気持ち悪い
少女は震えた。
全身の毛が逆立つような感覚、いわゆる鳥肌がたち、進行方向を180度変える。
しかし、もう遅い。
気づいたときには遅かった。
少女はイビルに囲まれていた。
――イビルには触るな
――目が汚れるから見るな
――喰われるから近づくな
散々両親から言われた言葉が、フラッシュバックする。
少女の思考が止まった。
心臓が爆発しそうなほど高鳴り、呼吸が一時的に止まる。
生存本能が警鐘を鳴らすが、なにもできない。
捕食者という脅威にたいする原初的な恐怖。
少女は、己が獲物だということを、再認識した。
「ゥアガ」
「ギチギチ」
迫り来る黒い恐怖。
昆虫のような頭部をもつ、二足歩行の『死』。
だがそんななか、一匹のイビルが少女を背に庇う。
「………え?」
たとえ現在の拙い思考能力でなくとも、意味が分からなかったはずだ。
獲物と捕食者であり、狩人と捕食者であり、正義と悪であり、人間とイビル。
水と油。
決して理解しあえないはずの、人類の絶対的な『敵』。
そんなイビルが、自分を……庇った。
訳の分からない現実のなか、少女はひとつの単語が頭に浮かんだ。
「お父……さん?」
そのイビルは、僅かに振り向いた……気がした。