ファーストキスは既に跡形もなく/メリア+ルーク+零条 切夜+シヴァ+オロチ
「その制服……うちの生徒ですわね」
「そうですよ」
この美少女、ただの美少女じゃない。
とんだ化け物だ。
今の魔法、どれだけの極致なんだ?
「学年は?」
「一年です」
「ふーん。名前は?」
「メリアです。あなたは?」
「イリーナですわ」
うん。知ってた。
「この辺り、まっさらになってますけど、あなたですの?」
「いやー、僕が来たときにはこんな感じで」
「……ふーん」
イリーナさんは、宝石のような青い瞳で覗き込んでくる。
そして僕の頬を両手で包み、顔を近付けてくる。
艶々の唇が迫ってくる。
僕は体を捻って、繰り出された膝蹴りを避けた。
「……ふーん?」
綺麗な花には刺がある……みたいな?
いや、ただの危ない人なのだろうか?
イリーナさんがそのまま僕の顔面を殴ろうとしてきたので、僕はその拳に下から手の甲を当て、巻き取るようにその拳を掴み、イリーナさんの眼前へつき出す。計、0.07秒。
これだけのことで僕の腕は悲鳴をあげている。
まあ、これから出せるブレアを増やせば平気になるだろう。
イリーナさんは、僕に手首を掴まれた拳を目の前に、目を見開いて口をぱくぱくさせている。
……大したことではないのだけど。
イリーナさんは、魔法は凄いけど、体術はあんまりのようだ。
「……ふん、レイラント祭では、覚えておくといいですわ」
必ず出なさいね。と捨て台詞を吐いて、イリーナさんは去っていった。
▲▼▲▼
少女は、目の前ですやすや寝ている少年の頭をつんつんと突く。
少年は起きない。
次に、少女は少年の布団を剥ぎ取る。
少年は起きない。
次に、少女は少年の鼻を摘まむ。
少年は鼻呼吸から口呼吸に移るが、起きない。
幼い少女は、まだ幼い少年――メリアの寝顔を嬉しそうに眺める。
昔から、メリアは一度寝てしまえば、朝までは恐ろしいほど起きない。
「ん、んん」
少年が目を覚ます。
少女は花が咲くような笑顔を浮かべ、少年に抱きつく。
「おはよう!お兄ちゃん!」
――次の朝。
辺りはまだ暗い。
両親も寝ているなか、少女はなんとか起きることができた。
少女は覚悟を決めていた。
「そ~っと、そ~っと」
少女は自分の兄の部屋に、ひっそりと忍び込む。
中では、メリアが気持ち良さそうに寝息をたてていた。
足音を限りなく抑え、少女は兄のベッドのそばにいく。
「すーー、すーー」
メリアは本当に気持ち良さそうに寝ている。
まず起きないだろう。
少女は爆発しそうなほど暴れ狂う心臓をおさえながら、兄の顔に自分の顔を近づけていく。
兄の顔の横に手をつき、ゆっくりと。
そして、少女の唇が、少年の唇に触れた。
やわらかい感触を認識すると同時に、少女の顔から湯気が上がる。
「はぁ……はぁ……」
唇を離し、兄の顔をまじまじと見る。
起きる気配はない。
このとき、少女は言い様のない愉悦を感じていた。
体の奥底から、ぞくぞくと、激しい感情が沸き上がる。
少女は少年に馬乗りになり、もう一度、少年の薄く開いた唇に自分の唇を押しあて――少年の唇をむさぼり喰う。
兄の部屋には、妹という獣がいた。
それでもメリアは起きない。
遂に、少女の舌が少年の口内に浸入した。
少女の舌は兄の口内を蹂躙し―――
――――――
――――
―――
「んん………おはよう……」
「おはよう!お兄ちゃん!」
「……なんか、口の周りがべとべとする」
「お兄ちゃん寝てるときに涎垂らしてるよ~~」
「そっか」
やっぱり、我が妹の無邪気な笑顔は世界一可愛い。
………いつからだっけ?
妹が時々、今みたいに妖艶に舌をぺろりとのぞかせるようになったのは。
あれは時々お兄ちゃんもドキッとしちゃうぞ。
……そしていつからだっけ?
朝起きたとき、僕の口の周りがべとべとになっているようになったのは。
眠っているとき涎を垂らしているなんて、我ながらかなり恥ずかしい。