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謎の女/メリア+ルーク+零条 切夜+シヴァ+オロチ

「無理じゃ……」


ヒミコは本能で自分が敵わないことを理解してしまったようだ。


「大丈夫だよ」


「え……?」


心配はいらない。

なぜなら、ここにいるのは、僕なのだから。


「僕が、必ず君を守る」


言われた女の子は、いつだって同じ反応をする。

ヒミコも他の女の子と同じように、胸を押さえながら、顔を爆発させてリンゴみたいになる。


「そんなにゃと言わりぇたにょ……は、初めちぇ……じゃ」


いつも出来るだけ安心させてあげようと思って言っているのだけど、何故かいつも女の子は緊張でがたがたになってしまう。


「み、見にゃいでぇ」


 ヒミコは真っ赤な顔を背けて僕を押し退ける。

 僕はもう一度、安心させるように、ヒミコにぐっと顔を近づけ、その紅眼を覗き込みながら言う。


「なんと言われようと、僕は必ず君を守る」


「きゅん………(がくり)」


 僕は気絶してしまったヒミコを置き、女との間に立ち塞がる。

 既に僕の腹に刺さっている触手を、空間を湾曲させて断ち切り、ブレアで押し出す。

 そして【局所究極再生】で腹に空いた穴を塞ぐ。


「ぁぁぁ……ぁぁああ!!」


 女から波動が無差別に放たれ、このボス部屋が崩壊する。

 僕はスノウさんとヒミコを背中に庇い、周囲の波動のベクトルを女へ反転させる。

 湾曲して女に向かう波動と、女から放たれる波動はぶつかり合い、横に広がる。

 広がった波動によって、違う階層も崩れてくる。

 あと数秒で、このダンジョンごと崩壊する。


 僕は【空間転移】で二人をみんなのもとに送る。


「ぐっ……」


 魔力が【偽神の魔眼】に吸われていく。

 二人が消えた場所に、幾千の触手が突き刺さった。

 僕はもう一度【空間転移】を使い、女と自分を上空一万メートルに転移させる。


「寒……」


 下で雲が白く、僕達と大地を隔絶している。


「ぅぅ……ああ」


 女はうめき声しかあげない。


『お願い……私を…………殺して』


 女が唯一まともにしゃべった言葉は、たった一言。

 そんな女が、だんだん可哀想に思えてきた。

 いまだ僕に迫り続け、逸らされ続けている数千の触手が、彼女に理性が残っていないことを示唆している。


 僕は剣を『本気で』振るう。

 殆どのブレアを腕にこめたから、剣にはこめられなかった。

 やはりこれからはブレアを増やさなくては……。

 限りなく光速に近づいた僕の剣は、空中で燃え尽きた。

 そしてそこから、重複した衝撃波が指向性をもって放たれる。


 女の触手をぶちぶちと断ち切り、女の胴体にぶつかるけど、一切のダメージがない。


「がががぅぅあぅ」


 女の口があり得ないほど開き、その奥に光がたまっていく。

 とてつもないのがくる予感がする。

 ……そもそも僕は、この女に勝てる未来が見えない。


 女の口から、一条の熱線が放たれた。

 熱線は光速で放たれているので、放たれてから避けるのは不可能だ。

 その熱線は非常に細いにもかかわらず、三キロメートルも大袈裟に避けた僕のもとに、熔けそうなほどの熱が伝わってくる。

 辺りの雲が消え去り、蜃気楼で熱線がぐにゃぐにゃに曲がって見える。


 熱線は大気圏を軽々と突破し、遥か彼方の星を切断する。

 今ここではそれを観測できないけど、なんとなくそれが分かった。

 この熱線は、僕ではどうやっても屈折させられない。


 この熱線をこの星――地球に向けられたら、僕達は終わる。


 僕はこの熱線を下に向けられないよう、仙術で女の上に移動する。


 ――久しぶりだ。

 メリアとしての僕にはいつも付きまとっていた。

 けれど、『剣聖』ルーク、『超能力者』シヴァ、『転生者』零条切夜としての僕は、久しく忘れていた感情。

 いっそ懐かしさすら覚えるこの感情。


「ははは」


 笑ってしまう。

 信じられない。

 僕が……。

 この僕が……。


 ―――恐怖しているなんて。



▲▼▲▼



どこまでも広がる、光の世界。

時は流れど、万物は流転しない。


「ああ、こんなとこ来るんじゃなかったわ……。お、遂に彼氏が出来たか」


映し出されているのは、高校生らしき男女一組。


ほぼ唯一と言って良い暇潰し。

観賞は出来るが、干渉は出来ない。


「うふふ」


今は、まだ。



▲▼▲▼



 再び女の口の奥に、光が貯まっていく。

 これで近くの惑星やら太陽やらを破壊されたらたまらない。

 僕はなけなしの魔力を使って【空間転移】し、たった今右手に召喚したクラウ・ソラスで女の首を切りとばす。


 だけど、蜃気楼のように空間が揺れて、いつの間にかそこには女の顔が生えていた。

 僕はクラウ・ソラスでもう一度女の首を切り飛ばし、体を切り刻んだ。

 細かい肉片になった女の体は、しかしすぐに集まり、形をなしていく。


「がっ……!」


 いつの間にか僕の身体中に触手が突き刺さっている。

 僕は全て切り刻み、回復魔術で傷を治す。

 もう魔力が尽きた。


「ぅあ!」


 女の瞳が一瞬、理性を取り戻した。

 と同時に、僕の身体に何かが流れ込んでくる。

 温かい。

 やわらかい。

 そして、優しいなにか。

 これは―――魔力だ。


「どこかに私の核があるから!それを破壊して!」


 魔力をおくってきているのは、女だ。

 女は触手を全て自分の体に突き刺した。


「あああああ!!」


 絶叫しながらも、女は自分の眼球をえぐりとる。

 しかしそこで、女は理性を失った。

 触手を全て抜き、空いた穴をふさぎ、眼球も再生する。


 女が僕の後ろに転移してきたので、そこをクラウ・ソラスで薙いだけど、その時にはもう僕の真上にいて、僕に青白い腕が伸びる。

 僕はその上に転移してクラウ・ソラスで切り刻む。

 だけど、すぐに再生する。


 【終焉の炎】で消し炭すら残さず焼きつくしても、どこからか粒子が集まり、再生する。


 再生している途中でも、女は襲ってくる。

 もう攻撃しても無駄と判断した僕は、ひたすら逃げ続ける。

 もはや、僕にはどうすることも出来ない。

 彼女を倒すには、彼女の助けが必要だ。

 彼女の理性が戻るのを、待つしかない。

 そうして逃げ続けてしばらくして―――


「んぁ……ぅ」


 女の瞳に、再び理性の光が灯る。


「核なんかないけど?」


「そんな……はずは……ぐっ」


 女は必至に自分の体を抑えながら、考える。

 しばらくして――


「そうか」


 何か分かったらしい。


「そうか……11次元に……今の私なら……3次元に………」


 ぶつぶつ呟き、僕に向く。


「今から一時的に核を引き寄せるから、そのうちにそれを壊して!」


「分かった」


 女は胸をかきむしりながら、絶叫する。


「ああああああぁぁぁぁ!!!!」


 女の瞳が紫色に光り、辺りの空間が不規則に歪む。

 そして、彼女の胸の中心から、膨大な紫の光が溢れてきた。


「さあ!」


「分かってる」


 僕はクラウ・ソラスでその核とやらを貫いた。

 彼女に痛覚はあるのだろうか?

 彼女は一体なんなのか。

 それらの疑問は置いておいて。

 今は彼女を見送ろう。


 彼女は嬉しそうに、泣いていた。

 肌もかさかさで、髪もべとべとで。

 だけどそんな彼女が、今はとても美しく見えた。


「どうか……人類を………信じてあげて」


 謎の言葉を残し、女の体は大気に溶けるように消えていった。



▲▼▲▼


 僕は今日もいつも通り登校する。

 教室の扉を開けると、まだ半分も来ていなかった。

 席で待っていると、ちょろちょろと生徒が登校してくるけど、丁度半分の生徒が来たとき、チャイムが鳴った。


 十人の生徒の机に、花瓶が置いてある。

 花瓶が置いてない机で、まだ空席なのが五つ。

 彼らは、自主退学したとのことだ。


 この学校では別に珍しいことではない。

 ただ、一年生でこんなにいなくなるのは、異例のことらしい。

 あまりにも減りすぎたため、他のクラスから何人か来るそうだ。


 この学校は、入学は誰でもできるけど、卒業できる人はその半分もいないらしい。

 死ぬ人、怪我で退学する人、怖くて退学する人。

 まあそこは知っていたので、慣れていかなくてはいけない。


「じゃあ花瓶どけろ。机を運び出すぞ」


 べヒント先生は、感情を表にださず、淡々と指示を出す。

 机を運び出し、廊下で並んでいた新しいクラスメイトが自分の机を持って入ってくる。

 その中には、クリスもいた。

 クリスと一瞬目が合うけど、すぐに逸らされた。


『お願い……私を…………殺して』


 人を殺すことには馴れている。

 けれど………。

 人を殺してあんなに胸が痛んだのは、初めてだ。


「今回は特別だ。お前らショックも大きいだろうから、今日は休みにしてやる」


 ということらしいので、僕は学校から少し離れた山にやってきた。

 この辺りのモンスターは強いらしいので、いい運動になるかもしれない。


「ギャアウゥ」


 今目の前で唸っているのは、人々に最も嫌われているモンスター、イビル。

 異様に長い腕をだらんと下げ、二足歩行で近付いてくる。

 全身を黒い外骨格で覆われ、てかてかしている。

 体長は約二メートル。


 イビルは、人々に毛嫌いされている。

 僕――零条切夜のもといた場所、日本でいうと、ゴキブリのような扱いを受けている。

 ただ、イビルは実際に人を喰らうので、ゴキブリよりも遥かに嫌われている。


「ギチギチ」


「ギァ」


「ギュルル」


 三体のイビルが出てきて、合計四体で僕を囲んだ。

 イビル達の体から、紫色のもやもやが立ち上る。

 これもイビルが嫌われている理由の一つ。

 長時間触れていると肌が溶け、長時間吸うと、死に至るという危険なもやもやだ。

 この体だと、息を止めながら動くのは、一分が限界だろう。

 早めに決着をつけよう。


 僕は右手にクラウ・ソラスを召喚し、凪ぎ払う。

 辺りのもやもやをイビルごと吹き飛ばす。

 そしてブレアで加速し、0.07秒で四体のイビルの頭部をクラウ・ソラスで消滅させた。

 やはり、この体だとだせるブレアの量が少ない。

 普段から鍛えていないから、そこまで速く動いた訳でもないのに、もう体が悲鳴をあげ始めている。

 けれど、もう体を鍛えるつもりはない。

 それよりも、出せるブレアの量を増やす方が効率的に強くなれる。


「ギシャ」


「ヤァキャァ」


「ギチャギチャ」


 イビルがぞろぞろ出てくる。

 その数は、百や二百どころではない。

 ここは魔術でどかんといこうか。


「【反逆重力】」


 僕は重力という普遍的な自然法則に反逆し、空を飛ぶ。

 そして手を下に向け、新たに魔術を行使する。


「【虚無の波紋】」


 僕の手から無色の玉が地面に向けて放たれ、その無色の玉は地面に当たると波紋のように広がった。

 波紋はあらゆる物質を透過し、消えていく。

 波紋が消えたあと、波紋が透過した物質は一斉に消滅した。

 結果的に、地形が少し変わってしまった。

 半径二百メートルの円状の更地が出来た。

 僕はその中心に降り立ち、【偽神の魔眼】を解く。


【偽神の魔眼】。

 他者の魔術を喰らう魔眼。

 魔術は魔法と違い、魂に術式を刷り込むから、詠唱が要らないらしい。

 だけど、魂には限度があり、刷り込める魔術の量は限られる。

 そこで、僕は転生の時のチートで、【偽神の魔眼】を選んだ。

【偽神の魔眼】は、魂の周りを土星の輪のように回っている輪で、魂の代わりに術式を刷り込む。

 刷り込んだ術式は消えていき、必要なときに浮かんでくるシステム。

 なのでその輪は術式で埋まることがなく、刷り込める限度がない。

 だけど、自分で術式をそこに刷り込ませることは出来ない。

 そこでもう一つの機能。

 他者の魔術の術式を記憶して貯めていく。

 その時術式ごと吸い込むから、僕に魔術は届かない。

 既に記憶してある魔術は、術式を分解して根本から破壊する。

 それが、【偽神の魔眼】だ。

 この魔眼を使っているとき、僕の両目は金色に光る。


「………ん?」


 誰か来る。

 こんな危険な場所に……。

 一体誰だろう?

 僕は仙術で気配を消して隠れる。


 近付いてくる。

 速い。

 ヒュンッ

 風を切って現れたのは、いつか見た銀髪の絶世の美少女だった。


「誰ですの?」


 そりゃ、こんなに地形を変えたら誰かいるのはばれるか……。


「出てこないなら、魔法ぶっ放しますわよ?」


 物騒な……。

 でも、どんな魔法か、見てみたい。

 この辺りに来れるってことは、この美少女……イリーナさんだっけ……は相当強いはずなんだけど、一体どれほどなのだろうか。


「……出てきませんわね」


 来る。

 偶然なのだろうけど、ちょうど僕の方に手が向いている。

 イリーナさんは、詠唱を始める。


「《全ては零へ回帰する――」


 ………嫌な予感が。


「鼓動を止めた永久なる世界――限りなき絶望をもって――」


 なんか………やばい………


「――我は孤独を顕現す――」


 これは本当にまずいかもしれない。


「――『コキュートス』》」


 ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ

 …………危なかった。冷や汗が止まらない。

 僕がいた場所辺りの広大な範囲が、真っ白になっていた。

 たぶんあれ、炎とか使わない限り、永遠に溶けない。

 それに、永遠に草木の一本も生えない。


 それにしても、今の魔法はなんだろうか?

 まさか……オリジナル?


「あなたですか」


「そうです」


 僕は両手を挙げて降参した。


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