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実力の一端/メリア+ルーク+零条切夜+シヴァ+オロチ

「まだまだですね。もっと速く動いてください」


うおっと。

今ならまだ間に合う。

僕は後ろで手をクロスさせて、右手でダンジョンの壁の一部の時間を急速に進ませ、左手をスノウさんに向けて、スノウさんの首の時間を巻き戻した。

これで大丈夫だ。

気絶してるけど……あ、起きた。


「はぁ……はぁ」


疲れた。

やはり人体には効きづらい。


「彼女以外は不要です。絶望と共に死になさい」


男が口の端を吊り上げる。


「死になさい、死になさい!ひひひ」


彼は精神を病んでいるようだ。

醜悪に歪んだその顔は、S級特区シンジュクでの異常者達を彷彿とさせる。


「さあ、さあ!」


男は天井を仰ぐ。

大きな岩の落ちた大きな穴から、黒い影が這い出てくる。

先程見たジュレリードに似ている。

だが、大きさが何倍もある。

ずりずりと這い出てて、落下する。

ナメクジのような頭部を下にして落ちたので、地面に落ちるとグチャリと潰れた。

だが、ネチョネチョと元の形に戻っていく。


「ア……ア……」


気味の悪い声を出す。

発声器官はそのナメクジのような頭部の表面の無数の小さな穴か。


「なに、これ………」


スノウさんはかなり憔悴している。

先程までの明るい雰囲気はどこへやら。


「ひひひ、これぞハイジュレリード、ひひひ」


ふむ。

名前からしてジュレリードの上位種だろう。


「ぬしらは後ろにおれ!こいつは……強い!」


「ああ、分かったよ」


僕はスノウさんと共に後ろに控える。


「………怖い」


スノウさんが震えている。

先程まではとても頼もしく思っていたが、今では一人のか弱い女の子だ。

男はいつの間にかいない。

ハイジュレリードを倒せばすぐに現れるだろう。


「き、君……あれ見て!」


「ああ、まだまだいるようだね」


天井の穴から、複数の蠢く影が這い出てくる。

全てハイジュレリードのようだ。


「死にたくないよ……」


「その心配はいらないよ」


「え?」


揺れる瞳が僕を見る。

僕は笑顔を返す。


「……似てる」


「それは光栄だね」


声音からして、それはきっとスノウさんの尊敬する人物なのだろう。


「……まずいのじゃ」


ハイジュレリードの頭部に腕をめり込ませたまま、ヒミコが呟く。

ハイジュレリードが攻撃の兆候を見せると、ヒミコは例の力で元の場所に戻る。

ハイジュレリードの頭部に空いた穴は塞がっていく。


「……アア……」


ハイジュレリードの頭部に穴が空き、そこから粘着質な液体を吐き出してきた。

強い酸性か何らかの猛毒か。

なんにせよ、僕たち三人は大袈裟に避ける。

液体の付着した壁は、ジュワジュワと溶けていく。


ベチョ、ベチョ、ベチョ


「アア……ア……」


「ア……」


「……ア…ア…」


天井から落下してきた三匹のハイジュレリードが、潰れた形を戻していく。


「………アア……」


「……ア…」


まだまだ天井にハイジュレリードはいる。


「嫌だ……死にたくない……」


スノウさんが肩を抱いて縮こまる。


「ヒミコ、君一人で大丈夫かい?」


「厳しいのじゃ。じゃが、足手まといはいらないのじゃ」


「ふむ。けれど、スノウさんが怯えている。そろそろ僕も加勢するよ」


「足手まといなのじゃ」


「でも君は一匹も倒せていないだろう?」


「それはそうなのじゃが……せめて弱点が分かれば……」


この会話の間にも、ハイジュレリードは襲ってくる。


「弱点、ね」


――『ナビゲーションシステム』起動。

視界が切り替わる。


「……弱点は頭部と脚部の間だよ」


「どうしてそんなこと……」


ダンッ!


ヒミコは疑いながらも、僕の言葉通りの場所にある核を破壊した。

超強化した脚力で跳び、ハイジュレリードの頭部の付け根に手を添えるようにして、波動を放ったようだ。

ハイジュレリードの中心部に、大きな穴が空いている。


「その力は、波動として飛ばすことも出来たんだね」


「まさか……今のが見えて……」


「確かに、ハイジュレリードの体液は人体を溶解させるだろうから、物理攻撃は得策ではないね」


先程ヒミコは物理攻撃を行ったが、その時はその謎の力で体液との接触を防いだのだろう。


「……アア…」


「アア…ア……」


「ア………ア…」


ハイジュレリードはかなり増えている。


「分担しよう」


「仕方がないの。じゃあ儂は……まずはあいつとあいつを殺すのじゃ」


「じゃあ僕は、それ以外を」


「……は?」


僕は全身にブレアを纏い、右手にクラウ・ソラスを召喚する。

使う魔術は、比較的燃費の良い、【獄炎球】にしよう。


「な、なんじゃ?!」


僕の眼前に突如顕現した地獄のような炎の玉は、ハイジュレリード複数に大きな穴を穿つ。

およそその半数が息絶えるが、残りは再生する。


「なんじゃ……何が起こっておる………」


ふむ。

まだ増え続けるハイジュレリードに、一球一球【獄炎球】を撃つのは効率が悪い。

燃費は悪いが、ここは【黒龍】の方が効率がいいだろう。


「ガアアアアアァァァァァァ!!」


「ド、ドラゴンじゃと?!」


黒い龍を天井の穴に送り、僕自身は目の前のハイジュレリード達を相手しよう。


「剣聖たる者。世界最強の名に恥じぬ剣を見せねばね」


ビュンッ!!!


「い、今、動いた……のかの?」


「天井の方にももう少し戦力を割くべきかな?」


僕は七体の黒い龍を呼び出し、天井の穴へ送る。


「……ア………」


「アア……」


穴からの断末魔らしきものが増えた。


「君の分を残しておいたよ」


ドカドカドカ!


二匹を残し、僕が斬ったハイジュレリード達が真っ二つに割れて崩れ落ちた。


「一体、何が起こってるの……」


スノウさんは唖然としている。


「なんじゃ今のタイムラグは……」


何かに疲れたように溜め息をこぼし、ヒミコは残りのハイジュレリードを狩った。


ハイジュレリードがいなくなると、また男が現れた。


「おお!全て死んでいる。素晴らしいです、ヒミコ」


「いや、儂は……」


「ですが残り二人も生きていることは不愉快ですね」


「それはなによりだね」


僕は笑顔を返す。


「死ぬのじゃ!」


ダン!


ヒミコが例の超高速の攻撃をするが、腕を掴まれてしまった。


「くっ……!」


「その程度ですか?」


腕がミシミシいっている。

予想外の展開に、ヒミコは顔をしかめる。


先程は反応出来なかった速度に対応するか。

ふむ。


「――なに?!」


僕はクラウ・ソラスで切断した男の上半身を、【終焉の炎】で消滅させる。

僕の速度には『まだ』反応出来ないようだ。

男は驚愕を張り付けたまま消えていった。


「あ、ありがとうなのじゃ」


ヒミコが、目をぱちくりさせながら頭を下げる。


だがまだ終わってはいない。

残った下半身から緑色の細胞がぼこぼこと盛り上がっていく。

……気持ち悪い。


「き、キモいのじゃ……」


無防備なうちにと残った下半身も黒い炎で消滅させようと試みたが、空中で見えない何かに阻まれた。

やはり一度受けた攻撃は効かないようだ。

長引くと厄介だ。


僕は、上半身が生えかけの下半身を切り刻んだ。


「見え……なかったのじゃ」


「あなたは……一体………」


一番大きな肉片に、黒い玉を見つけた。

切断するごとに大きな方の部位に移動していたらしいが、もう逃げ場はない。


僕は空間を歪曲させて黒い玉を空中に固定し、クラウ・ソラスで切断した。

一度受けた攻撃でも、クラウ・ソラスには対応出来なかったようだ。


散らばっている肉片が緑色に溶けていき、切断された黒い玉が、闇のようなドロドロした光を放つ。

その物理的に有り得ない光は、とある形を形成していく。

大きさは僕達と同じくらい。


「何が起こっているのじゃ……」


「もう、訳分かんないよ」


形が整うと、あっという間に色彩が浮かんできた。

不気味な女がそこにいた。

くすんだ灰色の髪はべとべとで、目の下には大きな隈がある。

圧倒的な存在感を放ち、ゆらりと立っている。

女は、そのカサカサの唇を開いた。



▲▼▲▼



とある遺跡の最深部。

何重もの棺のなかで眠る、一人の少女。

うすく光っている白髪が、棺を内から照らす。

完成されすぎた美は、それ故に人間らしさを感じさせない。

だが、それも当然のことなのかもしれない。

彼女は人間ではないのだから。


少女の瞳が開く。

その銀色の瞳を一通りさまよわせ、ピンク色の艶やかな唇を開く。


「邪神が……目覚めた」



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