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へたれな僕/メリア








―――結局のところ、最後の最後で、僕は人類を信じきることが出来なかった。













▲▼▲▼












――――――ドクン

















 

「メリア、さっさと来なさい」


「は、はい」


 薄暗いダンジョンで、僕はみんなの後を追いかける。

 空気がじめっとしていてなんか嫌だ。

 みんなは、いつもの諦めたような目で僕を見る。

 その目で見られる度に、僕の心は言いようのない黒いもやもやに包まれる。


「まったく、このぼんくらだれ」


「ほなら、メリアが先進めばよかね」


「わ、分かった」


 先頭にたって進んでいく。

 後ろにいるのは、僕と同じ村の、同い年の子供達。

 僕も含め、みんな剣を持っている。

 優しい両親のおかげで、僕はもうすぐ冒険者学校に通えることになっているので、これはその為の練習だ。

 嫌なことに、みんなも僕と同じ学校に通うことになっている。


「はっはー!ミニスライムだがや!ここは俺がいくだがや!」


 この村で最も大柄で強い、ダイトが突っ込んでいく。

 剣をぶんぶんと振り回し、ミニスライムを倒した。

 半透明のぷるるんとしたゲル状の中に、真っ赤な玉がある。

 ダイトはそれを引っこ抜く。

 手に半透明のゲルがべっとりと付いているのを、汚れたズボンで拭いている。


「ほら、さっさと行きなさい」


 この中で一番美人でお金持ちな女の子、クリスが僕を手でしっしと急かす。

 彼女は僕にだけ冷たいのではなく、誰にたいしても冷たい。


「わ、分かった。じゃあ、行くよ」


 僕はゆっくりと進んでいく。

 先頭なんて怖いから嫌なんだけど、女の子がいる前では、恥ずかしくて言えない。

 しばらく何も出てくることはなく、僕達の足音だけが響く。

 そして、前方に緑色のなにかが見えた。


「お、おい、あれば、ゴブリンじゃねと?」


「や、やー!」


 女の子達が男の子達の後ろに隠れる。

 クリスは例外的に、腕を組んで立っている。

 胸が強調されて、少しドキッとした。


「どこ見てんのよ。しっしっ」


 そうだった。

 ゴブリンがいるんだった。

 僕は慌ててゴブリンに向く。


「ギシャ」


 よく分からない声を出して、ゴブリンが走ってくる。


「う、うわ!」


 僕は怖くて男の子達に隠れる女の子に隠れたけど、他の男の子はちゃんと剣を構えて立っている。

 すっごい頼もしい。


「わーー!!!」


 ダイトが剣を振り回す。

 ゴブリンはそれを華麗に避けてダイトのお腹を殴った。

 ダイトはくの字になり、嘔吐する。

 ダイトの吐瀉物がゴブリンの顔にかかり、ゴブリンは奇声をあげながら下がっていく。


「「「わーー!!!」」」


 そこに、他の男の子達も剣を振りかぶって走っていく。


 このダンジョンにはスライム系の弱いモンスターしかいないはずだったのだけど、どうしてゴブリンなんて怖いモンスターが出てきたのだろう?


「メリア、あんたもいくなださ」


「え、な、なんで?」


「あんたも男だがや」


 僕のしがみついている女の子、サチが僕に酷いことを言ってくる。

 でも、彼女の言う通りだ。

 僕も男だ。

 よし!


「うらーー!」


 僕はゴブリンに走っていく。

 ゴブリンの足下には、三人の男の子が蹲っている。

 両手で剣を持っていたけど、走りづらいので、右手に持ちかえる。

 あれ?どうしてだろう?

 こっちのがしっくりくる。


「うら!うらら!」


 右手で剣を振り回すけど、全然当たらない。

 駄目だ。

 ゴブリンなんて、強すぎる。

 いつかはゴブリンだって倒せるとは思ってるけど――それは今じゃないんだ。


「ごふっ」


 お腹に凄い衝撃を感じて、僕はその場で吐いた。

 立っていられない。

 僕は崩れ落ちる。

 う、動けない。


『知ってる?この世界って、丸いのよ』


 ……なんだ、これ。

 何故だか無性に懐かしい。愛しい。

 そして……これは、誰?

 頭に浮かぶ、謎の美少女。

 君は――誰?


 ふと視界にクリスの綺麗な立ち姿が入った。

 口が微かに動いているように見える。

 なんだか彼女にはこんな格好を見せたくない。

 ゴブリンは僕達には目もくれず、女の子達の方へ歩いていく。

 ゴブリンの口から臭い涎が垂れる。

 うう、気持ち悪い。


「こ、来ないでんな」


「い、嫌やー!」


「――して、その動きを止めよ、『フリージング』》」


 クリスの指先に水色の円陣が浮かび上がり、そこからゴブリンの足元に白いもやもやが放たれる。

 するとゴブリンの膝から下が凍りつき、動きが止まった。

 やっぱり凄いや、クリスは。


 転移陣はこの下の階層だけど怖いので、僕達は引き返して歩いてダンジョンから出た。

 疲れきった僕達は、その場で解散した。

 だけど家に帰る前に、クリスにお礼を言わないと。


「あ、あの、クリス!」


「なに?」


 クリスが振り返り、綺麗な金髪が広がる。

 なぜだか胸がどきどきして、呼吸が苦しくなった。


「その、今日は、ありがとう!」


「いいわよ。じゃあね」


「うん。じゃあね!」


 僕は晴れやかな気分で、家に帰る。




 そんなクリスとメリアを、ひっそりと覗く影があった。


「むむ、お兄ちゃんに女の影が……」


 その少女は、メリアが家に帰っていくのを見て、慌てて自分も帰っていく。


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