確認よーし!
阿部のん。
異世界からやってきた少女である。のんちゃんが住んでいた異世界はある存在によって崩壊し、広嶋健吾によって地球に連れて来られた。
とても惹かれるほどの紫色のセミロングの髪を持ち、身長控え目な可愛らしい少女。白を中心としたゴスロリファッションと可愛いらしい傘を愛用した子供っぽい一面な格好を好み、男女問わず虜にしてしまいそうな甘い雰囲気を持っている。
「のんは”独占”の能力者だからな。あれはヤバイ」
とある喫茶店にて、異世界から拾ってきた阿部のんの処遇について広嶋は、阿部のんの確保を依頼したこの店の店主であるアシズムに相談していた。
のんちゃんの容姿はとても人を惹き付ける魅力があるが、それ以外にも特別な能力が備わっていた。のんちゃんが住んでいた異世界が破滅するきっかけも、のんちゃんがある意味原因だった。それがのんちゃんが持っている”独占”という力。
のんちゃんが望んだ物を全て独占できるという強欲で束縛を行なう能力。その収拾能力と範囲は絶大であり、世界全体をも飲み込むほど禍々しいのだ。
「お前でも対処に困るだろうな」
「そうだねぇ~。保護まで考えていたけど、危険だよね。”独占”は君や藤砂くんより危険過ぎる能力だからね。日常生活で支障をきたしていたくらいだし」
現在はそれなりに制御ができている能力であるが、まだ完全にコントロールはできない。のんちゃんが手に入れるだけの素質と才能は間違いなくあるのだが、いかんせん年齢と修練がまだ足りていない。
今は微弱になっているが、人々からの人気を独占しようという不思議な電磁波のような物がのんちゃんから常に発生されている。これをモロにやられると、人々は皆のんちゃんを独占しようとストーカー体質にまでなってしまうのだ。
「能力だけを考えれば、のんちゃんは広嶋くんより強い。いや、敵に回したら最強の敵でしょ?」
「ミムラも同格だな。味方に回すとどっちも扱い辛い」
のんちゃんを無事保護した広嶋なわけだが、地球の生活にのんちゃんが適応できるかが不安であった。
「ミムラとしばらく過ごしていれば、あいつがなんとかするだろうが。学校とか大丈夫か?」
「う~ん、転校生としての手続きとかは私が誤魔化してあげたけどね。それなりの一般教養はのんちゃんが住んでいた異世界と大差ないけど」
「”独占”がいつ爆発するか。ミムラにずっといてもらうわけにはいかないしな。藤砂と灯じゃ、相性悪いし。裏切にはまだ、のんを紹介してねぇし。俺はあれだし……なぁ?」
「答え出てるじゃないか、広嶋くんがするしかないよ?」
「……お前は喫茶店の営業時間をずらすとかしろよ。相談しに行くのが馬鹿だった」
そんなわけでのんちゃんがちゃんとした学校生活を送れるのかどうか、広嶋健吾は遠くから観察することとなる。丁度、近くのデカイマンションとかがあるため、双眼鏡とかがあればちゃんと学校内にいても覗くことができる。
1日目。
「確認よーし!」
今日はのんちゃんの初めての学校登校である。両親もいない設定であり、多少不安ではあるが、この日はのんを住まわせているミムラが付き添いで学校の門の近くまで来ていた。
「ミムラさん!ありがとうございます!」
「頑張ってね、のんちゃん!終わったら迎えに来るからね!」
異世界の人間であることを悟られないため、日本の子供らしい服装で登校するのんちゃん。ぶっちゃけ、のんには似合わないなぁと、一目見て広嶋は思った。
そして、学校が始まって転校生の紹介を行い、”独占”の微弱な力のおかげかすぐにクラス内に馴染んでしまったのんちゃん。コミュニケーション能力はそこまで高くないが、積極的に来る質問をドキドキしながらもちゃんと答えられるところを見て、少しホッとする広嶋。とはいえ、まだ初日のせいかおどおどしながら、窓の外を見ていたりしていた。
わりとすぐに馴染めて良かった。しかし、何かあれば飛び込んで行く予定である。
今日は無事に終わった。のんちゃんは学校の門を潜ったところで、ミムラを見つけて楽しそうに笑って一緒に帰っていった。
2日目。
「確認よーし!」
今日は一人で楽しく登校するのんちゃん。
どうやら、いつもの服装で来た。ゴスロリっぽい服を着てランドセル背負っての登校だ。いつもの、のんだってすぐに広嶋には分かった。お前はたぶんそれ以外似合わないと思うわ。とはいえ、日本文化から大きくかけ離れていて、少し男子は近づきがたい雰囲気を作っていたが、女子達は逆に可愛いなど評判は良かった。転校生のくせに生意気だとか誰かに言われていたら、そいつシメておくから報告してもいいぞ。
と思っていたら、教師がのんちゃんの可愛い格好を少し注意していた。私服でいいとは言え、限度を考えろとのこと。この指摘にはのんも少しは涙目になっていた。終わってから外に視線を送っていたのんを見ると、すぐに行動に出てしまった。可哀想の一言だった。
俺は学校の休み時間の内に注意した教師をシメて、なんとかのんの格好を許すよう許可をとった。少しはのんの過ごしやすい環境にしてやれ。
それ以外は特に何事もなくのんちゃんは楽しい学校生活を送っていた。クラスメイトとの会話がとにかく多くて良かった。
3日目。
「確認よーし!」
昨日、ミムラから連絡があった。『のんちゃんがテレビとかネットをやりたいみたいんだけど、少しお金を援助してくれない?』
おそらく、クラスメイトとの会話に必要なんだろう。ミムラの家に住んでいるわけだし、間接的にあいつに金を貸すのはしゃくであるが、のんのためにはしょうがないだろう。とりあえず、PCとテレビを買ってやった。
3日目になり、気になったことは友達だけでなく、のんがちゃんと授業についてこられるか心配になった。異世界からやってきた身であり、ちゃんと日本の授業についてこられるか不安ばかりだ。のんは先生からの問題に対して手を挙げないが、しっかりと黒板を見て必死に覚えようとしていた。テストで良い点をとれるといいな。ただ、質問しないのは良くないぞ。眠るよりかはいいが、外を見る癖も無くしておけ。
基礎的な国語や算数、社会、理科といった分野に関して言えば、そこそこ以上の知識はあるようだ。むしろ覚えられるといったところか、向こうの異世界じゃなんだかんだで大魔法使いみたいな扱いだったのんちゃんだ。一方で音楽やら図工やらの分野にはあまり才がないのか、割りと不慣れなところがある。電気系の用具にはいつもビックリしている。
今日もとりあえず無事に終わったようだ。
4日目。
「確認よーし!」
今日はあいにくの雨の日。しかし、のんは傘が大好きであり、傘を使う雨の日は好きな方だった。傘を差しての登校でのんの顔が見れないが、たぶん元気なはずだろう。軽やかなステップで水溜りを避けている。
とはいえ、学校内に入ると空を見上げていることが多いのんだった。雨が止んで欲しいと思っているのだろうか?空ばかり見ずにたまには授業をちゃんと受けろ。たぶん、聞いてはいるんだろうけどさ。
また今日は体育館で運動をしている様子が見受けられた。校庭が使えず、体育で跳び箱やらランニングなど基本的な体力作りであった。体操着姿を恥ずかしく感じている、のんちゃん。あまり短い衣服は着た事がないし、能力の影響を考慮して素肌を出すのは好んでいなかった。男子達がのんちゃんの体操着姿をマジマジと見ている。
調子に乗った男子がいれば、あとでシメておく。それが良い思い出となるように、両目を刳り貫いてやる。
さて、そんなのんちゃん初めての体育であるが、向こうじゃ山の中で生活していることが多かった。運動面では女子、男子どころか、大人でも負けてしまいそうな身体能力を持っていた。
「とー!」
「凄いのんちゃん!なんで、そんなに出来るの!?」
跳び箱、マット運動、持久走、逆立ち、高跳び。単純な身体能力が飛び抜けていた。それはもう、クラスメイトから絶賛されるほどの凄い運動神経。喝采ばかりである。体育が終わっても人気者。すでに運動会の主役みたいな扱いだった。ちなみにのんに逆立ちをやらせようとする男子生徒が数人いたので、やらせる前に処分しておいた。絶対に私服で逆立ちすんなよ。お前、スカートなんだからな。少しは考えろよ。
5日目。
「確認よーし!」
男子生徒が数人、大怪我を負ったとかで学校にしばらく来れない事を聞かされた少し驚いていたのん。それとクラスの連中。一体何が起こったのだろうなー(棒読み)。しかし、そんな話があってか分からないが、のんの表情はイマイチ冴えていなかった。時折、また窓の外をぼんやりと眺めていたが、クラスメイトが声をかければすぐにそんな素振りがなくなった。
ある程度の学校生活には慣れただろうが、相変わらず機械関係には脆かった。みんなの話についていこうとするが、なんだか意味不明なやり取りをしてしまったらしい。あとで同居人のミムラから訊いたが、
「どうしてドラマの中にのんちゃんは入れないんだろう?って」
……アホか。しかし、アホかわいい。
異世界から来たのんらしい、アホな言葉だった。ちなみにこーいった物が量産されていることに驚いたりもしていたそうだ。
今日は今日で、常に恥ずかしがっているのんを見続けて面白くて良かったと思った。
そーゆう苦労も必要だろう。
そういえば、ミムラにのんの様子を訊いたとき、なぜだか分からないが不審がっていた目をしていた。PCとテレビを買ったから羽振りの良さを疑ったのか?そういえば、お礼をのんからしかもらってねぇ。
6日目。
「確認よーし!」
今日は登校からミムラが一緒だった、のん。正直、よく分からない。それと、山本灯までいた。
とはいえ、どーでもいい。のんは今日も元気に学校生活を送れるだろうか。ちゃんと授業を受けて楽しく過ごすんだぞ。
「?」
すると、まただ。今日もなんだかのんは不思議そうに、空を……。いや、外に何かを捜しているようだ。よく分からん。
クラスメイトとの会話や授業にも集中できていないようだ。保健室を勧められていることもしばしばあったが、体調が悪くなったのか?それならミムラの同伴も頷ける。
ていうか、調子悪いんだったら休むとかして良いだろう。元気な姿ののんが一番だからだ。とはいえ、のんを回収するよりも先に同居人のミムラに連絡を入れてみることにした。体調管理は保護者の仕事だろう。
『もしもし?』
「ミムラか?」
「残念ね、灯でした~」
その声は電話ではなく、直接耳に届く声であった。監視者がやってはいけないこと、自分が監視されることだ。自分の後ろには、まるで連絡を待っていたかのように二人の女が、禍々しいオーラを放ちながら立っていた。
「…………なんだ?」
「それはこっちの台詞。なんの電話だった?」
「のんちゃんの様子がおかしい事を訊くつもりだった?」
ギュッと、”拳女王”の山本灯の右の拳は握られた。
「あんたにはダメージは通らないけど、ぶっ飛ばすことができるからね。ちなみに、私はミムラに頼まれてね」
灯の射程範囲に入っている。これはまず、避けようがないことを広嶋は悟った。とてもなんていうか、……いちお、自分の意見を言ってみる
「のんの様子が少しおかしいから、何かあったかとな。どうなん?ミムラ」
灯も怖いが、ミムラの方がメチャクチャ恐ろしかった。敵に回したくねぇからだった。そんなミムラの言葉は怒気よりも、悲哀に満ちた声と共に放たれた。
「最近ね、……最近、のんちゃんは学校に通っている間。誰かの視線を感じてるみたいだったの」
「……そ、そうか」
「友達ができて楽しかったみたいだけど、それだけが不安もあってね」
「相談だったら乗ったぞ……。ストーカー退治ならな」
「ううん、でも。今、解決した。いえ、良かったの」
ミムラの、”天運”の金色オーラが溢れあがった。こんなことで、こーゆうことで、本気になるのが分からないな。女の思考は怖いな。
「広嶋くんがのんちゃんのストーカーみたいで、心置きなく、あたしとアカリン先輩がボコっても広嶋くんは死なないし!」
「おい、止めろ。いや、止めてください」
「問答無用ね。あんたを殴り飛ばせるのは楽しいし」
「別に死なないよね、広嶋くん!!」
沖ミムラと山本灯。2人の拳をモロに浴びると、身体の内側から崩壊するような痛みに見舞われる。さらには殴られた勢いは凄まじく、大きく吹っ飛ばされる。グングンと飛距離は伸びていき、あろうことかのんのいる学校。それもピンポイントにのんがいる教室までぶっ飛ばされる。
「ぎゃあああぁっ!」
「男の人が空から飛んできたーー!」
「血塗れなんですけど!」
とんでもない光景に一同は騒然としたが、のんは飛んできたのが広嶋であったことを知るとすぐに駆け寄った。
「の、のん………」
「広嶋さん」
ミムラの”天運”だけは広嶋の能力を持ってしても防御することができなかった。しばらくの間立てなかったが、のんが広嶋の手を握った。そして、
「ストーカーはダメですよ!」
俺の求めていた言葉とは違った。心配する気ねぇ、こいつ等。つーか、自分のクラスメイトの前でそんなことを言うんじゃねぇよ。そんでもって、お前。周りの人間に話してたのかよ、馬鹿だろうが!周りヒソヒソ話を始めているじゃねぇか。
「じゃ、邪魔した。楽しんでろよ、のん……」
ようやくダメージが抜けてきた。少々、フラフラするが立ち上がって、のんの手を振り解き教室を抜け出そうとした。2人共、本気で殴るとはあとでぶっ飛ばすわ。
「でも、」
ボロボロな身体となった自分にまためげない表情で、のんが腕を掴んだ。
「のんちゃんは心配してくれる広嶋さんが好きです!」
最終日。
のんは楽しく学校生活を送っている。世間というか、別の世界から来ている人間だ。少しずつだが、こんな環境に慣れてきたみたいだ。”独占”の影響もあまりない。友達もかなりできただろう。早すぎる第二の人生かもしれないが、俺にはこーいった道に進めさせることしかできない。
頑張れ、のん。
「さて、俺も仕事に戻るか」
のんが楽しんでいてくれるなら、心配する悩みごとが減って良かった。