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託児所とバス その二

 この託児所は、夜遅くも開いている。

 日が暮れてすっかり夜だ。

 しかし、利用者はいた。

───────────────────────


 雄馬様、少し前に雄馬様の母さんと行ってしまわれた。

 雄馬様の嬉しそうな顔と、疲れている顔をしながらも嬉しそうな母さんの顔が印象的でございました。

 ここに来る千日前の人間ひととのお喋りは、結構勉強になります。



 利用者「スミマセン、また、夜中までお願いします」

 保育士D「お疲れ様です。亜希子ちゃん、お預かりします」

 保育士C「お母さん、若くないか?」

 保育士D「二十半ばあたり」

 保育士C「……若いなあ」

 


 先ほどとは違う「保育士」と言う人間ひとがいます。

 さっきは母さんご二人だったけど、今は父さんが二人であります。

 


 保育士B「ほら、亜希子ちゃん、お休みなさいね!」

 保育士D「うつらうつら、そんな感じだ」



 自分の近くに、違う人間ひとをまた置かれたであります。



 亜希子『くちの気配がする。誰?』

 


 自分でありますか?

 自分はバスであります。

  


 亜希子『ふうん』



 どうなさいましたか?



 亜希子『私、こんな時間の中に居たくない!』



 居たくない!

 それは……



 亜希子『死にたいの』

  


 何故でありますか!

 生きていたくないのですか!

 


 亜希子『……私、居ない方がお母さんは幸せだから』


 

 ……よろしかったら、自分に言葉をぶつけて下さい。

 自分は聞くことしか出来ませんが、聞かせて頂きたいであります。



 亜希子『……うん』


───────────────────────

 第三十一話

 表情



 私が生まれて、お母さん苦労ばかりしてるの。

 こんな時間から働くのも、苦労の一つなの。

 お父さんは居ない。

 私が居るのを知った時に、別れてしまったわ。

 


 「亜希子様は、お母さんが好きでありたすか?」



 もちろん!

 でも、お母さんは私をキライなはず。 

 だって、私の顔を見ると、どこかやるせない顔をするの。

 


 「……やるせない顔でありますか」



 泣く訳でもなく、笑う訳でもなく、複雑な顔なの。

 その顔を見ると、私は居ないほうがいいんだ! 毎日思うの。

 ……見たくないの、お母さんの複雑な顔を。

 複雑な顔の理由、間違いなく私なら私は要らないの。

 この時間に居てはいけないの!

 

 

───────────────────────


 亜希子様は、お母さんにどんな顔をして欲しいのでありますか?



 亜希子『笑顔だよ』



 笑ってほしいでありますか。

 だったら、生きましょう。

 そして、複雑な顔の理由を聞きましょう。


  

 亜希子『え?』



 いずれ、亜希子様と自分は、交われなくなるであります。

 千日過ぎて、亜希子様が大きくなられると、自然に記憶は無くなるとは聞いたことはあります。

 しかし、もし心に残り続けるなら、大きくなっても記憶として残るかもしれません。

 ですから、その時に聞いて見てはいかがでしょうか?

 小さい頃、自分と話をしたと母さんに打ち明けてです。母さんがどんな反応をしてもです。



 亜希子『私、心に残るかな』



 残らない……つまり、それが亜希子様のその時の全てであります。

 人間ひとは、苦しいことはいつまでも記憶に留めます。

 忘れてしまうことは、その時の記憶は苦しくなかったと言うことであります。

 例え千日前の記憶でも、聞きたい記憶は消えない! 自分はそう思います。

 


 亜希子『……うん、ありがとう』



 いえ、自分こそでしゃばり申し訳ありません。



 亜希子『ううん、嬉しかった。おなかがすいたよ。少し泣いて、ミルクもらうからね』



 はい、どうぞ!



 亜希子「ふえーん!」

 


 保育士C「あれ、亜希子ちゃん? さては、バス泣かせたな」

 


 えっ! 

 自分でありますか!



 保育士D「バカ、お腹すいたんだよ。早くミルクの用意だ」

 保育士C「冗談ですよ。さて、ミルクだよ。たくさん飲んで眠って、お母さんを待とうね」 



 亜希子はミルクをもらっているです。

 飲み終えたら、眠りそうであります。 

 亜希子様、答えは母さんにですよ。

 


 幸洋様、アナタ様は恵まれているであります。

 いい母さんに、いい父さん。

 早く自分も帰りたいであります。



 




 


 

 

  

 

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