小さな町の雑貨屋さん その三
実り秋、とは言え町の雑貨屋は、相変わらずの感じだ。
一つのことを除いて……
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店長 「秋だなあ」
バイト 「店長、秋になりました」
店長 「実りの秋、芸術の秋」
バイト「店は相変わらず」
あき。
人間は、時間のながれの中にいる。
いま、あきだ。
時間のながれ中で、「きせつ」というものがある。
だけど、ここはかわらない。
うん、みんなかわらない。
店長 「そうか?結構売れてるぞ、こうみえても順調だぞ」
バイト 「そういう意味でなくて」
店長 「ん?」
バイト 「ばーか」
店長 「何だよ」
バイト 「さっ、店長先生、し・ご・と!」
ねぇ、ニャン太。
なに、ポン太。
店長、バイト、このごろ……なんだろう?
うん、わかるよ!だけど……?
カレンダー『二人が近くなったのよ』
あっ、カレンダー。
なんだか、たくさん、黒くなった。
だいじょうぶ?
だいじょうぶ?
カレンダー『ありがとう、だいじょうぶよ』
いたずら、しすぎだよ。
いたずら、しすぎだよ。
カレンダー『あの二人が、鈍いから!』
?
?
カレンダー『だけど、最近、近くなったわ』
ちかい?
ちかい?
カレンダー『ポンニャン、教えてほしいかい?近い意味を」
うん、おしえて。
カレンダー先生、おしえて。
カレンダー『先生?』
バイトが。
言ってた。
カレンダー『先生……か』
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第四話
距離
人間は動く。
動いて遠くなったり、近くなったりする。
距離をとる
人間は、そう言う。
この距離で、その人間の気持ちが伝わるのよ。
「距離……」
「近い、遠い」
「目でみてわかる」
「距離を見る」
だけど、人間は見ただけではわからない距離を、持っているの。
「え?」
「え?」
見た目が、同じにならない距離……
人間は、こう呼ぶ。
心の距離
人間は、「こうしたい」「ああしたい」、こんな気持ちを距離に見せないの。
見せないから、みんな、手探りをする。
「どうして見せないの?」
「見せたら、いいのに」
怖いの、傷付くの、そして……傷付けてしまうの!
人間はそれが嫌なの。
人間が、生きるとは大変なの。
私達、品とは違うの。
「ちがう?」
「ちがう!」
「え?」
「僕、少しわかった」
「ほんと」
「カレンダーがしてたこと」
アハハハ……
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どうわかった?
店長、バイトの、「距離」と「心の距離」が違っていたんだ。だから、カレンダーは!
カレンダー『ニャン太、そうよ』
すごい、ニャン太!
えへへ……
店長 「なあ、仕事楽しいか?」
バイト 「え?何です急に!」
店長 「いや、何でもない」
バイト 「私、ここ好きですよ」
店長 「……うん」
バイト 「……はい」
なんか?へんだ。
なんか、へんだよ。
カレンダー『……ポンニャン、ぬいぐるみ、落としてみて』
ぬいぐるみ?
あそこのやつね。
わかった。
わかった。
………
………
《えーい》
店長 「ん?」
バイト 「あれ、ぬいぐるみが落ちた」
店長 「おかしいなぁ」
バイト 「ほんと、変です……えっ、て、店長!」
店長 「……え!」
あっ、二人がふれた。
手がふれた。
店長 「あっ、その、その、」
バイト 「……うん」
あっ、バイトが店長の手に……
手をおいたよ。
カレンダー『ポンニャン、でかした!』
え?
なにが?
カレンダー『二人の心の距離を……』
二人がさっきより近いよ。
二人の距離なの?カレンダー!
カレンダー『はい!これが、二人の心の距離です』
心の距離か。
心の距離……
カレンダー『ようやく、素直になりました。二人共、おめでとう!』
おめでとう?
おめでとう?
カレンダー『二人が幸せになったから……だから、「おめでとう」なの』
そっか、おめでとう、店長
へえー、おめでとう、バイト
つづく