家族 母さん入院したよ
六月の梅雨時期、母さんは子供を宿すために、病院へ入院した。
ポンニャンと、クマ、そして、スマホが母さんのお供に来ている。
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母さん「ここに来て、一週間か。当初より少し遅くなりそうとはいってたな」
しばらく、びょういんに……
おじゃまします。
クマ 『オイラも、おじゃましています』
スマホ『ワシャ、帰りたい。エアコンと喋りたいから帰りたい』
スマホ、エアコン先生は……
また、ひどくなった。
クマ『スマホ……』
母さん「そろそろ……か。なんだか、不思議……」
スマホ『不思議な部屋だ。儂のいた部屋が様変わりした。人間が勝手にした』
クマ 『ここは病院だよ』
スマホ『病院?変わった名前のアパートじゃ、また母さんはアパートに暮らすのか?父さんは?おい父さんは?』
父さんは、いないよ。
お仕事だよ。
スマホ『そうか、父さんは、仕事のアパートで寝泊まりしながら、母さんを見ているのか』
アパートって
もう、アパートは……
クマ 『ポンニャン、ダメだ。今のスマホは……』
スマホが、少しずつ
おかしくなっている。
今、僕達はアパートにいない。
そう、父さんのお家に、いる。
母さんが宿したから……
次の命の準備で……
スマホ『父さん、早く、母さんに命を……エアコン想いをムダにするぅー』
……
……
クマ 『……見てられない』
母さん「このスマホ、とうとうダメね。なんだか、かわいそう……」
母さん……
母さん……
クマ 『……』
コンコン……(ノック音)
母さん「はい、どうぞ」
看護師「検診です。どうですか?」
母さん「おかげ様で、のんびりしてます」
看護師「そうですか。順調ですよ」
母さん「ありがとうごさいます」
あの人間、何?
誰?
クマ 『看護師さんだよ。母さんのお世話をしてくる人間だよ』
お世話?
良い人なの?
クマ 『大事な人さ』
大事な人……
父さんとは違うの?
クマ 『少し、意味が違うけど……大事に思っているよ』
スマホ『大事なエアコンを!お前ら都合ばかり!』
……
……
看護師「やっぱり、お母さんのお手伝いはいいわ」
母さん「看護師、昔は違う人達のお世話をしていたの?」
看護師「はい、昔はね……だけど、疲れたのそして、関われるから……」
母さん「何かありそうですね。教えていただけませんか?」
看護師「……私の話はつまらないですよ」
母さん「教えてください」
看護師「……はい、わかりました」
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第十四話
生
私昔は、外科の看護師でした。
それも緊急な患者さんが多いんです。
時間との戦いだった。
少しでも遅いと……
辛かった……
苦しかった。
でも……
楽しかった。
そう、生死に関わる仕事が楽しかった。
楽しかった……
「どうしたんですか?」
ある日、疲れたんです。
……いえ、仕事は楽しかった。
でも、疲れたんです。
「どうして?」
悟ったんです。
病院にくる患者さんは、早かれ遅かれ……
いずれ、死ぬ。
なんだか、寂しかった。
悔しかった。
どうにもならなかった。
私はそんな気持ちのまま、毎日を過ごしていました。
しかしある時、産婦人科の仕事の手伝いをしたんです。
その時、人手不足だったんで……
正直、私は素人でした。
何がなんだか、わからなかった。
わからないまま、終わってしまいました。
しかし……不思議でした。
「え?不思議?」
はい、私の渇いた心に、水が満たされていくんです。
理由はわかりました。
何故、満たされていくのか!
「……」
産婦人科は……
「生」と向き合えるんです!
衝撃でした。
病院は「死」と向き合うのが当たり前だと、感じていた私に取って「生」と前から向き合うここは、自分の何かを壊されました。
そこからです。
そこから……私は自分の存在意義を見たような感じがしたんです。
そして、今があります。
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看護師「……ごめんなさい。私のことで」
母さん「いいえ、ありがとうごさいます。なんだか、ためになりました。これからも、お願いします」
母さんは、かんごしさんと……
仲良くなったね。
かんごしさん……
良い人だね。
クマ 『いい所に母さんは来たね』
スマホ『……ふん』
母さん「いい天気……」
看護師「梅雨は明けました。暑くなりますよ」
母さん「はい!」
つづく




