6話「気さくな×と××女」
「ブラムドさん容赦ないですね…… あの二人最後までなき続けてましたよ」
「対人もゲームとして楽しめるやり方なら文句は言わない。だがあいつらのは悪質な類いのもんだからな、きつくお灸をすえてやらないとまた繰り返すぞ」
「まさか襲ってた理由が自分達が女の子と仲良くなれないから腹いせに男女ペアを、とは思いませんでしたね」
普段は温厚なアストラが珍しく呆れたようにため息をつく。
対人武器「ジャック・ザ・リッパー」を持った高レベルのブラムドに喧嘩を売るという無謀な行為に及んだあの二人はもう他の誰かを襲うことはないだろう。
もし襲ったとしてもPLネームは確認済みなので、彼らを待っているのは掲示板での袋叩きと運営からのお仕置きだけだ。
それは彼らも避けたいだろう……とは思うが。
ともかく、今は待ち合わせの場所に向かわねば、とブラムドは思う。
先ほどの騒動のこととと少し遅れてしまう事は待ち合わせの二人に伝えてあるので歩調は相変わらずゆっくりとしたものだ。
「そういえば待ち合わせの二人ってブラムドさんのリアルの方のお友達とか何ですか?」
「いや、違う。二人ともアストラみたいにゲーム内で知り合って武器を作ってやった奴等だ。なんていうか両方とも変わった奴で面白いぞ」
「ブラムドさんが武器をつくってあげたってことは、その人のこと気に入ったってことですもんね」
「その通りだ。(まああの二人の性格的にアストラともすぐ打ち解けようとはするだろうが……問題はアストラがあいつらについてこれるかだな)」
「ちょっと心配ですけど楽しみです!」
話しているうちに入り口に着いた。
ブラムド達が退屈そうに大きな岩に座っている二人組を見つけたと同時にあちらもこちらに気づいたようだ。
両者の反応はまったく違ったもので、ピンク色のポニーテールの人物は犬を彷彿とさせる様子で嬉しそうに近寄ってくるが、一方のもう一人、茶色いセミロングの少女は仏頂面でゆっくりと歩いてくる。
「ブラムドーー! 久し振りだね!」
「一週間で久し振りというかお前は…… 紹介するぞ、こいつはカナンだ」
「どうも、君がアストラちゃん……アーちゃんだね! これからよろしく!」
「あっ、アストラです。よろしくお願いします、カナンさん」
「もう固いな~呼び捨てでいいのに」
髪と同じピンク色の防具のスカートを弄りながら、カナンは次々とアストラに質問している。
事前にアストラの性格を伝えていたので、気を使って積極的に話しかけてくれてくれているようだ。
しかしもう一人の人物はブラムド達から少し距離をおいたところで止まっている。
「何してんだレイ、こっちこいよ」
「…………はいい……」
「はっ?」
小さな声でモゴモゴと何かをいっているがまったく聞き取れない、普段は気の強い彼女は言葉もはっきりと話すのだが今は借りてきた猫のように大人しくなっている。
カナンもレイのおかしな様子に気づいたようで、アストラとの会話を中断してこちらに歩いてきた。
「どうしたのレイ、さっきまでは元気だったのに」
「…………何でもない…………」
レイはアストラと違って人見知りをするタイプの人間ではない、何故縮こまってしまっているのかブラムドにはまったくわからなかった。
だがカナンは理由がわかったようでこっそりとそれを教えてくれる。
「ああ! わかったよブラムド、あのね……」
「ふんふん……あーなるほどそういうことか、わかった。こいつはレイ、様子がおかしいけど気にしないでくれ」
「わかりました! アストラです、よろしくお願いします」
「……よろしく」
「それじゃあ早速クエストを受けにいくか!」
オーー!っと元気のよい返事と共に一行は火山の奥深くにもぐっていった。
※※※※※※
ブラムドは前方、レイが後方ので敵の警戒をしているので、自然とアストラとカナンが横に並んで歩くことになる。
気さくなカナンの態度にアストラも慣れてきた様で楽しそうな声が辺りに響きわたる。
「それじゃあカナンさんとレイさんとブラムドさんはよく一緒に行動しているんですね」
「まあね、レイは結構最近知り合ったんだけどそれからはよくパーティー組んでるね。僕とブラムドはAO最初期からの友達だからかなり長いよ」
「へえー、男女なのにそこまで仲がいいなんて羨ましいです!」
「はっはっ……痛った!」
「………………」
「レイ! 何で蹴ってくるの!」
レイは無言でカナンを睨みつけたあとチラッとアストラのほうを見る。
視線に気付かずに笑っているのを見て何を言うわけでもなく、そのまま元いた位置に戻っていった。
「ブラムドさんて昔はどんな方だったんですか?」
「んーとそうだねー……俗に言う効率勢ってやつだったかなー。無駄なことは一切せずとにかくレベル上げや金集めになることばかりを一日中やってたよ」
「今とはずいぶん違うんですね」
「うん、僕やアストラちゃんやレイを助けている今の彼とはまったくの別人みたいだったね。いつ見てもログインしていたからろくに睡眠もとってなかったんじゃないかな。でも急に『俺はこれからは気に入った奴の手伝いをしていく』って言い出して、それからはずっとその言葉通りに生きてるよ」
「急にですか?」
「うん、まるでそれまで人形だったものに命が吹き込まれたみたいだったね」
僕って詩的!?素敵!? と聞いてくるカナンを無視してアストラはブラムドを見る。
前を歩いている人物は何があってそこまで変わったのか、少し気になったアストラだったがその疑問はすぐにまた別の話で塗りつぶされていくのだった。