5話「PVPは計画的に」
雪原での素材集めが始まってから二時間がたった。
アイテムボックスの回復アイテムが収められていた場所に、今は沢山の素材が詰められている。その量は1人分の装備を作るには十分な量だ。
「ここで集める素材は取り終わったし、次は火山の方に行こう。休憩はとったがこのまま続けられるか?」
「ブラムドさんが見張ってくれている間にリアルでお昼食べてきたので大丈夫です!! でもブラムドさんは食べなくてよかったんですか??」
「あー俺は食べないでも生きていけるから心配しないでくれ」
「??」
相変らず目元が見えないので黙っていると感情が掴みづらいが、首をかしげていることから疑問に思っているのだろう。
説明する気はないのでスルーして話を続ける。
「火山の方ではさっきまでみたいにモンスターのドロップアイテムを狙うんじゃなくてクエストの報酬で素材を狙う」
「『火花』……ですよね。確かクエスト報酬で一個、クエスト目標のモンスターが確定でドロップするので更にもう一個。一回のクエストで一気に二つ集まるんですよね。ただ問題はそのモンスターがただのモンスターじゃなくて……」
「ボスモンスターなんだよな」
これまではブラムドの力でごり押ししてきたが今度はそうはいかない、ファンブル洞穴、火山地帯側のボスモンスターはレベル40以上の6人パーティーで挑むことが推奨されている。
PLレベルは90を越えているブラムドではあるが、戦闘では60レベ程度の実力しか出せない。パーティーの一員としては十分すぎるレベルだが、ペア、しかも相方は30レベ付近とあっては流石に勝ち目がない。
だがしかしそこに抜かりはなかった。
「心配しなくていいぞ、ちゃんと助っ人を呼んである。俺達が入り口につくぐらいの時間に待ち合わせしているから火山はその2人を加えて攻略していこう」
「わ、わかりました。う~、初めての人が二人も来るなんて緊張しちゃうなあ」
落着かなさそうにキョロキョロしていたアストラは突然何かを見つけたように動きを止める。
「あれブラムドさん、あそこに2人組みのプレイヤーがいますけどあれがそのお友達ですか??」
「ん?? いや違うと思うが……」
ブラムドも遠くにいる2人組みを見つけたが、それはブラムドが約束している人間達とは明らかに違う人物だった。
歩いている方角にいるので徐々にその2人組みに近づいていく。
山賊のような服装のその2人はひそひそと小さな声で何か相談した後に、決して友好的とはいえない態度でこちらに話しかけてきた。
「おうおうそこのお二人さんよお!! こんなところで何やってるんだ、ああ!?」
「すまないが急いでるんだ、用がないなら話しかけないでくれるか」
「冷てえなあ、何だ彼女の前だから格好つけてるのか??」
げらげらと下品な笑い声を上げているそいつらは、まるでNPCのようなかませ犬っぷりだがプレイヤーだ。
装備を見るにレベルは30台後半だろうか、入り口付近であることを考えればここで動かないで何かすることがあるとは思えないレベルだ。
そこでふとブラムドは掲示板に書いてあった要注意情報スレの一文を思い出す。
最近ファンブル洞穴入り口付近でコンビを組んでいたプレイヤーが襲われる事件が何度かあったそうだ。
AOはPL同士の戦闘を推奨こそしていないが禁止するようなこともしていない。
なのでフィールドでいきなり戦闘を始めることがないわけでもないが、それはあくまで楽しめる範囲での事だ。
悪質なもの、例えば低レベル狙いの初心者狩りや狩場を独占するための行為などは掲示板に晒され、最悪は通報されて運営から重い罰を貰うことになる。
ファンブル洞穴に出没したその2人組みはまだそこまで話題になっていなかっため運営は動いていないようだ。
「お前達もしかして掲示板で話題になっていた奴らか??」
問われた2人組みのうち赤いマントをつけた男の方が、カッコつけるように髪をかきあげながら答える。
「俺達も有名になったみたいだな……そうだそれはまさしく俺達の事よ!!」
「ならどうすればいいかもわかるだろう?? 彼女さんの方は見たとこ低レベだしあんたもそんなボロイコート着ているようじゃあたいしたレベルじゃないだろ。大人しく素材と金置いていきな」
今度は青いマントをつけた方が鼻で笑いながらそう告げてくる。
勿論、ブラムドとアストラから見ればその2人の姿は高レベルに対して喧嘩を売っている命知らずにしか見えない。
アストラがあわあわと慌てているのは自分の心配をしているからではなく2人組みの心配をしているのだ、そんなことも知らずに余裕をかましている2人をブラムドは煽る。
「はははっ君たちみたいな低レベルに構っていられるほど僕は暇じゃないよっ! もう一度だけ言ってあげる、邪魔だからどけ」
「……舐めた態度とってくれてんじゃねえか!!」
「痛い目見てから後悔してもしらねえぞっ!!」
お揃いの棒で殴りかかってきた2人組みの攻撃は全てブラムドに当たった、しかし当たったと言うだけだ。その攻撃によってHPバーが削れることはない。
数発殴ってようやく気付いたらしいその二人だったが、だからといって他に何ができるわけでもなく段々と顔に恐怖を浮かび上がらせながらも手が休まることはない。
ブラムドはそんなこと微塵も気にせず話し始める。
「お前達がボロ布って言ったこのコートだけど、これの素材には『冥府の王の衣』が使われていて闇属性の攻撃を大幅に防ぐことができる。あんたらの棒見るからに闇属性だし後はレベル差による防御力の違いででダメージはなし。理解できた??」
「「はあっ、はあっ、はあっ!!」」
「それで次に紹介するのはこれなんだけど……」
それまで威勢の良い突きを放っていた2人だったがブラムドが取り出したそれを見て動きを止めてしまう。
ナイフを大型にしたような形のそれだがナイフと大きく異なっているのは刃の途中に付けられた無数の釣り針の返しのような物だ。
人を痛ぶるために作られたかのようなその武器とブラムドの化け物のような耐久力についに2人は戦意を喪失してしまう。
「これの名前は『ジャック・ザ・リッパー』っていってな、その名の通りの特殊効果を持っていてプレイヤー、人型モンスターに対しての攻撃に補正がかかるんだ」
「ひいっ、あっあんた高レベルプレイヤーだったのか!! すまなかった見逃してくれ、この通りだ!!」
「…………」
土下座して謝る者にも放心して固まっている者にも容赦はしない、ジャック・ザ・リッパーを振るうブラムドの顔はどこか楽しげに笑っているようだった。