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3話「依頼開始」

 街に着くまでの間、何度かモンスターとの戦闘が合ったが適正レベルを大きく越えているブラムドにとっては何の障害にもならなかった。

 首都ソーンロミオは数あるAOの街の中でも屈指の広さを誇り、時間が昼間であるにもかかわらず、様々な施設を利用するため膨大な数の人々で溢れかえっている。


 ブラムドとアストラの2人はNPCの店が立ち並んでいる市場の間を抜けて行く、中でもここは高級品を取り扱っている店が多く、広げられた商品の中には目玉が飛び出るほど高いものもある。


 切れていた来客用のコーヒーとクッキーを買っていると、青ざめた顔でアストラが注意してくる。


「ブ、ブラムドさんそれすごく高いですよ! それだけで私の装備全部買えちゃいますもん!」

「まあ調理スキルが要らない食品で美味いのだとこれくらいはするよな。心配するな、金なら腐るほど持ってる」

「腐るほどって…… そんなにお金を持ってるってことは、もしかしてブラムドさんてトップ組の方なんですか?」


 アストラの言うトップ組とは高レベルランカーの中の更にトップに位置する人間達を指す呼称だ、明確な線組みが無いため自称、と言うことになってしまうがブラムドもその中の1人だ、、


「まあ一応な。ほら、そんなことより早く鍛冶屋に向かうぞ」

「やっぱりそうなんですね!」


 アストラは足こそ動かしているが、視線をブラムドに固定して動かさない。

 その目からは純粋な憧れや尊敬がヒシヒシと伝わってきて、どこかこそばゆい。


 視線から逃げるように早足で路地を歩いていく、複雑に入り組んでいるこの通りは歩き慣れている者でないとすぐに迷ってしまう。

 ブラムドにとっては庭みたいなもので、迷うことなく目的の場所にたどりついた。

 建物は一見ただの小さな小屋だが、実は地下が存在していて、ブラムドがここを購入した際には当時の所持金の半分以上を持っていかれた。


 扉の上には『ヘイルメリー』とだけ書かれた看板があり、何の店なのかはまったく書かれていない。

 運よくここにたどり着いた客がブラムドの気にいらない者だった場合のための処置だ、鍛冶道具は全て地下にあるためシラさえきればばれる事はない。


「『ヘイルメリー』……ここがブラムドさんのお店なんですねで」


 ノックをした後、恐る恐る扉を開けて入っていくアストラに返事をするものはいない、後ろにいるブラムドが家の主なのだから当然なのだが。




 ※※※※※※




「それじゃあ本当にブラムドさんは鍛冶屋さんなんですね」

「やっと信じてくれたか……」


 コーヒーを飲みながらステータスや鍛冶道具を見せたところでようやくアストラはブラムドが鍛冶屋だと認めてくれた。

 今はお菓子を食べながら質問に答えているところだ。


「ブラムドさんは何で私達みたいな人を助けてくれるんですか?」

「俺も昔はトップ目指して必死こいてやってたんだが、なったらなったで急激にアホらしくなってな。俺が気に入った奴のために素材集めて装備作ってた方が楽しいんだわ。アストラだって友達とやるのが楽しいって言ってたしわかるだろ」

「はい!」


 嬉しそうなその顔を見て自分の判断はまちがっていなかったとブラムドは再確認する、アストラの笑顔を見て嬉しくなる程度には普通の男の感覚を持っている。


「でも……鍛冶屋さんっていうわりにはブラムドさん戦い慣れていませんか? モンスターと戦うときも冷静でしたし」

「最近は依頼者と一緒に素材取りにいくことも多いからな、それにトップの奴らの依頼受けていたときには報酬に経験地が美味い狩場での戦闘とかもあったからな。意外と戦闘経験はあるんだよ。まあ武器スキルは低いけどな」


 へえーと何処か人事のような返事をするようなアストラは自分がこれから取りに行くことになると理解しているのだろうか。


「それに俺の戦い方は相手に合った武器に入れ替えながら性能でゴリ押すだけだからな、まともな戦闘職業の奴らには敵わないさ」


 残り少ないコーヒーを一口に飲み干して、いよいよ話を本題に切り替えていく。

「俺の防具の中にはアストラ位のレベルでも装備できるやつがいくつかある、たださっきも言ったが最近の俺は依頼を受ける条件として作る装備の素材を依頼主と取りに行くようにしてる。ちょっとレベルの高いところにいくが俺がフォローするから安心してくれ」

「はい! …あっ、じゃあエルちゃんも呼んだ方がいいですか?」

「二人分の装備作るなら何日かかかることになるし今日は呼ばないでいい、アストラだっていきなり装備見せて驚かせたいだろ?」

「えっ!? えっと…」


 そうでもなかったらしいがここはブラムドに従ってもらうとして話を続ける。


「見たところアストラは魔法使いのように見えるがそれは合ってるか?」

「はい、職業はソーサラーで炎と氷の魔法を使うことが多いです」


 ソーサラーは魔法使いの中では最も平均的なステータスをもつ職業だ、近接系には防御力とHPで劣っているが魔法使いの名の通り魔法による遠距離攻撃がおこなえるため、攻撃をくらわないように立ち回りつつ後方から支援する事が多い。

 但しソーサラーは打たれ弱いが攻撃力は低くないので、ブラムドの知り合いには剣を片手に相手に突っ込み近距離から魔法をぶちこみつつ戦う変態もいる。

 戦う鍛冶屋さんと魔法使い(物理)ではどちらがより変人かはたびたび友人の間で話題になるが未だに結論はでていない。


「使用魔法は炎と氷か……なら素材はファンブル洞穴で集めるべきだな。他に何かこだわりはあるか? 見た目でも性能でも何でもいいぞ」

「出来れば武器は小さめにしていただけると嬉しいです! 後はコートのようないかにも魔法使いって格好で! あとあと……」


 控えめな印象を受けていたがやはり女の子としての服装のこだわりは強いようで次から次へと要望が湧いてくる。

 中には難しいものもあるが出来る限りは答えてあげるのが鍛冶屋の役目だ。


「わかった、デザイン用の飾り素材は特別に俺の手持ちから出す」

「ありがとうございます!」


 雑談を交えながらゆっくりと決定させていくと、終わる頃には午後6時をまわっていた。

 ブラムドは問題なかったがこれ以上のプレイはアストラのリアル生活の方に支障をきたしてしまうということで、素材集めは翌日からということになった。

 お礼を言ってログアウトしていくアストラを見送った後は、翌日の準備をしに地下に向かう。


 仕事場、兼、物置と化している地下室には様々なアイテムや装備が散らばっている。

 捜し物をするときでもなければ整理することなどないので、片付けをしながら一つ一つ手にとって確認していくが中々見つからない。


 ファンブル洞穴は洞窟の中がまったく正反対な環境で分かれており、片やマグマが煮えたぎる灼熱の空間であるにもかかわらず、近くでは極寒の雪山が広がっているという、幻想的な風景になっている。

 それによって出現するモンスターも大きく異なるので、素材を集めるには楽だが対策もそれなりに必要となってくるのだ。

 特に今回は適正レベルを下回るアストラを連れて行くので念入りに準備をしなければならない。


 黙々と捜していくつか目的のものを見つけた頃、上の方から何かの物音が聞こえてくる。


 ……コツコツコツ


「んっ?」


 1階に続いている階段から聞こえてくるそれは足音のようだ、AOのPLホームは所持者が許可したもの以外は勝手に入ることはできないので、音の主はブラムドの知り合いであるのは間違いない。

 それに、ゆっくりと地面を蹴るその特徴的な足音にブラムドは聞き覚えがあった。

 扉の前まで来たその人物はゆっくりと扉を開ける、向こう側にいた人物はやはり考えていた人物その人だったようだ。


「こんにちわ」

「よっ、久しぶりだな」



 ※※※※※※



「待たせたな」

「いえ、私も今来たところでしたから」


 翌日の正午、待ち合わせの場所には既にアストラが待っていた。

 装備は昨日と変わらないが、アイテムボックスの中にはファンブル洞穴の対策アイテムが入っていることだろう。


 一方ブラムドの装備は昨日とは大きく変わっている。防具は黒を基調としたコートをバトルスーツの上から羽織っていて温度差の激しい環境にも対応できるようにしている。

 また背中にはカルテッタではなく小型ハンマーの『ボルバド』が横向きに差されていて、その他にも長槍がボックスに、投擲ナイフが懐にしまわれていていつでも取り出せるようになっている。


「まずは洞穴の中の雪山の方に向かおう、火山の方はクエをこなしてゲットする素材もあるから後回しで」

「わかりました! 足を引っ張らないように気をつけますね」

「そんな固くなるなよ、ゲームなんだ楽しくやろう」

「はい!」


 前髪で隠れている目だが、こちらを見ているそれが輝いているのが見ないでもわかる。

 性格的に緊張しているかと思ったが、むしろリラックスできているようだ。


 転移ゲートの目の前で集合だったのでそのまま一気にファンブル洞穴に移動する、入り口は魔物の口のような形の巨大な岩で、中に入ると熱気と冷気を左右から同時に感じる。

 急いで雪山の方に向かったブラムドとアストラの前には、狙いのモンスターの集団が早速現れるのだった。

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