2話「鍛冶屋顔ナシ」
「ブラムドさんは何であんな所にいたんですか?」
簡単な自己紹介を終え、アストラと名乗った少女はブラムドに恐る恐るといった様子で問いかけてくる。
自己紹介のときにも言っていたがアストラは引っ込み思案のようで、常に警戒しているかのようにびくびくとしている
「新武器をあそこのモンスターがドロップするって聞いてな、嘘だとは思ったけど気になって来てみたんだ。まあ案の定、ドロップなんてしなかったが」
「!! ……そう、ですか……」
「??」
返事を聞いて驚いたようにこちらを見てきたアストラは、がっかりしたように肩を落とす。
よくわからないがアストラもその噂を信じていたようだ。
「そういうお前はどうなんだ?? 装備を見るに始めてから2、3ヶ月、レベルは20くらいだろ」
「はい、三ヶ月目の28レベです。凄いですね、見ただけでそこまでわかるなんて」
最近始めた初心者で店売り装備の最上級を使ってるのはだいたいその位のレベル帯だ。
ちなみにAOにはPLレベルの他に職業レベル、武器レベルがある。
PLレベルは戦闘系なら戦闘、生産系なら戦闘もしくは生産を行うことで上がっていき、レベルが上がるごとに全てのステータスが上昇する。
職業レベルは戦闘系は同じだが、生産系は生産のみでレベルが上昇する、レベルが上がるごとにステータスに補正がかかったりその職業に応じたスキル、パッシブスキルを手に入れたりすることができる。
武器スキルは戦闘で対応する武器を使うことによって上がるレベルで、一定のレベルになるとスキルを習得することができるが、基本的にはその武器以外で使用することはできない。
また職業によっては装備できない武器もある、鍛冶屋は専門職業が必要な武器以外は全て装備できるので、ブラムドにはあまり関係はないが。
「その位のレベルなら無理してあんなとこに来ない方がいいだろ、いくらクドの森が初心者向けとはいえそのレベルじゃパーティーでも苦戦する。」
「はい……そうなんですが……」
「……何か理由でもあったのか??」
「実は私もあそこで新しい武器が見つかったっていう話は聞いていたんです。私達ぐらいのレベルでは鍛冶屋の方に依頼することも難しいので……」
「あそこで出るって武器を狙いにきたと」
「正確にはあそこで出ると噂の武器と交換なら防具一式を譲ってくれるという方がいて、それで狙いに……」
「あー……」
おそらくそいつは冗談で言ったつもりなんだろうが、真面目そうなアストラはそれを真に受けてしまったようだ。
それほど初心者層の装備事情は重大なのだろう。
「そうは言ってもそこまでして焦る必要はあるか? 時間はかかるがモンスターのドロップする装備をゆっくりと集めていけばいいじゃないか。わざわざデスペナの危険を犯してまでやることじゃないさ」
「はい、私もそう思って一緒にAOを始めた子と一緒に狩っていたんですがまったくドロップしなくって……」
「あー……」
AOはモンスターのアイテムドロップ率自体は普通なのだが装備のドロップ率は他のゲームと比べて極端に低い。
沢山の種類の中の極一部のモンスターのみがドロップして、なおかつそのドロップ率も超低確率、おまけにドロップしたとしても性能がそれに見合っているかはランダムだ、正直やってられるもんじゃない。
「一緒に始めた子……エルちゃんっていうですけど、エルちゃんも最近それが原因で飽き始めちゃって」
ソロプレイをしていたのはそのためだったようだ、悲しそうに顔を伏せながらアストラは言葉を続ける。
「私、人見知りが激しくて現実でも友達少なくて、エルちゃんが初めて親友って言える友達だったんです。このゲームを始めたきっかけもエルちゃんに誘われたからで、最初はVRMMOっていろんな人と話すことになるんだろうなってちょっと心配でした。でもやってみてすごく楽しくって、少しですけどAOの友達もできて…… 私まだまだAOで遊んでいたいんです、エルちゃんと一緒に! その為に……」
話しているうちに感極まってしまったのか、アストラの前髪で隠れた瞳から涙が流れ頬を伝っていく。
その様子からアストラの友達への思いがどれだけ強いかが感じられる、ブラムドは少し考えるように黙った後、先程よりすこし優しい声音でアストラを慰める。
「本当にその子のことが好きなんだな。それに、アストラが優しい子だってのが良くわかったよ」
「そ、そんなこと、ありません」
「ははっ。それでなアストラ、お前たちの問題を解決するいい方法があるんだ、町に戻ってからちょっと付き合ってもらえないか?」
「えっ……えっと」
アストラの顔にわずかな警戒の色が浮かぶ、自分を助けてくれた人間とはいえ男からいきなりこんな事を言われたら誰でも警戒するか。
配慮が足りなかったと反省しながら誤解を解く言葉を考える。
「ああすまん、いきなりこんな事言われたら誰だって警戒するよな。『顔ナシ』って聞いたことあるか」
「はい、聞いたことがあります。高レベルの鍛冶屋の方で気に入ったお客ならレベルの関係なく仕事を受ける変わった人だって」
はははっ、と乾いた笑いを浮かべる。いい加減、変わり者と言われ始めてから大分たつが未だに聞くと苦笑してしまう。
「実は俺のことなんだよ、顔ナシって」
「ええっ!? で、でも皆冗談で言ってるだけで本当にいるなんて誰も…… 所詮は都市伝説だって……」
「気に入ったやつ以外の依頼は受けないし鍛冶屋とも言わないからな。依頼主にも口止めするから漏れる心配はない」
「そ、そうなんですか……」
「信じられないとは思うがとりあえず騙されたと思って付いてきてみないか。アストラ、お前は面白い奴だし協力してやりたいと思ったんだ」
「それってもしかして……私たちの装備を作ってくれるってことですか!?」
無言で頷く俺を見て悩むアストラだったが、数秒後には決心が着いたようだ。
歩く足に力がこもったアストラを連れ、ブラムドは自分の家に帰っていった。