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1話「戦闘」

 太陽の光を遮るように辺り一面に生い茂っている木々……『クドの森』というこのエリアはAOの広大なエリアの中でも簡単な方に属するエリアだ。

 初心者がすすめられるエリアと言えばここというほど定番で、ブラムドは森の奥に行くまでの間に何人もの初心者プレイヤーと出くわしていた。


 AOは首都ソーンロミオと呼ばれるプレイヤーが生活するための街から直接転移することでエリアを行き来する。

 一部レベル制限のある場所もあるが大抵の場所はいつからでも行くことができる、かといって難易度がまったく一緒というわけではもちろんない。

 クドの森の中ですら入り口と奥の難易度は天地の差で、今ブラムドがいる辺りならばパーティー上限の6人で組んだとしても初心者は返り討ちに合うだろう。

 逆にいえばそんな場所をたいして警戒することもなくドンドンと進んでいっているブラムドの実力がよくわかる。


「……糞が。ここのモンスターが新武器落とすってのはやっぱりガセか」


 手元の端末を弄りながらブラムドが呟く、端末にはAO内から接続できる掲示板の[クドの森で新武器発見!]という題名のスレが表示されている。


 遡る事数時間前、一向に訪れる気配のない客を待ちながら店で端末の情報を流し読みしていたブラムドは、先の新武器の話を目にした。

 鍛冶屋としての性か野次馬根性か、何の証拠もないその話を信じるものなどいなかったが、万が一の可能性に賭けてこうして足を運んでみたものの……やはりソースのない情報など信じるべきではなかった。


 ブラムドの近くには無数のドロップアイテムが散らばっている、二時間近くかけた結果だがその中には新武器どころか剣の一本も存在しない。

 目ぼしいものは少ないがそれでもいくつか使えそうな物を見繕ってアイテムボックスに入れていると、ブラムドの耳に自然の音に隠れてしまいそうな小さな悲鳴が聞こえた。

 悲鳴は遠いところから微かに聞こえて来る程度だったが、声の主はこちらに近づいてきているようでだんだんとそれははっきりと聞こえるようになる。


 茂みに隠れながらそちらを見ると、植物型のモンスター三体に囲まれた少女が地面に寝転がっていた。

 逃げているうちに転んでしまったようで泥だけの装備は、店売りの中で魔法使いとしては最高の物だ、だがここにくるにしてはあまりに頼りない。

 あれでは攻撃をクリティカルに貰えば一撃で死んでしまうだろう。


「シュルルルルルッ!!」

「ひっ……こ、こないでくださいいい!!」


 涙目になって杖を振るう少女だが、剣士でもない彼女が闇雲に振って当たるはずもなく、植物型のモンスターは距離をジリジリと詰めていく。

 その光景は追い詰められた獲物そのものだ、見ていて正直いたたまれない。


 本来ならここは見なかったことにするのが正解だ、コツコツレベルを上げる大切さは何度も死んでから自分で気付くべきことで、ブラムドが助けたのではそれを理解することができない。

 だがそれはあくまで一般論だ、ブラムドとしては彼女の成長など知ったことではない、重要なのは自分にとってどちらが面白くなるかだ。


 茂みから勢いよく飛び出す、数メートルなどブラムドにとっては無いようなものだ。

 背中に差していた身体と同じほどのサイズの大剣『カルテッタ』を振り下ろす。

 カルテッタの刃はモンスターの身体に半ば折るように入り込む、背後からの不意打ちをまともに喰らったモンスターは真っ二つに割れ、光の粒子になって消えた。


「大丈夫か!?」

「えっ!? はっ、はい」


 ようやくこちらの存在を認識した1人と2匹、少女は突然の事に脳がついていかないようで以前倒れたまま動こうとしない。

 仕方なく庇うように2匹と少女の間に割り込むと、モンスターが枝のような腕をムチのようにしならせて振るってくる。

 カルテッタの刀身でそれを払い、そのまま無防備な本体に投げつける。

 投げられたカルテッタの切っ先は丁度モンスターの頭に当たる部分に突き刺さる。


「あっ危な……い……」


 少女の残りの1匹の攻撃を知らせる言葉を聞き終わる前に、左手で懐から取り出したナイフを三本飛ばす。

 ナイフには即効性の痺れ薬を塗っていて、モンスターの動きを完全に縛り付ける。

 動けなくなったモンスターに近づいて装備ボックスから取り出したハンドアックスで首を刎ねると戦闘は終了だ、わずかな経験地とゴールドが視界の右上にある数字に加算される。


 使い終わったハンドアックスをボックスに戻し、カルテッタを背中に差しなおしながら背後にいる少女に声をかける。


「ダメージは……ないっぽいね。よかった」

「ありがとうございます! お強いんですね」

「強くないよ、君がここに来るようなレベルじゃないだけさ。今の奴だってここらじゃ一番弱いモンスターで適正レベルなら1人でも何とかなるはずだよ」

「す、すいません……」


 申し訳なさそうに頭を垂れる様子を見ると、自分が分布相応な場所に来ている自覚はあるようだ。

 手を貸して立たせると、少女の目線はブラムドの肩ほどまでしかない、AOでは身長と性別は変更できないので現実でも小柄な子なのだろう。

 一方、見た目はいくらでも変更可能なのでかなり現実離れした容姿をしている。

 水色の髪は長く伸ばされており前髪は目が隠れるほどで、後ろ髪は束ねて前に垂らされている。

 また珍しいことにオッドアイのようだ、AOではキャラクターメイクにランダムでいくつかの変化が起こる場合がある。

 オッドアイもその一つで彼女の場合右目は髪と同じ水色、左目は鮮やかな黄色になっている。


「あの……あ、あんまり見ないで下さい……」

「あっ、すまない」


 少女の前髪が長いのはそれを隠す意味もあるようで、ブラムドが目を覗き込んでいるのに気付くと慌てた様子で前髪を整える。

 整え終えた彼女の目は完全に前髪で遮られた。

 なんとなくもう少し見ていたかったのだが嫌がる彼女に頼んでまで見たいわけではない。

 とりあえずブラムドは一つ提案をしてみることにした。


「俺は今から町に戻るところだったんだけど君はどうする?? 付いてくるなら安全は保障できるけど」

「わ、私は……」


 推奨レベルを越えていないエリアでの魔法使いのソロプレイは熟練者でもキツイ、おそらく入り口辺りでレベリングをするのに飽きて奥に来てしまったのだろうが今ので懲りただろう。

 喜んでついてくると思ったが、少女は思いのほか歯切れの悪い態度だ、顔は何かを悩むように歪ませている。

 折角助けたのだからわざわざここに置いていったんでは意味がない、続けてこういう。


「もしかしたら君も理由が合ってここにいるのかもしれないけど、急ぎじゃないなら言うとおりに付いて来たほうがいいよ。デスペナの重さは知ってるでしょ?」

「……はい、じゃあすいませんがお願いします」

「ああ、悪いな嫌味っぽい言い方でしか言えなくて。口下手なもんで」

「いえ、助けて頂いたうえにこうして送って貰うのですから謝るのは私のほうです」


 笑顔を返すと、少女の方もさきほどの悩み顔を止めわずかに頬を緩ませた。

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