「あれだけ降ると言われていた雨が、今日はまったく降らなかった」
「降ったのは星くらいですよ」
緑色の瞳で彼は星を見上げる。
「今日は流星群か何かなのか?」
俺も同じようにベンチに座って、空を眺めながら言った。
「今朝、ニュースでそんなことを言っていたような気がしますが」
「ほう。俺の部屋には、ラジオしか無いし、朝は寝てるから全然知らなかった」
俺は殺し屋。
夜七時に出勤して仕事を受け、支度をする。大抵八時頃には現場に向かう。
仕事は一日に何件もあるから、終わるのは深夜から早朝になる。
今日は仕事は全く無い、週に一度の休日。
「朝は寝てるんですか。でしたら、夜勤、でしょうか?」
真面目そうなこの男は、この公園の近くに住んでいる大学生である。小さなアパートに下宿して一人暮らし。
茶色の髪がさらさら揺れていた。
「んー、ちょっと違うがそんなところかな」
「ちょっと違うんですか」
「確かに、いつもならこの時間は現場でやってる頃だし…」
「現場で?」
ああ、危ない。表現的にはまだセーフだろうが、連想させるかもしれない。
「ああ、そう。現場だ。決まった場所じゃないけどな」
「えっと、工事とかでしょうか?」
「いや…、違うな。お前にはきっと分かんねえよ」
真面目そうなこの男のことだから、殺し屋とかヘッドハンターとか、思い浮かびもしないだろう。
「それで?雨が降らなかったってのが嫌なのか?」
「別にそうではありません。あんなに言っていたのに降らないから、天気予報の信頼度はガタ落ちでしょうと予報しますよ」
「は。なる程な。お前の予報は信用できそうだ」
「さてどうでしょう」
彼は星空から視線を下に下げる。俺はその姿を見つめた。
「どうしましたか?僕をじっと見て」
「別に。大学生とはいえこんな時間に出てて大丈夫なのかと思ってさ」
「いいんですよ。明日は土曜ですよ?」
「ああ、そうか。普通のやつとは休みが違うから忘れてた」
「ふふ。そうだなあ…。もう一つ予報です」
「もう一つ?」
「明日、貴方は僕を殺しに来るでしょう」