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レジェンド オブ ソルナド  作者: ポンタロー
2/18

光の章 第一節

どもども~


ポンタローです~


ヘタレ作家でございます~


今回は、ポンタロー初の本格ファンタジーにチャレンジしてみました~


よろしくです~


ちなみに、ノクターンノベルスさんの方に、デスゲームっぽいダークな感じの作品『デザイアゲーム』を。

ピクシブさんの方に、エッチィ感じの(艦これとかガンダムビルドファイターズトライとか)二次創作を載せさせていただいておりますので、そちらの方もよろしくです~


ではでは~


光の章 第一節 


ソルナド暦一〇一五年。

どこまでも続く澄んだ青空。そんな気持ちのいい空の下、一台の馬車が街道を進んでいく。

 ラーゼン王国商業都市グラナ。ミドスとアドン両国のちょうど中間に位置するラーゼン王国、その中にあるこの都市は古くから商業が発展し、今やミドスとアドン両国の王都と並ぶほどの大都市へと成長を遂げた。

 そんなグラナへの街道を進む一台の馬車。その馬車を操っているのは一人の少女だった。

 ぱっちりとした大きな碧色の瞳に、スラリとした無駄な肉の一切付いてないその肢体。胸部を守るプレートアーマーを着け、白いプリーツスカートを穿いたその少女は、妖精を思わせる長く美しい銀色の髪をなびかせて、颯爽と馬車を駆っている。その姿は、街道をすれ違う人々の目をことごとく引き付けていた。

 これで愛想笑いの一つでも浮かべていれば、さぞ可憐に見えたのだろうが、少女の顔は今、不機嫌という言葉を完璧なまでに体現したような仏頂面だった。

 それもそのはず、本来馬車というのは従者が駆るべきものだ。従者のいない一人旅ならまだしも、もし従者がいるのであれば、当然従者が馬車を駆り、主人はその後ろで悠然としているものである。そう、本来ならば。

 つまり、本来主人である自分が馬車を駆る必要などどこにもない。従者がいるのだから。   

 こんなことは従者にやらせればよいのだ。そう、本来ならば。

 しかし現実は逆で、主人である自分が馬車を駆り、従者であるはずの者は、後ろで敷き詰められた藁の上に寝転がって大きないびきを掻いている。

 少女、ピュア・フェアリスは思った。

 自分は選択を間違えたのではないかと。



遡ること一週間前。

ピュアはいきなりピンチに陥っていた。

暗くなる前に次の宿場町に着くはずが、生来の方向オンチから毎度の如く森で迷子に陥り、すっかり周りが暗くなったと思えば、いきなり十数人の野盗に囲まれていた。

「ぐへへ、いい女だなあ」

「こりゃ、上玉だ。楽しみだぜ」

「はあはあ、とりあえず引ん剥こうぜ、頭あ」

 そう言って、鼻息を荒くしながらお決まりの下っ端文句を垂れる野盗A、B、C。

 しかし、ザコはザコながら数は多い。ピュアも一対一ならば負けることなどまずないが、さすがに十数人相手ではいささか分が悪かった。

 一時退却して体勢を整えたいが、残念ながら退路を完全に塞がれており、どこにも逃げ場がない。

 さて、困った。このままでは、自分は確実にこの野盗共にいいようにされ、少年少女にはとても聞かせることができないようなことをあれこれされてしまうだろう。

 どうするべきか……

 そんな時だった。野盗の後ろからのんびりとした声が上がったのは。

「あのー、大丈夫ですかー?」

 野盗達も突然の声に驚き、慌てて後ろを見る。

 そして、そこに一瞬の隙が生まれた。

 ピュアは素早く野盗の囲みを突破し、声の主と合流する。

 そこにいたのは、長身痩躯の少年だった。年のころはピュアと同じか、やや若い。綺麗なブロンドの髪に、澄んだ青い瞳。旅人の標準装備と言っていい、動きやすいフード付きのローブに身を包み、手には短めのワンドを持って、心配そうな表情でこちらを見つめている。

 少年を見たピュアの最初の感想は、お前の方こそ大丈夫か? であった。

 少年は黙って立っていればそこそこの美男子に見えなくもないが、今その顔は、いつ倒れても不思議でないと思うほどに青白かった。初めは色白なだけかと思ったが、どう見ても体調が悪そうに見える。時々ゴホゴホと咳き込みながら、少年は再び口を開いた。

「よかったゴホ。ご無事だったんですねゴホ」

 激しく咳き込みながら安否を気遣う少年に、ピュアは状況も忘れて思わずツッコミを入れる。

「私よりもお前の方が倒れそうに見えるが?」

 ピュアの言葉に、少年は僅かに口を笑みの形にして返した。

「ご心配なさらずゴホ。生まれつき体が弱いものでゴホ。すぐに治まりますのでゴホ、少々お待ちくださいグヘ!」

 どこをどう見れば、その状態を見て心配せずにいられるのか甚だ疑問ではあったが、助けられたことは事実なのでピュアはそれ以上何も言わなかった。

 あまりに珍妙なその光景をしばし呆然と見ていた野盗達は、ようやく正気に返ったのか慌てて叫び出す。

「てめえ、舐めた真似しやがって!」

「こうなりゃ、二人まとめて生かして帰さねえぞ!」

「はあはあ、女、女、おんなああああ!」

などと、口々に頭の悪そうな台詞を吐く野盗その1、その2、その3を尻目に、ピュアは素早く決断を下した。

 それすなわち退却である。

 こんな野盗を何人倒したところで何の得になる訳でもなし、そもそもこの人数を一人で相手にする理由もない。幸い退路はできた。この妙な病弱少年のおかげで。

 ピュアは少年に声をかける。

「おい、逃げるぞ!」

「えっ? あっ、はいゴホ」

 ピュアの言葉に、少年は咳き込みながら頷いた。

 そして、二人は襲ってくる野盗をかわしながらの逃避行を開始した。


 しかし、その逃避行はあっさりと頓挫する。

「へへ、もう逃がさねえぜ」

「グフフ、さあ、お仕置きの時間だ」

「女、女、おんなあああああああ!」

 気が付くと、二人はまたも道に迷い、四苦八苦している内に野盗に追い詰められていた(もっとも、少年はピュアの後を付いていっただけなので、厳密には先導したピュア一人のせいだったりする)。

「はあはあ、くそ」

「はあゴホ、はあゴホ、困りましたねーゴホ」

 荒く息をしながら悪態を吐くピュアと、野盗よりも自分の体調の方が心配そうな咳き込み少年の二人。再びピンチが訪れていた。

 さて、どうするか、ピュアは判断に迷っていた。

 先ほどと違い、完全に包囲された訳ではないので退路はある。全力で走れば逃げ切ることは可能だろう。自分一人ならば。

 しかし今、自分は荷物を一つ抱えている。

 隣で激しく咳き込み、今にも倒れそうな雰囲気の少年を。

 こいつを囮にして、そのままとんずらするという考えが一瞬頭をよぎったが、結果的に少年の行動によって自分が救われたのは事実なので、見捨てるのは後味が悪かった。

 さて、ではどうするか……

「あのー、何でこの人達、倒さないんですか?」

「は?」

 ピュアは、目の前の咳き込み少年が何を言っているのか分からなかった。

 そんなピュアの心中などお構いなしに少年は続ける。

「逃げるのも疲れてきたし、この人達を倒しちゃった方が手っ取り早いと思うんですけど」

 どうやら聞き間違いではなかったらしい。 

 ピュアは自分の眉間に指を押し当てながら言った。

「馬鹿を言うな。相手が何人いると思っている?」

「たかだか十数人じゃないんですか?」

 ピュアの言葉に少年が間髪入れずに答える。ピュアは若干、目眩を覚えた。

「そうだ。十数人だ。五、六人ならともかく、あれだけいてはさすがに分が悪い。それくらいのことは……」

「じゃあ、僕がやりましょうか?」

 少年がお使いにでも行くかのような軽い口調で言った。

 ピュアはそのあまりに予想外の発言に呆然となる。

「僕がやりましょうか? って、お前……」

「まあまあ、見ててくださいよ。こんな一束いくらの虫けら野盗くらい、パパっとやっちゃいますから」

 そう言って、ピュアの前に立つ咳き込み少年。

 しかし、当然の如くその言葉を聞いた野盗達が黙っているはずもなかった。

「なんだと、クラァ!」

「もういっぺん言ってみろ、コラアア!」

「男はいらねえ。さっさと殺そ」

などと、お約束の下っ端コメントを続けている。

 少年は、そんな下っ端ワン、ツー、スリーを小馬鹿にするような口調で言った。

「あれー、聞こえませんでしたかゴホ? 頭だけじゃなくて耳まで悪いんですねゴホ。いいですか、あなた方みたいな虫けら相手に、わざわざこの僕が遊んであげようと言っているんです。さあ、とっととかかってきてくださいゴホ、虫けらさん」

 ところどころ咳き込みながら、野盗達を貶し倒す少年。

そして、当然の如く野盗達の堪忍袋の緒はぶち切れた。

「てめええ、ぶっ殺す!」

「八つ裂きにしてやっからなあああ!」

「へへ、殺せ、殺せ」

 我先にと少年に襲い掛かる野盗達。

 しかし、少年は全く動じずにポツリと呟いた。

「爆ぜろ、業火よ。エクスプロージョン」

 少年がそう言葉を発した直後、飛びかかる野盗達の前に、突如爆発が起こった。

 規模こそ小さいものの、直撃を受けた野盗達は、あるいは焼かれ、あるいは吹き飛ばされと全員が悲痛な叫びを上げている。

 一瞬の出来事だった。あの人数を、まさしく瞬殺。

「さて、じゃあ行きましょうか」

 まるで、畑仕事でも終えた後のように軽い調子で言う少年に、ピュアはただ頷くことしかできなかった。


 時刻は深夜、ピュアは咳き込み少年に連れられて、何とか目的地の宿場町までたどり着いた。

 辺りは真っ暗。店のほとんどは閉まっており、宿屋の店先には軒並み満室の札がかかっている。

 ピュアは大きくため息を吐いた。

「はあ、まあ当然か……」

 ずっと森を彷徨い歩いた挙句にこの仕打ち。ピュアの目から涙がこみ上げてきた。

「ゴホ、まあ無理もないですね」

 咳き込み少年がピュアの隣で咳き込みながらも冷静に答える。

 空腹と疲労で若干イラついていたピュアは、少年の言葉に思わず悪態を吐いた。

「まったく、お前が最初から野盗共を倒していたら・・」

「おや、確かいきなり逃げることを選択したのはあなただったと記憶していますが?」

「…………」

 その通りだった。いきなり逃げること選択したのはピュア自身。少年に責はない。

「おまけに森で迷子になったのもあなたのせいだったと思いましたが……違いましたかね?」

「…………」

 少年の火に油を注ぐような正論に、ピュアの顔がヒクヒクと痙攣する。

「はあ、自分の落ち度を人のせいにするだなんて、どういう教育を受けているのか……」

「やかましい!」

 いきなりピュアが叫んだ。俗に言う逆ギレである。

「何なのだお前は? 先ほどから皮肉ばかり並べおって。相手を気遣うということを知らんのか?」

「今のあなたにそれを言う資格はないと思いますが?」

「うぐっ!」 

 またしても正論が返ってくる。ピュアの怒りのボルテージがまた上がった。

「いい度胸だ。貴様に紳士としての態度を教えてやる。名を名乗れ」

「人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るものだと思いますけど?」

「…………」

 完璧なまでの正論連発に、ピュアは完全に沈黙した。それでも必死に何か言おうと口をパクパクさせるが、また何か言い返されるのが怖くて何も言えない。

「まあ、いいです。これ以上言うのも可哀想だから僕から名乗りますよ。僕の名はライ。見ての通り魔法士です」

 ライがその場で優雅に一礼する。

「……ピュア・フェアリス。旅の剣士だ」

 ピュアは悔しそうな表情を浮かべながらも、ボソボソと返した。

 ピュアの言葉にライが驚いたように目を丸くする。

「へえ、剣士様だったんですか? 僕はてっきり迷子のお嬢様かと思いましたよ。はっはっは」

「ぐむっ!」

 全く悪びれずにしれっと言うライに、ピュアは思わず口篭った。

 言い返したいが、何も言い返せない。

「で、ピュアさんは何故旅なんかしてるんですか?」

「……悪者退治」

「は?」

「悪者退治だ! 悪いか!」

 思わず聞き返したライの耳元でピュアが思い切り叫ぶ。ライの体が、まるでハンマーで殴られたかのように硬直した。

「わ、悪者退治って、さっき野盗相手に逃げてましたよね?」

「うっ! あ、あれは敵の人数が多かったから、体勢を立て直そうと思っただけだ。いわば、戦略的撤退というやつだな。うんうん」

 ピュアの苦しい言い訳に、ライがふむふむと頷いて再び口を開く。

「なるほど、ではその戦略的撤退の後、森で迷子になった挙句に、またしても野盗に取り囲まれてしまったのにも何か戦略的な理由があるのですね? いや、すみません。僕はてっきり、あなたが生まれつきのどうしようもない方向オンチで、一旦逃げてはみたものの、また道に迷って、あっさりと同じ状況になってしまったのか思いましたよ。はっはっは。あっ、そうだ。もしよろしければ、その戦略的な理由というのを聞かせてもらえませんか? 今後の参考にしたいので」

「ふぐっ!」

 駄目だ、とピュアは思った。どうやら自分がいくら言い繕っても、この少年には通じないらしい。

 ピュアは、何だか自分のみじめさ加減に泣けてきた。

「ぐすっ」

「うわ! 何でいきなり泣き出すんですか? 勘弁してくださいよ。まるで、僕がいじめているみたいじゃないですか」

 いきなり泣き始めたピュアに、先ほどまでの余裕が消え、慌てふためくライ。ピュアの目がキランと光った。これだ! と。

「ぐすっ、いじめられた」

「人聞きの悪いこと言わないでください。いじめてませんよ」

「こんなところまで連れてこられた」

「連れてこられたって、森の中をずっと彷徨っているよりはいいでしょうが」

「ぐすっ、宿屋に連れ込もうとしてる」

「な・ん・で、そうなるんですか? 僕はあなたになんて興味ありませんよ」

「ぐすっ、侮辱された」

「だあああ! いったい何がしたいんですか、あなたは? 僕に何をさせたいんです?」

 ピュアの目が妖しく光る。かかった、と。

「……従者になれ」

「は?」

「従者になれ!」

 目をまん丸にして聞き返すライに、ピュアが顔を見られないように俯きながら答える。

 ライはまだピュアの言っていることがよく分からないのか、大きな疑問符を顔に貼り付けていた。

「精神的慰謝料の代わりに、従者として私の旅に同行しろ」

「いや、どこをどう辿ったらそういう結論に行き着くんですか?」

「断ったら、森を歩いていたところを無理やり拉致されて、部屋に連れ込まれそうになっていると騒ぐ」

「やりたんならどうぞご自由に。どうせ皆寝てますから誰も聞いて……」

「すうーーー」

 ピュアは大きく息を吸うと……

「助けてーー! 犯されるーーー! いやーーー! 触らなぐむっ」

と叫んだが、いきなりライに口を塞がれて最後まで言うことはできなかった。

「分かった。分かりましたよ。従者になればいいんでしょ。分かりましたからもう叫ばないでください」

 ライがそう言ったの確認して、ピュアが内心でほくそ笑む。ライがぼそぼそと「先ほどの野盗よりも、よほどタチが悪い」などと言っているのが聞こえたが、当然ピュアは聞こえないフリをした。


 結局、町中を見て回ったが空いている宿は見つからず、仕方なく遅くまでやっている酒場で夜を明かすことになった二人。

 その酒場が宿屋を兼ねていることを密かに期待したが、残念ながらそう都合よくはいかなかった。

 こんな時間帯にも関わらず、店内はかなりの人で賑わっている。

 手近なテーブル席に着いた二人が、店のウエイトレスにオーダーを頼む。

「ミルクを頼む」

と、ピュア。

「僕は冷えた麦酒ビールをいっぱアイタ!」

 酒を頼もうとしたライに、どこから取り出したのかピュアの大型ハリセンが炸裂した。

「痛いですね! 何するんですか!」

 涙目で抗議するライ。

「馬鹿者。子供が酒なんか頼むな。果実汁ジュースにしろ」

「子供って、僕はもう一七ですよ」

「まだ一七だ。私は一九だぞ。年上の忠告は聞いておくものだ」

「さっきまでピーピー泣いてたくせに」

「何か言ったか?」

「いいえ、何も」

 再びハリセンを構えたピュアに、ライが慌てて首を振る。

「お待たせしましたー」

 そこで、ウエイトレスが飲み物を持ってきた。

 ライが助かったとばかりに果実汁を受け取り、それを片手に話題を変える。

「で、さっき悪者退治とか言ってましたけど、あなたは賞金稼ぎなんですか?」

「むっ、いや違う。私は賞金になど興味はない。ただ、ファリア大陸にのさばる悪を見過ごせないだけだ」

「でも、さっきはやと……すいません、何でもありません」

 チラリと見えたハリセンに、すぐさま言おうとした台詞を飲み込むライ。

 そして、しばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開く。

「で、具体的に倒したい相手とかいるんですか?」

 その言葉を待ってましたと言わんばかりに、ピュアが大きく胸を張って言い放った。

「決まっている。闇騎士だ!」

「「「ぶっーーー!」」」

 自信たっぷりに言い放ったピュアの宣言に、その場で酒を飲んでいた客の大半が噴き出した(噴き出さなかったのは、店の片隅でチビチビと飲んでいた、耳の遠そうな老人ただ一人)。

「お嬢ちゃん、志は立派だが悪いことは言わねえ、闇騎士はやめときな。あいつはやばすぎる」

 隣のテーブルに座っていた禿頭の大男が、ピュアにそう警告する。

「そうそう、一流の賞金稼ぎや各国の近衛騎士団でさえ手を焼いてるんだ。お嬢ちゃんじゃ無理無理。命を捨てに行くようなもんだ」

 店内から口々に悲観的な声が響く。

 言い返そうと口を開くピュアをライが制した。

「確かに、闇騎士はちょっと相手が悪いですね。向こうは政治家や貴族ばかりを狙う超一流の暗殺者ですよ。その素性は全て謎に包まれており、正体は不明。かろうじて分かっているのが、全身黒ずくめで顔に真っ黒な面を着けていることだけ。何せ見た者が全員死んでいますからね。まあ殺された者の大半が、私腹を肥やすことしか考えていない悪党ばかりなのは幸いですが、さすがに相手が……」

「馬鹿者!」

 ライの言葉をピュアが一喝する。

「最初から負けることを考えていては大事は成せない。最後まであきらめない者にこそソルナドは微笑むのだ。闇騎士を倒して、私はファリア大陸を平和にする。そう、かつて黒いマナを放出していたソルナドに突入し、見事に生還したファリア大勇士ライ・アバロン様のように」

「ぶっ!」

 ピュアの言葉を聞いたライが、飲んでいた果実汁を盛大に噴き出した。その果実汁が、見事に目の前にいたピュアに直撃する。

「……ライ」

ゴゴゴという効果音と共に、ピュアがゆっくりとハリセンを構える。ピュアは滴る果実汁を拭おうともしなかった。

「私は今、ちょっと良い話をしていたつもりなんだがな。それをこんな形で中断してくれるとは。フフフ、私の従者は本当にいい度胸をしている」

 殺意全開のピュアに、ライは慌てて弁明を開始した。

「あ、あなたがいきなり噴き出すようなことを言うのが悪いんですよ。ライ・アバロンみたいになりたいとか」

「それの何が悪い?」

「いや、悪くはありませんが、おかしいでしょ? 野盗相手に手こずっているあなたが、ライ・アバロンみたいになりたいとか」

「ほう、高い目標を持つことがそんなにおかしいことか?」

「うぐっ」

 珍しくライが後手に回っている。どうやらピュアは、キレると頭の回転が上がるようだ。

「と、とにかく、あなたが変なことを言うからこうなったんです。僕は悪くありません」

「ふん、まるで自分がライ・アバロン様を知っているかのような口ぶりだな。……待てよ」

「ギクッ!」

 ピュアの視線に、ライの肩が一瞬跳ね上がった。

「お前の名前もライだよな? そういえば、ライ・アバロン様の容姿も確か……」

「ギクギクッ!」

 ピュアの疑惑の視線を受けたライは、脂汗を流しながら、顔を背けている。

 交錯する二人の視線。しかし、やがてピュアが、ライに向けていた疑惑の視線を緩めた。

「……そんなわけないか。ライ・アバロン様は私よりずっと年上のはずだ。どう見ても私より若いお前がライ・アバロン様のわけがない」

 そう言って、とりあえずピュアはそれ以上の追求を避けた。

「とにかく、私の目的は闇騎士を倒すことだ。お前も従者としてきっちり私の手助けをしてもらう」

「はいはい、分かりましたよ」

 さも当然のように言い放つピュアに、ライが不承不承といった感じで頷く。

 しかし、その後ライがポツリと独り言のように呟いた。

「まあ、私にも目的がありますからね」

 その呟きをしっかりと聞いていたピュアがライに尋ねる。

「何だ、お前にも目的があるのか?言ってみろ。主人として聞いておきたい」

 早くも主人面全開のピュアに、ライは大きくため息を吐いて答えた。

「エリクサーが欲しいんです」

「エリクサー? あの医療大国メディアスの国宝エリクサーか?」

「はい」

 驚きに目を丸くするピュアに、ライが大きく頷いた。

 エリクサー。どんな病もたちどころに治してしまうという医療大国メディアスの国宝で、その値段は一国を揺るがすとも言われており、別名幻の秘薬と呼ばれていた。

「見ての通りの病弱者ですので、今まで色んな薬を試してみたんですが、今一つ効果が見られず、これはもうエリクサーにでも頼るしかないかなーなんて思いまして」

「しかし、あれはメディアスの国宝だぞ。そう簡単には……」

「まあ、それはメディアスに着いてから考えますよ。とりあえず行ってみないことには始まりませ……トントン」

 話の途中で肩を叩かれたライが後ろを振り向くと、そこには酒場の店主と思われる老人が立っていた。

「お客さん、店じまいだよ」

 気が付くと、すでに日が昇っている。

 半ば強制的に店を追い出された二人は、決意を新たに出発しようとした。

「よし。行くぞ、ライ!」

「ええ、ピュア!」

 そして、二人は旅立った。

 空室ありと書かれた宿屋へと。



とまあこんな感じで共に旅をするようになった二人。

 しかし、この咳き込み少年ライとの旅は、ピュアの想像より遥かにハードだった。

 何しろこの男、こと戦闘にこそ非凡な力を発揮するものの、病弱なため徒歩での長距離移動ができない。ひどい時など五キロルと歩かぬうちにダウンである。

 これでは移動するだけで老後を迎えてしまう恐れを感じたピュアは、ほぼ全財産をはたいて馬車を購入。それほど大金を持っていたわけではないので、中古の馬車と年老いた老馬しか買えなかったが、そんなこんなで現在に至るのであった。


 そして、その馬車を現在ピュアが駆っている。

 主人であるはずの自分が。本来なら後ろでのんびりとしているはずの自分が。

 まあ、ライに運転を任せて、咳き込んだ拍子に崖から転落でもしようものなら目も当てられないので、致し方ないといえばそれまでだが。

 それでもやはり、どこか腑に落ちないピュアであった。

「いやー、すみませんねー、ピュア。ご迷惑ばかりかけちゃって」

「うわっ、びっくりした! 急に出てくるな、馬鹿者!」

 いつの間に起きたのか、いきなり後ろから声をかけるライ。

 ピュアが驚いた拍子に、手綱を持つ手がわずかに緩み、馬車が大きくバランスを崩した。

「のわっ! 危ないですね。ちゃんと前見て運転してくださいよ」

「お・ま・え・のせいだろうが! いいから大人しくしてろ! 馬鹿!」

 ライの言葉に、ピュアが手綱を操りながらも大きく叫ぶ。

「あのー、ちなみにあとどれくらいでグラナに着きそうですか?」

「そうだな。だいたいあと二時間ほどだが、何でだ?」

「いやー、お腹空いちゃ……あべしっ!」

 図々しくも空腹を訴えるライをハリセンで一閃し、ピュアは大きくため息を吐いた。


▲▲▲

ソルナド暦???

 男は叫んでいた。それは慟哭だった。

 声帯が引きちぎれるのではないかというほどの魂の慟哭。

 もう声は出ていない。少し前に男の声帯はその活動を停止していた。まるで、一生分の声を出し尽くしてしまったかのように。

 声と共にこの想いも全て出尽くしてしまえばいいのに。そう、男は思った。

 しかし、男の願いは叶わなかった。

 後から後から想いが溢れてくる。いくら涙と共に吐き出そうとしても、それは少しも減ることはなかった。どうしようもなかった。それほどに、愛していた。

 男は小さなペンダントを握り締めていた。古ぼけた露店で買った小さなペンダント。自分が彼女に買った物だ。

 露店でじっと見ていた彼女に、半ば押し付けるようにしてペンダントを渡す。

 彼女はそれを喜んで受け取った。

 その時の彼女の顔が脳裏によぎる。満面の笑みを浮かべて嬉しそうに微笑む彼女に、男は一瞬見惚れてしまった。表情にこそ出さなかったが、彼女の喜ぶ顔を見る度に自分の心の奥が熱くなるのが分かった。

 それは、男が今までの生涯で一度も感じたことのない感覚。しかし、男にとってそれは決して不快なものではなかった。

 しかし、その彼女はもうどこにもいない。もう、この世界のどこにも彼女はいない。

 どれだけ探しても、もういない。もう、逢えない。もう、抱きしめることもできない。

 残ったのはこのペンダントだけ。彼女の身に着けていたこのペンダントだけ。そこに残った彼女の温もりもとうに消え、今は冷えた金属の感触しかない。

 男は問いかける。いもしない、何かに問いかける。

 何故だ? 何故彼女が死ななければならない?

 何故、何の罪もない、ただ幸せに生きることを望んだだけの彼女が死んで、その他大勢の生きる価値のない奴らが生きている?

 私欲を満たすことしか考えていない為政者や、殺しと略奪しか頭にない山賊や盗賊の類。

 彼女に生きる権利がないのなら、何故奴らにはそれがある? こいつらこそ、いなくなった方がよほどこの世界のためではないか。

 男の脳裏に、自分が今まで見てきた人間達の顔が浮かぶ。

 それらは皆、笑顔だった。幸せそうに微笑む顔もあれば、自らの欲望を満たすことしか考えていない醜く歪んだ笑顔もある。

 しかし、男にとってそれらは全て同じに見えた。その全てが彼女の死を嘲笑っているかに見えた。何故、彼女が死んだのに貴様らは笑っている? 何故、貴様らはのうのうと生きている?

 男は我慢できなかった。彼女のいないこの世界に我慢できなかった。彼女が死に、その他大勢が生きているのが我慢できなかった。

 故に、男は……

 ……この世界を叩き潰すことを決意した。

▲▲▲


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