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レジェンド オブ ソルナド  作者: ポンタロー
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闇の章 終節

闇の章 終節


 自分の中の時間が止まってから四年、カルは、ずっと乾きと戦ってきた。

 それは、何をしても満たされない心の渇き。何をしても、何を見ても満たされることはない。

 それほど、時が止まる前の時間は幸せだった。

 何をしても幸せ。会話しているだけで幸せ、一緒に歩くだけで幸せ。一緒にいるだけで幸せ。

 そう、その時の自分は幸せだった。隣に彼女さえいてくれたら。

 彼女と一緒にいるだけで、彼女と話しているだけで自分は幸せだった。

 しかし、そんな夢の時間はあまりにも早く、そしてあっさりと終わりを迎えた。

 彼女を失ったカルに残ったのは、深い絶望と激しい怒り。

 その後カルは、本当に彼女との思い出を全て壊そうとした。

 しかし、それができなかった。どうしてもできなかった。

 その行為は、少女の生きてきた証を消してしまうことだと思ったから。

 そして、カルは抜け殻になった。

 その後に訪れたのは、地獄のような灰色の世界だった。

 見る風景、見る人物が全て灰色。どれ一つとして自分の心には残らない。

 しばらくして、灰色なのは周りではなく、自分の心なのだと気づく。

 しかし、自分にはどうすることもできない。何をしても、灰色の乾いた心は満たされない。

 そこでカルは気が付いた。こんな世界など、自分にとって何の価値もないことに気が付いた。

 ならば、どうする? 壊してしまえばいい。それができるのだから。

 そして、カルは闇騎士となった。


 しかし、本当に壊したいのは、世界ではなく自分だった。

 もうこの世界で生きていることに疲れた自分だった。

 自ら命を絶つという選択肢もあったが、カルはそれを選ばなかった。

 何故か? 自分の愛した彼女のオリジナルに会いたかったからだ。

 そのオリジナルが、自分の愛した彼女でないことは百も承知している。

 しかし、心のどこかで願っていた。そのオリジナルが、自分の愛した彼女と全く同じであることを。

 もしそうなら、自分の乾きは満たされるかもしれない。

 そう思い、カルは彼女の残したペンダントを握りしめ、彼女の願った、争いのない綺麗な世界を作るために人を殺め続けた。


 そして、奇妙なめぐりあわせから、カルは、自分の愛した彼女のオリジナルと出会った。

 敵対する立場として。

 しかし、彼女のオリジナルと出会ってカルに湧き起こった感情は、歓喜ではなく、怒りだった。

 自分の愛する彼女が死んで、オリジナルが生きている、ということに対する怒りだった。

 無論、それは理不尽な怒り以外の何物でもない。

 しかし、カルにはそれが我慢できなかった。

 しかも、どういう偶然か、自分のドッペルゲンガーと一緒にいる。

 それもカルには我慢できなかった。

 カルは、あっさりと自分のドッペルゲンガーを始末した。

 彼女のオリジナルに、自分と同じ絶望を味わわせてやりたかったからだ。

 そして、カルの狙い通りに、彼女のオリジナルは絶望した。

 カルの心に、歪んだ愉悦が湧き起こる。しかし、一瞬だけだった。

 その後に、また灰色の乾きがやってくる。

 そして、カルは諦めた。この世界で生きることを諦めた。



 そして今、カルは、ピュアの剣をその身に受けて横たわっている。

 激突の瞬間、カルはわざとその剣を引いた。

 もう生きていることに疲れたいうのが半分、そして、もう半分が見てしまったからだ。

 純白の剣を持って突っ込んでくるピュアに、自分の愛した彼女の姿を。

 自分の愛した女を殺せるはずがない。

 そして、カルは剣を引いた。それこそが、カルにとっての必然だった。

 薄れゆく意識の中、風が散り逝く者の想いを運ぶ。

(ソルナドよ。もしも生まれ変わることができるなら、俺はもう力などいらない。名誉などいらない。ただ、あいつと笑って暮らせる世界が欲しい。あいつの好きなたくさんの花に囲まれて、あいつとずっと一緒にいられる、ただそれだけの優しい世界が欲しい。

 それだけで、十分だ)


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