第一章 居合剣道 (1)
ピヨピヨピヨピヨ~
朝靄がはれ、上空高く小鳥たちが舞う青空を薄れ行く意識の中で見ていた。
「この時代にも・・こんな蒼い空があったのか・・・」
「皆のところへ行 く よ・・・」
さほど大きくも無いが、数百年前から鎮座する古い神社の境内で仰向けに倒れた青年が笑みを浮かべながら息絶えた。
2015年(平成二七年)春 京都伏見
明けかける朝靄から太陽の光が木々や大地を照らして行く。
春の風に時には強く、また時には優しく桜の花びらが舞い、横たわる青年の顔や、周りに落ちて来る。
第一章 居合剣道
イヤァ! 篭手! いっぽぉん!
「また赤城の勝ちかよ、これで昨年同様決勝戦は、お前と赤城って事か」
「剣術だか居合だかしらんが、今年も俺が勝つ」
「お前の強さはわかってるが、赤城の奴去年よりはるかに成長してるぜ、いや剣道にも精通しているって感じか・・・ 今の篭手も後の先でほとんど動かずに決めやがった」
チッ!赤城を睨みながら舌打ちをする
「あほんだら、こっちも尋常じゃねえ速さで成長してんだよ! 赤城に負けるわけねえだろうが」
「確かにな、お前は一般成人にも勝って優勝するほどの奴だったわな」
オォ赤城今年も楽しみにしてたぜ~
せんぱあい!格好いい!
準決勝を勝利で戻って行く赤城にヤンヤの歓声が響く、部員たちも赤城に寄って来た。
「赤城さすがやな、あとは佐々木だけや、去年の雪辱戦となったな。」
「あぁ、森田先輩 ありがとうございます。 でも雪辱戦って、去年は完敗でしたからあの佐々木さんに勝てるかどうか・・・ 胸を借りるつもりでやりす。」
「ははは、赤城は気が小せいのか神経が図太いのか良くわからんなあ」
森田の笑う横から、赤城と同期の池波肇が眉間にしわを寄せながらぼそぼそと喋りだした。
「正太郎、佐々木の奴等こっちを見ながら居合の真似事して笑ってやがら」
「池波、相手にするな。佐々木が一番赤城の怖さを知ってるからな、ああでもやって紛らしてるんや。それにお前が勝負する訳でもないんや、外野の俺たちが騒ぐと反対に赤城の負担になるぞ」
「すみせん、森田さんの言うとおりですね」
池波が苦笑いしながら部員たちの最後尾で佐々木の方をチラチラ見ながら控え室へと去って行った。
池波肇は、赤城達数人と剣術居合術の道場に通っており、佐々木がいつもこの道場の事で剣道に劣ると馬鹿にするのが気に入らなかったのである
赤城正太郎 京都円明学園高校二年生 剣道部弐段
10歳の頃より町の無名道場にて剣術・居合術を習う。体格は165センチ53キロと小柄ではあるが、天武の才能と練習熱心なせいもありすでに四段の腕前である。道場の宗家も目を掛け実力は道場一となっていた。またまわりの者からは、平成の宮本武蔵と言われる事もあった。
森田要 京都円明学園高校三年生 剣道部主将参段
幼少の頃より祖父に剣術・居合の手ほどきを受け、彼もまた四段の腕前を持つ。
赤城とは同門の先輩となり、兄貴の様な存在でお互い切磋琢磨してきた間柄でもある。
円明学園に赤城と池波を誘ったのも彼で、この学園の創始者は彼の先祖でもあった。
池波肇 京都円明学園高校二年生 剣道部弐段
赤城とは中学からの同級生で、赤城の影響もあり彼もまた同じ道場へ3年前から通っていて、弐段をもらっていた。身長178センチ筋肉隆々、チャラケた様な陽気な性格で、赤城とは対照的ではあったがお互い気が合うらしくいつも一緒にいる仲だ。
「あ~あ~ 決勝戦は、午後一時より開始となります」
場内放送が館内に響きわたり、関係者や観戦していた者達が、トイレに立ったり弁当を広げたりと騒動しくなっていた。
円明学園剣道部員達六名も、顧問の瀬戸を前に裏庭ですでに昼食を取り始めていた。
端から三年の森田要、仲里裕樹、
二年の赤城正太郎、池波肇、平山康太、
一年の前田郡司と決まりが有る訳では無いが、上下関係がはっきりわかる位置で座っていた。
「45分しかないが、赤城君は弁当食べれるかね」
「いえ、自分は止めときます。」
顧問の瀬戸と赤城の遣り取りを聞くなり、一年の前田郡司が喋りだした。
「先生、赤城先輩はいつも試合や練習直前には何も食べないじゃないですかあ、それよりも決勝に向けてアドバイスとか何かないんですかあ」
ハハハ、瀬戸が頭を掻きながら申し訳無さそうに笑っていた。
瀬戸は、剣道部の顧問ではあるが、まったくのど素人でどちらかと言うと裏方の世話係り的な存在であった。
「郡司!先生にため口利くな。それより赤城の分の弁当は残さずお前が食っておけよ」
池波が前田の頭を小突きながら、さっさと食えと顎で合図していた。
前田はこの大会に、憧れの赤城や森田らと共に六名の枠に1年の自分が選ばれた事で、数日来よりハイテンションとなっていたのだ、しかし試合は二回戦で佐々木と当たり散々な目に終わっていた。
円明学園剣道部には一八名の部員がいるが、今大会は大阪、京都、奈良、の各高校より六名の参加による個人トーナメント戦となっている。
参加出来なかった部員達は観客席から応援をおくっていた。
この大会は、2013年(平成二五年)より大阪府、京都府、奈良県の合同で
高校三連強化大会として新たに開始された大会なのである。
開催は毎年10月となっており、開催地は大阪ー京都ー奈良と毎年代わっており
今年は第二回目で京都の武徳殿での開催となっていた。
佐々木庄三郎は一人木陰で瞑想に耽て40分も過ぎていた。
彼も赤城同様昼食を摂らずに休憩時間を次の試合に集中していたのである。
仲間内では強気でいるが、赤城の強さは身に沁みるほどわかっていた。
去年の決勝では勝ちはしたものの一本は取れなかったのである。
自分自身の成長は、去年とは比べ物にはならいと実感はしている。しかし赤城の成長もあきらかに見て取れた。
「やはり突きか・・・」
戦術を決めたのか、ボソッと呟きながら試合会場へ歩き出した。
佐々木庄三郎 大阪北河内高校三年生 剣道部主将参段
祖父に剣道の英才教育を受け、以後今日に至るまで剣道一筋に生きて来た。
佐々木は1歳の時に両親を無くし、祖父と二人暮らしとなるが、その祖父も佐々木が中学に上がるとすぐ他界してしまう。
その後は、現在通う高校の剣道部顧問の夫婦に育てられていた。
そうした環境も影響するのか、気性が強く荒っぽい人間であった。また体格も身長が180センチも有り、周りの不良からも恐れられる存在になっていた。
ただいまより平成二六年度第二回高校三連強化大会決勝戦を行います。
アナウンスが始まり、両者の名前が呼ばれると会場内から大歓声が響きわたる。
俺はこの二人の勝負を見たくて来たんだ!
待ってました~、平成の巌流島対決!
佐々木!、今年こそ一本で決めてやれェ
「ほお流石佐々木ですねえ、すごい応援じゃないですか」
観客席にいた剣道雑誌の記者が、びっくりしながら別の雑誌記者達に話し掛けていた。
「いやいや、赤城のファンも結構いますよ。なんせ昨年の大会で彗星の如く現れて、決勝で佐々木を苦しめたんですからねえ。しかも剣道歴1年にも満たない1年生が」
「お!月間秘伝丸さんも見ましたか、あの佐々木の高速技がすべて決まらなかったもんなあ、それどころかもし戦国時代での戦だったら明らかに佐々木は脚の動脈を斬られてましたよ!」
「いやいや、確かに戦ならね、でもこれはルールの有る剣道ですからねえ。剣道にまだ熟れていなかった赤城が、咄嗟の条件反射で体が剣術技として動いてしまった。これはどうし様も無い未熟さでしょう。剣道としてのね。」
「そうですね、確かに剣道の大会ですからね。でも僕は彼の居合剣道好きですよ」
「いやいや、私も赤城は好きですよ! 今年の赤城は剣道にもかなり力を入れたんじゃないでしょうか。去年の戦い方とは別人ですよ!剣術家の戦い方で、剣道をいとも間単に斬っているって感じがする、これって剣道も良くわかってる証拠でしょう。」
「おお、始まりますよ!」
審判の始めと共に、会場が一気に静まり返る。審査員も観客も二人に釘付けとなって、誰も声を出さなくなった。
佐々木は、高正眼の構えで剣先を赤城の目に合わせている。
赤城は、腰を少し落とした状態で、剣先がほぼ真上に向いた状態で正中より若干右に寄せて構えていた。
お互い構えを崩さないまま、ゆっくりと右回りに動く。
赤城の動きは独特で、まるでそのまま氷の上を滑る様に動いていた。
佐々木も摺り足ではあるが、膝のバネを使うようにリズミカルで微妙な動きがあり、少しづつ間合いも詰めていた。
カサカサと外の木々が揺れると同時に二人の間に風が抜けた。
刹那、佐々木がものすごい速さで得意な上段からの高速な打ち込みに入った。
赤城も同時に反応し、佐々木の素早い連続技をかわしていた。
・・なんだ、赤城のやつ去年と同じ受けにまわるのか・・
それならと、佐々木は赤城を蹴散らすかの様に押し進んだ。
・・いや違う、このまとわり付く様な感触はなんだ、去年には無かった・・
佐々木は心の中で自問しながらも手を緩めてなかった。
・・やつは打ち返してなんかいない!俺の竹刀に絡み付きながら俺を誘導してやがる・・
「あぶねっ! 正中取りやがった」
佐々木が一気に後ろへ跳ねた。と同時に目の前に尋常では無い速さで竹刀が風を斬った。
と、すかさず胴へ二の太刀が飛んで来ていた。
佐々木は赤城の同払いをかわす事が出来るのか、
それともこのまま赤城に軍配が上がるのか・・・
第一章 居合剣道(2)へ続く