絶壁に広がる街、ロナウ
文中で、魔導機関の説明を補足しました。前半でエンジンと表記していましたが、魔法で動く機構全般を指すように修正しました。
イールカの街を出て、岩肌のごつごつとした街道を丸一日。不毛の山脈を越えると山の麓の盆地にイールカから続く河の流れる深い谷間とそれを挟むようにポッカリと丸い深い縦穴がある。魔導機関の街ロナウだ。
縦穴の直径は、約300m、深さにして30m。上から見ると記号のΦの真ん中がないような形で、壁面はほぼ垂直。その穴の周りを幅5mほどの地下へと続くらせん状の道が底へと続いている。
縦穴の底に広がる工業区と壁面に穴をあけて作った家々が並ぶ居住区からなる街である。
夕方も過ぎ、夜分に差し掛かるころにイクサス率いるコウタ達一行は、その長いらせん状の道を下り終え、工業区の入り口にある騎士団の詰所に到着。
夜も遅かった為、簡単な食事を済ませて一行は就寝した。
◆ 翌朝、詰所前にて ◆
「おはよう諸君。今日より一週間の任務を発表する。まず初日からの前半は、各種施設の調査などを行い、後半からは、坑道内の視察を行う。任務中に特に問題がなければ最後、ポータルで首都に帰還する。以上だ。」
イクサスさんの朝礼も終わり、まずは工業区内の建物の視察に移っていく。
工業区内には、魔導機関を研究する研究所。魔導機関を作り出す工房。
そして魔導機関の燃料となる魔晶石を作る燃料製作プラントの三つの建物がある。
ぶっちゃけ魔導機関は、アズール国の軍事機密も多分に含まれている為、自分と農業省役人であるパウロさんは、同行を許されていない。
「それにしても、ここまで来たのに建物を見学できないってなんかつまらないですね。パウロさん。」
「まあ、しょうがないですよ。何分、軍事機密があるそうですから。魔導機関その物は見れませんが、その燃料で鉱石と、その鉱石から作られた魔晶石という物質。あとは完成した日常に使われる魔導機関は見れるそうですよ。」
「おお、見てみたいですね。さっそく行きましょう。」
こうして、パウロさんと鉱石の加工プラントに向かうことになる。
ついた鉱石置き場は、吹きさらしの四方を塀に囲まれた空き地だった。所々に黒光りする鉱石の山が並んでいるだけだ。
山から黒曜石の様な鉱石をひとかけらを手にする。手にしてみると黒曜石の様にガラス状のようではあるが手で簡単に崩れていくほどにもろい。
「そんにしても、かなりの量がありますね。」
「ええ、このロナウの壁面には四方八方の坑道が伸びており、今でも毎日沢山の鉱石が採掘されています。」
「なるほど、ここは数年前から採掘がはじまったと聞き及んでいましたが、こんなにもろい地層で崩落とか大丈夫なんですか?あと、鉱石を採りつくしたらどうするんですか?」
「それには、心配及びませんよ。この鉱石には面白い性質がありまして、月光石と呼ばれる輝く石の光にあに当たると脆くなる性質があるんですよ。光に当たる前は、それはそれは硬くてツルハシが刃こぼれする位です。採掘するときは、その部分に月光石の光を当てて採掘します。また、この鉱石は、ある程度経つとまた坑道内に結晶化して生えてきます。」
「それなら安心ですね。」
こうして鉱石置き場をさらに奥に進んでいくと、木の組み木で出来た大きな水車が見えてきた。
先ほどの鉱石を粉末にするために、水力を利用して槌を動かしているようだ。
ドッスン・・ ドスン・・・ ドッスン・・ ドスン・・・
「大きな水車ですね。」
「ええ、ここロナウは大陸中の魔晶石のおよそ6割を生産していますからね。それなりに設備は大きいですよ。」
「なるほど、6割を生産しているなら納得ですね。ちなみに今動いている水車の隣にもう一つ水車がありますけど、あちらは動かさないんですか?」
「あちらは、動かさないのではなくて動かせないんですよ今は。ここロナウを流れる河は首都から来る河につながっていますが、地上から地底湖にたまり、そこが溢れてここに流れてくると言われています。その地底湖は複数あり、溢れる湖によって河の流れが変わるんですよ。」
「じゃあ、流れが変わったらそちらの水車を使うってことなんですね。」
「ええ、その通りですよ。さて、ここまで見てきたのであとは魔晶石作る工程だけですがここからは、軍事機密にかかるので、プラント内は見れないそうです。最後に、出来上がった魔晶石が手元にあるのでそれでも見ましょう。」
そういうと、パウロさんが懐から黒光りをしたゴルフボールほどの正八面体の物体と火のともっていないカンテラを取り出した。
「これが魔晶石と、魔導機関を利用したカンテラですよ。」
そいうとい、魔晶石とカンテラを手渡してくれた。
ふむふむ、どうやら魔晶石はあの鉱石から作り出したガラス状の結晶の様だ。それにしてもこの形、黒光りした小型ラ〇エルさん・・
「ちなみに、どうやって使うんですか?」
「それはですねえ、カンテラの上蓋を開けて魔晶石を入れるんですよ。魔導機関とは、動力だけでなく熱や光をも生み出すことができる一種の魔術回路のことなんです。コレの場合は、光ですけどね。」
上蓋を開けて魔晶石をカンテラに入れるとカンテラが青白い光を放ち始めた。
「おお、キレイですね。いまいち仕組みが解りませんがすごいです。」
「ええ、まだ魔導機関自体は作り始められたばかりですからね。技術自体は、魔法大国ハーネスとの軍事協定で共同開発です。さて、ここはこれくらいにして昼ごはんでも食べにきましょうか。」
「あい。パウロさん。」
こうして、魔晶石精製プラントの見学を終えて午後はロナウの食糧事情調査という名の下の、食べ歩きに奔走したのであった。
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