(2) 寂しさの末、傷つけてしまう。
寂しさの末、傷つけてしまう。
目を覚ますと、そこには見覚えのあるくまのぬいぐるみがあった。一瞬辺りが光ったと思えば、自分の姿は其のぬいぐるみになっていた。
「お帰り、優奈」
背後から、ユウが声をかける。
「あ・・・れ、私、またこの世界に呼ばれたの?」
「そうだよ。いつでも呼んでいいって言ったよね?それに、今の君は自分の世界にとても不満を持っているようだから・・・」
「うん・・・」
ユウは優しく話しかける。
「嫌な事は忘れて、遊ぼうじゃないか」
しかし、優奈は下を見つめたまま、小さな声で呟いた。
「・・・今はそんな気分じゃないの。ごめん、元の世界に返してくれないかな?」
「え・・・どうして?」
ユウは優奈の言葉が理解しきれない様だ。
「私、もうお母さんを傷つけたくない。また今度、遊ぼう?」
『お母さん』という言葉を聞き、表情こそ見えないがユウの心が大きく動揺したのを優奈は感じた。
「お母さん・・・私には、その温もりが分からない。そんなの、どうだっていい・・・ねぇ、遊ぼうよ」
ユウはフラフラと優奈に近づく。
「嫌ッ!!」
咄嗟に、そんな言葉が口をつく。優奈は様子がおかしいユウに恐怖の感情を抱き、彼女から逃げた。扉を開けて外に出ようとしたが、まるで開ける事は出来ない・・・
「無駄だよ。私には魔術が使えるのだから・・・あなたを、逃しはしない・・・」
いつしかユウの優しい性格は激変し、不気味なピエロのお面が優奈を睨みつけている。
「・・・!!」
カーテンを開けて窓から逃げようとした優奈は、外の世界を目の当たりにして絶句した。
何と、建物という建物は全て崩壊し、人の気配は全くない。所々から黒煙が立ち昇り、不穏な空気が街を沈めている。
そう言えば、優奈がこの世界へ来たばかりの頃、森を抜けた時にこのような景色を一瞬目撃していた。楽しい遊びの中でいつしか忘れてしまっていたのだが。
「ど、どういうこと!?」
扉と同様、窓を開けることも出来なかった。
優奈はユウを、危険人物であるかのような眼差しで見つめながらそう問うた。
「そう・・・この世界は、愚かな人間の仕業で壊れてしまったの・・・。戦争という殺し合いの中で、人は人を傷つけ合って・・・」